第112話 懐かしい街
前世含めて、恋のライバル扱いされたのは初めての経験だ。
思わずの自体に、一瞬頭が何も考えられなくなる。
するとユニが横に来てくれる。
不満そうな顔。
そうだよな。ユニの立場からすれば面白くもない。
もちろん私にとってもだが。
例のごとく、私の腕を取ろうとするユニに機先を制し、彼女の方へと手を回す。
「私には彼女がいますので。」
そう毎度、ユニにだけ主張させるのもな。
私の言葉に、ユニの顔が赤くなる。
が、すぐに平常に戻って
「ん。その通り。」
と頷いている辺り、ユニには敵わないと思わされるわけだが。
そんな私達を見て、
「左様でございますか。」
パスカルさんが、頷いてくれる。
「では、お嬢様には、ルーク様にはお相手がいますのでご心配の必要はありません、とお伝えしたいと思います。」
安堵したような声音だ。
実際、この世界では異性愛、同性愛に加え両性愛も普通にある。
レイ様がどうかは知らないが、実を言うと、カトリーヌ様の立場でいえば、私が愛人候補ではと疑うのは無理からぬことだ。
愛人を認めるかどうかも、特にそれを罰する法や文化のないこの世界では当人達の問題である。
「ま、そう言うことなら上手くいくだろ。」
アントンさんが頭に手をやりながらそう言う。
「それにしても、今回はレイ様にも非がある気がするぜ。」
と言葉を続ける。
まあ、許嫁への手紙に、他意はないにせよ特定の人物のことばかり書けばいらない誤解をあたえかねない、のだろうか。
本当、どんな風に書いたのだろうか。
「そりゃ、俺たちみんなルーク達には助けられたし、感謝してるけどさ。レイ様やミリアーヌ様は特に、ルークのことを口にしていた気がするぜ。」
「そうなんですか?」
「ああ。まあ、そんな気もする程度だけどな。俺の気のせいかも知れないぜ。」
そう言うアントンさん。
しかし、確かに気になることもある。
手紙に書いたというなら、ユニやアイラもいる。
私の名前が特に多く出たと言うことに、意味はあるのだろうか。
まさか、血の繋がりを感じ取ったとでも?
レイ様とミリアーヌ様の顔が頭に浮かぶ。
もちろん私も2人のことを嫌ってはいない。
むしろ護衛の依頼の間に好感を持った。
しかしそれは、兄弟としてではない。
そう、ではないはずだ。
答えのない考えが頭に浮かぶ間に、アントンさんから質問される。
「ところでお前達はこれからどうするんだ?」
その言葉に考えを断ち切る。
そうだ。考えても仕方ないことを考えるのは止めるとしよう。
「まだ決めていませんが。しかし、特にやりたい事があるわけではないので、早めに王都を出た方が良さそうですね。」
パスカルさんからおそらく誤解は解けるだろうが、それでもトラブルを避ける意味では会わない方がいいだろう。
もとよりこちらは平民。向こうは王国有数の大貴族。
もう会うこともないだろう。
「そうか。悪いな。」
「ご配慮ありがとうございます。」
そう言って頭を下げる貴族関係者側の2人。
その後私達はそのまま別れ、宿に向かうのだった。
ちなみに、パスカルさんはカトリーヌ様の執事だが、剣士としての腕も高いのだとアントンさんが教えてくれた。
腰の剣は伊達ではないのだろう。
宿に戻りしばらく休んでいるとテオ達も戻ってきた。
早速、今日の出来事を伝えると、
「それはまた。なんと言うか、災難だったね。」
とテオが苦笑しながら言ってくる。
対照的にアイラは、心配そうな顔をしている。
「大丈夫なのか?貴族に目をつけられたってことだろう?」
彼女の言うことも分かる。
確かに、大貴族の令嬢に目をつけられたというのは心配にもなるだろう。
ただし、今回はあまり心配もしていない。
「まあ、大丈夫だろう。レイ様や周囲の人が上手く言ってくれそうだしな。とはいえ、すぐに顔を合わせれば面倒があるかもしれないし、出来れば明日にはもう王都を出たいんだけどいいかな?」
そう提案すれば、みんなも納得してくれる。
王都であれば同じ国だ。
来たいと思えばいつでも来れるからな。
そんなわけで、翌朝。
私達は朝早くに西門に向かい、馬車に乗って王都を出るのだった。
そこからは、そう大きなこともない。
途中の街で馬車も変えながら、10日ほど。
私達はトレフの街に着いた。
それはつまり、ゼルバギウス領に入ったということだ。
ここから、まっすぐ北に行けばゼルバギウス領領都であるカトニックに、北西に向かえばガインの街に着く。
トレフの街で一泊した私達は、改めて馬車に乗る。当然ガインの街に向けてだ。
そしてさらに5日ほど。
2つの街を越えて、ついに私達はスタート地点であり、私達が生まれ育った街。
前線都市ガインの街が見えてくるのだった。
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