第133話 シスという少女

「その前に。」

と師匠が老紳士を遮って言葉を発する。

「まずはルーク、あんたから自己紹介しな。」

との言葉を貰う。

「分かりました。」

師匠に頷き、私は彼らに顔を向けた。

「お初にお目にかかります。私はルーク。先程師匠からのご紹介にあったように、ミリア師匠の元で魔法について学んでおります。それと、こちらの仮面ですが。」

と仮面を触り、仮面を外さない無礼を謝ろうとしたところ、

「ルーク。」

またも師匠が口を開く。

「なんですか?師匠。」

と返せば、

「その仮面だがね。外してごらん。」


一瞬師匠が何を言っているのか理解できなかった。

「えーと、師匠。本気ですか?」

「もちろんじゃよ。」

そう答える師匠。

少し悩む。これが他の人から言われたなら、何を言っているのかと一蹴するが、他ならぬ師匠の言葉だ。

決して適当な言葉ではないだろう。

「分かりました。」

結局、私は悩みながらも師匠の言葉に従うことにした。

このやり取りを聞いて、老紳士と女吸血鬼の2人が怪訝そうにしているのが伝わる。

「お待たせしました。では。」

そう言って私は仮面に手を伸ばしたのだ。



ピチャピチャ。


まあ、この音が結果を物語っているだろう。

老紳士と女吸血鬼の口から吐瀉物が吐き出される。

例の修行の成果はまだ遠いようだ。


ん?

老紳士と女吸血鬼?

「やっぱりね。」

師匠が納得したように言う。

何がやっぱりなのか。

きっと、答えは1つ目の少女だろう。

私は急いで仮面につけ、吐いている2人に謝罪した後、少女へと声をかけた。

「あなたは、その、吐き気はしないのですか?」

「しないみたいですね。その口ぶりだと、2人の様子が普通なのでしょうか。」

その透明感がある声は、彼女の纏う雰囲気にとてもよく合っていた。

「あなたは、一体。」

私の問いに、口を開いたのは師匠だった。

「それは儂が答えよう。じゃが、その前に。」

「その前に。」

「掃除じゃな。」

「あ、はい。」


というわけで気を取り直し。

今は、全員テーブルを囲んで席に座っている。

老紳士と女吸血鬼のぐったりした様子を見ると申し訳なさがこみ上げるのだが。

「じゃあ、改めて。全員と知り合いの儂から紹介するとしようかの。ギスダスもそれで良いかの?」

「ええ、ナイア様のお手を煩わせますが、お願いします。」

ギスダスと呼ばれた老紳士が、顔色ではよくわからないのだが、全身の雰囲気をぐったりとさせながら、呟いた。

「じゃあ、まずはルークの紹介からやり直すかの。」

そう言って私に目を向けた後、3人へと視線を飛ばす。

「もう一度言うが、こやつは儂の弟子じゃ。そして、人間でもある。」

私が人間であることが伝わると、3人の目が見開かれた。

師匠は構わず話し続ける。

「ま、色々と手伝ってもらう予定でな。ここに連れてきたんじゃよ。」

「そうでしたか。」

と呟くギスダスなる老紳士。

「人間って初めてみました。」

そう呟く1つ目のお嬢さん。

女吸血鬼のカーラさんは黙っている。


その後、師匠の紹介は3人側に移っていく。

「じゃあ、まずはそこの鱗族の男ギスダスじゃがな。」

どうやらこの人は鱗族と言うらしい。リザードマンとかではないようだ。

「こいつは、一応ワードル帝国の宰相。中央政府のトップじゃな。」

「なるほど。」

「え?」

「まあ、細かくは後で本人から聞けばいいとして。」

どうも流させれたが。

「で、そっちの娘は吸血鬼族のカーラじゃな。護衛隊の隊長をしておる。」

どうやら、この女性は女吸血鬼で合っていたようだ。

それにしても、護衛隊とは。

つまり、この場に護衛を必要とする人物がいると言うことだ。

そしてさっきからの様子からその対象はおそらく。

「それで最後じゃが、真ん中に座っているのが、現ワドール帝国皇帝シス=ホトースじゃよ。」

「え?」

流石にこれは流せない。

「え?皇帝、ですか?」

と混乱していると、

「そうだ!さっきから思っていたが、頭が高いぞ、ルークとやら!」

と、カーラさんから声が飛ぶ。

咄嗟に私は跪き、

「も、申し訳ありません!」

と喋っていた。


いや、途中で見た城ならまだしも、一国の皇帝や宰相やらがなぜここに。

護衛をつけるにも、1人ではすくないだろう。いや、どこかに潜んでいるのか。

それにしても、まさか一国の皇帝が?

後、何故かドスンという音が聞こえたが姿勢の関係で何も見えない。


混乱する私に声をかけたの、まさにその少女だった。

「ルークさん。」

それは先ほどと同じ透明感のある綺麗な声。優しく耳に馴染む。

「はっ。」

私はこうべを垂れ声を出した。

「どうか楽にしてください。」

「しかし、」

「大丈夫です。ですからどうか、もう一度椅子に座って。」

促され、悩んでいると

「いいから、さっさと座りな。」

と師匠からも言われてしまう。

結局私は椅子に戻った。

目の前には一つ目の少女改めシス=ホトースと言うらしい皇帝である少女の姿がある。

というか、何故かカーラさんが机に突っ伏しているのだが。


未だ混乱した頭を抱えつつ、私とシスとの初めての邂逅は続くのだった。

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