第128話 街を歩くときには
結局、その日私は再度道場に向かうことはせずに、テオへと伝言を頼んで森に戻ることにした。
翌日、私は改めてガインの街に行く。
しかし今日は道場ではなく、街の中に作られた公園の1つに向かった。
流石に遊具の類はないが、小さい子どもが走り回れるような広さの中に、ベンチが置かれ、外周に木が植えられている。
ある程度大きな街だと、大抵ここのような公園を見ることが出来る。
住民の交流のためだったり市場の開催場所だったりとなかなか使われる機会は多いのだそうだ。
ガインは特にだが、城壁に囲まれている街の場合、こうやって住民が受ける圧迫感を減らしているのかもしれないな。
さて、待ち合わせの時間にはまだもう少しありそうだ。
鐘が鳴り、今が朝の10時だと教えてくれる。
程なく、ユニが現れた。
小走りに急いでこちらに向かっている。
「ごめん、待った?」
「いいや。私も今来たところだ。」
いつか交わした、まるで恋人のような、そんな言葉のやりとり。
違いがあるとすれば場所と、なによりもまるでではなく、本当の恋人同士だということだ。
今日のユニは、青いワンピース姿だ。
耳には、貝殻を加工した耳飾りをつけている。
どちらもこの旅の途中に買ったものだ。
天気に恵まれた今日。
吸い込まれるような青空を思わせる青色の上に、思えば随分と長くなった金色の髪が流れている。
その隙間から見える耳飾りは、買った時と同じように、陽の光を反射して虹色に輝いている。
いや、輝いているのはユニ自身か?
「ルーク。何か変なこと考えてる?」
そう言いながらユニが私の顔をしたから覗き込んでくる。
いかんな、私が呼び出したのだから黙っていては。
「すまない、ユニ。じゃあ、行こうか。」
そう言って私は手を差し出す。
「ん。」
そう呟いてから、私の手を取るユニの顔が赤いのは、きっと走ってきたから。
そういうことにしておこう。
私たちは街の中を手を繋いだまま歩いていく。
言葉はほとんどない。
時折、懐かしい道を見つけては、ユニが迷子になった、とか、テオが転んで泣いた、とか。
思い出話に花を咲かせている。
そう思うと、私は顔以外は無難に過ぎた幼少期だったものだ。
まあ、前世の経験があるから仕方ないのだが、何を言いたいかというと、子どもから見ればさぞ異質だったろうし、その私を受け入れてくれたユニとテオに改めて感謝だな。
私たちはさらに歩く。
ちなみに目的地は、ありふれた飲食店だ。
そこを選んだのは、大きな理由はない。
強いて言うなら、待ち合わせの公園から遠く、それだけ長くユニと居られるからだ。
とはいえ、私もユニも冒険者ということで、普通の人よりもかなり足は速い。
気づけば予想以上に早く目的地についていた。
私達は、少し物寂しさも感じつつ、店に入るのだった。
「ユニはいつ出るんだ?」
食事をとりつつ雑談をした後に、私はユニに問いかけた。
「ん。10日後。」
とのこと。よく聞けば、テオ達の翌日らしい。
「ルークは?」
「ん?」
「ルークはどうするの?」
「そうだな。」
師匠の手伝いをすることになっているが、結局何をするのかよくわかっていない上に、気軽に話していい内容でもない。
そのため、
「しばらくは師匠の手伝いだな。」
とだけ答える。嘘ではないし、普通こういえば魔道具の作成やその素材集めと思うだろう。
「ユニは、あの後ミリアーヌ様には会ったのか?」
確認だが、ユニはミリアーヌ様の護衛として共和国に約2年を過ごす。
「ううん、まだ。街を出る日に、一団がここに来る。」
それについて行くということだろう。
どうも会話が滑らかにいかないものだ。
意識しない時は、どんどん会話が続くし、会話が無いならないで苦にもしないのだが。
やはり、2年。
それだけ離れるのは初めてのお互い経験だ。
「ユ、」
「ルーク。」
何とは考えていなかったが、ユニの名前を言おうとした瞬間。
ユニの声が被る。
「どうした?」
「ん。」
促すが、ユニの口も思いようだ。
どうしようかと思っていると、結局ユニから言葉が発せられる。
「ルーク。忘れないでね。」
その問いと、ユニの泣きそうな表情に私は気を引き締めて、
「ああ。もちろんだ。」
そう答えるのだった。
忘れないで。何をとはあえて問わない。
問う必要もない。
もちろん、私がユニを忘れるはずがない。
だからといって彼女の不安を笑うことは出来ないだろう。
地球とは遠距離の重みが違うのだ。
言葉で不安を和らげても無くすことは出来ない。
だからこそ、行動で、結果で示すのだ。
2年後、笑って再開できるよう、今この時を大切に。
2年.私達にとって長いようで短い時間がすぐそばに迫っている。
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