第114話 師匠の知識

「と、言うわけです。」

「なるほどね。まあ、賢明だったんじゃ無いかい?そのカトリーヌとやらの誤解がどうであれ、嬢ちゃんからすれば啖呵を切っちまったんだ。会いたくは無いだろうよ。」

王都から急いで帰ってきた時の顛末を話した時の師匠の言葉だ。

そういえば、共和国でレイ様とミリアーヌ様の護衛をしたと伝えた際には顔を覆っていた。

まあ、私の事情を全て知っているミリア師匠ならそういう反応にもなるだろう。


また、思いがけない話も聞けた。

というのも、ゴランのダンジョンで大剣級と呼ばれることになったソードタイガーについて。

「そりゃ、その毒持ちのダンジョンアントのせいかもしれないね。」

「そうなのですか?しかし、せいと言われてもよく分かりませんが。」

「ああ。要は、その普通とは違うダンジョンアントを食べたせいで、ソードタイガーに異変が起きたのだろうさ。」

そう言われても、納得しがたいが。

私がそういう表情をしていたのだろう。

師匠が詳しく教えてくれる。

なお、私は家では仮面はとる。

相変わらず師匠は私の顔を見ても眉ひとつ動かさない。

「お前さん、王都で起こった愚王の話は知ってたかね。そういや儂は教えた覚えがないんじゃが。」

「ええ。確か本で読んだんだと思いますが、グレートレオが巨大化と暴走を起こした事件ですよね。まさか、同じ理由なのですか?」

「おそらくはね。滅多にあることじゃ無いし、教えそびれていたんじゃが、魔物はある条件を満たすと凶暴化や巨大化、もしくは身体の一部が変化することがあるんじゃよ。」

「その条件が、ダンジョンアント、ですか?」

「うむ。正確には、魔力を持った餌だね。まだ分かっていないことも多いんじゃが、魔力を持った餌を摂取することで魔物に変化が起こる場合がある。グレートレオの場合は愚王が大量の魔物の肉を毎日与えたのが原因だろうね。グレートレオも元々魔力のある餌は食べていただろうけど毎日じゃなかったはずさ。この森だって、普通の獣や果実はあるんだからね。」

「しかし、ソードタイガーは別に人に飼われていたわけではありませんが。」

「じゃから、その毒持ちのせいじゃというんじゃよ。餌の変化という環境の変化のせいじゃろうな。」

「しかし、そうなると今後ダンジョンのソードタイガーがは全て大剣級になってしまうのでしょうか?」

「それはおそらくないじゃろ。まあ、そう焦るでない。当たり前じゃが、魔力を含む餌を食べたからと言って、全てが巨大化するわけでも無い。どういった理由があるかはまだ分かっていないが、とにかく同じ環境、同じ種類の魔物でも巨大化する個体としない個体がいるんじゃ。」

「なるほど。」

考えられる理由はなんだろう。

例えば個体差があって、魔力の量の問題で、沢山の魔力を受け行け入れられる個体がいるのだろうか。

そう考えをいってみると、

「それはあるかもしれないね。もしくは、魔力の種類もあるかもしれない。ソードタイガーにしたって、今までも普通のダンジョンアントは餌にしていたわけだろう。ここに来て巨大化なんてことが起こったのは、もしかしたら毒持ちのダンジョンアントの魔力の質なり量なりが今までの普通の奴のとはかなり違っているのかもしれないね。」

「なるほど。魔力の質や量ですか。」

「そうさ。グレートレオの件も、毎日魔物の肉を食べていたそうだが、その量が問題なのか、それとも普段食べていない種類の餌のせいで体内の魔力のバランスが崩れたのかもしれないね。」

それなら今までは起こらなかった巨大化が急に起きた説明にはなる。

まあ、結局ここで話していても答えは分からないが、

「しかしギルドは、巨大化の理由が検討もついてないようでしたが。」

「まあ、今言ったのは儂が森で研究して多少なり分かったことじゃからな。もしかしたら学院でも一部の専門家なら知っているかもしれないが、今の話も残念じゃが、結局推測以上にはならん。共和国から研究者が行ったというならそのうち何かわかるかもしれないがの。まあ、仕方ない。ルークや、今度冒険者ギルドに行った時に、今教えたことを伝えてやりなさい。少しは役に立つじゃろう。」

「分かりましたが、師匠はよろしいのですか?」

「何がじゃ?」

「いえ。それこそもっと研究して学院ででも発表すれば大発見だと思いますが。」

「何を今更。忘れてるようだけど、儂は世捨て人のミリアだよ。この研究も半分趣味でやったようなものさ。今更名前を売りたいなんて思わないよ。」

そういう師匠の言葉に、しかし私も納得してしまう。

師匠の言葉はきっと長く生きたからこその言葉なのだろうが、私もあまり名誉だなんだということに関心が薄いのは、一度死んでいるからだろうか。

「まあ、師匠が構わないのでしたら、おっしゃるように今度ギルドで話してきましょう。」

ガインのギルドで話しておけば、あとはゴランのギルドには勝手に伝えてくれるだろう。


それにしても。

若く美しい姿の、しかし本人が言うには100年以上を生きているという師匠を見て、改めて不思議に思う。

最初は魔法がある世界だからぐらいにしか思っていなかったが、世界を見て回っても師匠のような存在に会うことはなかった。

そういえば魔法もある世界だが、ファンタジーでよく聞くエルフやオークという種族には合わなかったし話も聞かなかったな。


とはいえ、その知識と雰囲気はたしかに見た目相応ではない。

まあ、たまに子どもっぽいというか逆の意味で見た目相応でないこともあるのだが。


ミリア師匠。

もちろん拾われた恩も育てられた恩も忘れはしない。

師匠がどんな存在であれ、それは関係のないことだ。

関係のないことではあるが、それでもふと疑問に思う。

師匠、あなたは何者なのですか、と。

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