第113話 懐かしの我が家
ガインの街に近づいたところで、私はユニ達と別れる。
というのも、だ。
正確にいえばガインの街はユニ達にとっては故郷だが、私は違う。
カイゼル師匠達に会いたい気持ちもあるが、やはり帰ってきたからには最初に会いたい人はあの人だ。
ちなみにアイラは、道場に行って泊めてもらうことになっている。
前世でも弟のお嫁さん、つまり義妹と母があまりうまく行っていなかったことを思い出した。
ユニとテオの母であるマリーさんとの出会いがどうなるか不安になるのは、きっと余計な心配、だといいのだが。
まあ、実際杞憂だろうし、何かあってもユニがいれば大丈夫だろう。
決してその場面に居合わせるのが嫌で、別れたわけではない。
まあ、そんなわけで私は1人馬車から降り、門へと向かうユニ達を見送るのだった。
彼らの姿が見えなくなったところで、私も懐かしのエルバギウス大森林に向かって歩いていく。
今更だが、いくらガインの街が森の近くにあると言っても、流石に歩きでは1日以上の距離はある。
なので、周囲の目が届かないことを確認すると、さっさと空間魔法で、森の中の家に向かって飛ぶことにした。
空間魔法特有の穴に吸われ、その後吐き出されるような感覚の後、そこは懐かしい森の中だった。
木と土の匂い。
風が葉を揺らす音。
さらに遠くまで耳をすませば、鳥の鳴き声。
そして目の前には、住み慣れた木の家が建っている。
グラント王国に入ってすぐは薄かった帰ってきたという感慨が、強く心に湧く。
私は扉に向かって一歩ずつ歩き、そして
扉を開けて、家の中へと入るのだった。
「ミリア師匠。ただいま戻りました!」
家は無人で、私の言葉に帰ってくる声は無かった。
どうでもいいことだが、この家に鍵はない。
昔はあったそうだが、師匠が街に行った際に無くしてしまい、結果扉を魔法で叩き割る羽目になってから、新しい扉には鍵をつけなかったのだそうだ。
その師匠は、おそらく街に行っているのだろう。
思えばまだ日は高く、不思議ではない。
そうなると、場合によってはユニやテオが先にミリア師匠に会う可能性もあるわけで。
まあ、複雑でないといえば嘘になるが、それならそれで仕方ないだろう。
最近は分からないが、師匠は街に行った際にはガイウス師匠のところでお昼を食べ、その後雑談をしてくることが多い。
ならしばらくは帰らないだろう。
「それなら、折角だ。久しぶりに夕食でも作っておくか。」
そう決めた私は、冷蔵の魔道具の中を見ながらメニューを考える。
これも師匠の作品で、私を拾う前師匠が滅多に街に行かなくても良かった最大の理由だ。
「まあ、こんなものか。」
メニュー自体は無難にサラダと、野菜のスープ。
サラダは、野菜があったので、それを切って深皿に入れる。幸いトマトがあったので彩り的にも悪くない。
スープに関しては当然乾燥の出汁などはないので、厚めに切ったベーコンを入れて味を出す。もっと時間があれば骨などを煮込みたいところだが、出来れば完成した料理で師匠を出迎えたいので今日は我慢だ。香辛料なども入れたので、これはこれで素朴な旨味がある。
そしてメインだが、収納から牛肉のブロックを取り出す。確か、旅の途中買ってあった肉だが、買った時と変わった様子はない。
実は収納の中は時間の流れが異なる。これは以前、師匠からそう教わり、私自身も野菜などを使って実験した結果だ。
摘んだ花を入れて、1週間ごとに取り出して確認したが、水をやっているわけでもないのに萎れる様子もなかった。
これは、師匠の言う収納という魔法が別の世界を使っているという仮説を立証するのだろうか。
なんて毒にも薬にもならないことを考えるうちに、肉を切って焼いてしまう。あまりはまた収納だ。
味付けはシンプルに塩と胡椒。幸いこの家にはどちらもあるし、そもそもこの大陸ではどちらもそう高価なものでは無い。
そして本日の隠し球。
私は収納からカタルス共和国で手に入れた米とそれを炊くための鍋を用意する。
炊き方もちゃんと共和国にいる間にマスター済みだ。
こうして料理を作り終えた私が、冷めないようにと料理に蓋をして収納に入れようとした瞬間。
家の前に懐かしい気配が生まれる。
そして待つことなく開かれる扉。
「懐かしいね。ルークかい?」
そんないつもと変わらないトーンの師匠の言葉に懐かしさが余計に強くなる。
「はい、師匠。ただいま戻りました。」
互いを視認する私たち師弟。
「元気そうじゃ無いか。何はともあれ、よく帰ってきたね。おかえり、ルークや。」
「はい!」
ああ、帰ってきた。
私は心からそう思うのだった。
その後、時間も多少早いがダメと言うほどの時間でもなかったので、私の作った料理を師匠と2人で食べることにした。
料理を作るのは旅に出てからは久しぶりだったが、師匠は上手いと言いながら食べてくれる。
米を食べる際には、特に美味しそうに食べてくれた。
どうやら初めてではなかったそうだが、それでも喜んでくれたのだから良しとしよう。
今は食後にお茶を出して2人で飲んでいる。
私も師匠も食事中は食事に集中するタイプの人間なので、これから土産話を披露するところだ。
さて、どんなことがあったのか。
思い出してみるとしよう。
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