第127話 親友

「今日は疲れたじゃろ。よくお休み。」

師匠のその言葉を受け、私は自分の部屋に入る。


カダスにて多くの話を聞いた後、私はミリア師匠に連れられて村を案内された。

村は私が思っていた以上に文明的で鍛治仕事なども出来るようになっていた。

もちろん素材などは大部分を外部に依存しているのだろうが、魔物の皮や骨といった素材を工夫して使っていると教えてもらった。

また子どもたちについても、教育の機会が与えられ、魔族と人間の違いについても村人達は理解しているそうだ。

違いを理解しているということは、つまり本質的に同質であることを理解するということでもある。

また全員が全員、犯罪者やその子孫というわけではなく、例えば門番の2人などはそれぞれから派遣された兵士らしい。

もちろん土地の特殊性から、ここに来る兵士はかなり信頼されている者が選ばれるらしく、秘密の出世コースの1つらしい。

こうやって上層部候補にカダスを直接見せ、人間と魔族の融和に肯定的な人間を増やす狙いもあるのだろう。

結局、簡単に村を案内された私は、師匠の空間魔法で家に戻り夕食をとって、今に至るのだ。


部屋に入ると既に日は落ちたため、真っ暗だ。

当たり前だが、森の中であるここは街に比べ夜は暗い。

私は素直にベッドに潜り込み眠りにつく。



つもりだったのだが、そうはいかなかった。

目を閉じれば、カダスの風景が浮かんでくる。

人間と魔族。

元奴隷が森を越え、国を作り、魔族となって戦乱を迎えたが、ある女傑によって統一されたという歴史。


師匠の目的は分かった、と思う。

つまりは人間と魔族が戦争にならずに共存出来るようにしたいということだろう。

アザーのために。

では私はどうだろうか。

いや、師匠の助けになりたいとは思うが、具体的に師匠が私に何をさせたいのかが分からない。

先程の別れ際、しばらくは師匠について仕事を手伝って欲しいと言われ、了承を伝えた。

しかし、私に何が出来るのか。

今日聞かせてもらい見せてもらった範囲では順調に見えていたが。

なんて考えが浮かんではよくわからず消えていく。


やはり疲れていたのだろうか。

悩むうちに私は眠りへとつくのだった。



翌朝、私は一人でガインの街に向かう。

師匠は家で休むだそうだ。

あの人の行動パターンはガインに行くか、家で魔道具を作るか、だらけるか、何処かに行くかが多い。

まあ、その何処かは昨日教えてもらったが。

門をくぐり街に入る。

数日ぶりのはずなのだが、随分と久しぶりに感じるのは昨日の体験がそれだけ濃かったからだろう。

私は真っ直ぐにユニのいる道場へと向かった。



道場に着くと、残念ながらユニは外出だった。

「気持ちは分かるけど、そこまで露骨にがっかりしなくてもいいんじゃないかな。」

今私はテオと食事に来ている。

「いや、すまない。」

確かにテオの言う通りだ。

「それで、テオ達はいつ出るんだ?」

テオはアイラとともに宣教師の修行に行くと聞いている。

「来週かな。アイラも今日はその準備だしね。」

「そうだったのか。」

ユニに会えなかったのは、今日はマリーさんを含めて、ユニとアイラ達女性3人で出かけていたからだ。

まあ、準備云々というよりは、たまには女性だけで、ということになったのだろう。

「それにしてもさ。」

テオが口を開く。

「うん?」

「いや、ふと思ったんだよ。ルーク達と一緒に色々と見て回ったなって。」

「ああ、そうだな。」

その中でも一番大きな変化はきっとアイラとの出会いだろうけど、それ以外もガインの街どころかグラント王国にいるだけでは出来なかった経験と出会いがあった。

「で、それもルークが世界を見るなんて言わなければ、無かったんだなって思ったんだよ。」

「そうか。」

「うん。」

そしてまた黙るテオと私。

もう長い付き合いだ。

喋らずとも、側にいて安心できる。

ユニとはまた別の、私にとって大切な幼なじみだ。

せっかくの機会に聞いてみる。

「そういえば、テオはアイラのことをどう思ってるんだ?」

「うえ!?」

「おい、なんだその声。」

ただでさえ、黙っていれば美少女にしか見えないテオだから余計違和感を感じる。

「だ、だってルークが変なこと言うから。」

「いや、だからと言って慌て過ぎだろう。」

ほら、手元のお茶が溢れてる。

しばらく慌てるテオの姿を見ているが、落ち着いたテオは相変わらず赤い顔をしつつこう言った。

「ユニの気持ちが少し分かったよ。」

と。

それだけで、何を言いたいかは理解できた。

「そうか。」

まあ、私から見て、特に障害はないように思える。

これは修行を終える頃には、もしかしたらもしかするだろうか。

と思っていると、

「ルークこそ、ユニともっと進展してもいいんじゃない?恋人になったんだし。」

「な!?気づいてたのか?」

「そりゃ、そうだよ。黙ってたからこっちも言わなかったけど。」

それは気を遣わせたものだ。

そして、思っていた以上に気恥ずかしい。


その後も私達は互いに、気の置けない親友との会話を楽しむのだった。

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