第105話 王都グランセニア
ルストラを出てから3日がたった。
途中、2つの町によりそれぞれ1泊している。
そして今日、昼を過ぎたころに、とうとう目的地が見えてきた。
「あれが、グランセニア?」
そう言ってユニが指差す先には、城塞都市として名高いガインの街のそれ以上に巨大な城壁がそびえて立っていた。
今通っている道も、幅が広くこうして見渡すだけで私たちが乗っている馬車以外の馬車が走っている。
「ああ。あれが、グラント王国の中心、王都グランセニアだ。」
王都に着くまでまだ時間はあるのだろう。
ここから見る限りまだまだ距離はあり、それでも
はっきりと存在感を示す城壁の大きさにため息が出るほどだ。
「グランセニアっていうと、王様が住んでいるんだよな?」
アイラがテオに聞いている。
「そうだよ。王城グランセニア。ここグラント王国を治めているグラント王家の方々が代々住まわれているところさ。」
グラント王家とは、今テオが言ったようにここグラント王国の統治者達であり、この大陸唯一の王族でもある。
王城グランセニア城を有するこの都市は、言うまでもなくグラント王国の首都だ。
さらに言うなら大陸でもカタルス共和国の首都と1位、2位を争う大都市であり。
「それに。」
とユニも会話に入っている。
「武術都市とも言われてて、武術が盛んなところ。」
「へぇ。そうなんだ。」
答えながらも、あまりアイラには興味がないらしい。
ただユニの言葉に嘘はない。
これは、以前から言うようにグラント王国自体がその歴史上戦争によって成長し、戦争がなくなった後も魔物との戦いによって成り立っていることから、国全体が尚武の気風を持ち合わせているためだ。
とはいえ、魔物の大生息地であるエルバギウス大森林に接し、魔物を相手とする実戦を是とするゼルバギウス領の各都市の武とはまた毛色も違うと聞くのだが。
なんにせよ、そう言った理由から、グラント王国の子どもたちはほとんどが武術道場に通った経験を持ち、当然王都であるグランセニアにも数多くの道場があるらしい。
その後も、テオとアイラを中心に王都について話をしているうちに、私達を乗せた馬車が門へと近づいていくのだった。
門をくぐり、馬車を降りると王都の様子が目に飛び込んでくる。
「ほぉ。」
「わぁ。」
「すごい。」
「おお!」
それぞれ、私、ユニ、テオ、アイラの反応だ。
まず目に入るのは当然といえば当然だが、人の多さだ。
数える気にもならない程だ。
クチュールでのピスクス祭りを思い出すが、馬車の御者によれば今日は別に祭りでもなんでもない。つまり普段からこれだけの人の往来があるということだろう。
そして更に驚くべきはそれだけの人が行き来しながら、特に狭さを感じないほどに広い。
石畳が敷かれた道が、私達の入ってきた西門から視界を越えて真っ直ぐに伸びている。
テオが教えてくれたグランセニアの構造が改めて頭に浮かんだ。
グランセニアはグラント王国によくある円形の都市であり、今私たちがいる、女王の道と呼ばれる東西をつなぐ道と、王の道と呼ばれる南北をつなぐ道が整備された、保健所を表す地図記号を思い浮かべるような構造をしている。
それぞれの名前の由来だが、テオ曰く、
「王の道は王城から出てるから、そう呼ばれるようになったみたい。で、女王の道はそれに合わせただけなんだって。」
王城か。
確か王都の最も南にあるのだったか。
流石にここからでは見えないが、建造物としてとても素晴らしいと聞いている。
正直に言えば私個人には王家への敬意と言ったものはないのだが、せっかくここまできたのだから見てみたいものだ。
「昼も過ぎてるし、とりあえずは宿を探そうか。」
とみんなを促す。
門をくぐる際に門番の騎士に聞いた話では、
王都では女王の道を中心に王城のある南側は貴族や商人などの富裕層が暮らし、北側には平民が暮らしているそうだ。
立ち入り禁止というわけではなく、王城の外観の見学も出来るらしい。
区画もある程度特色があり、門をくぐる際に門番から平民向けの宿屋がある場所も確認してある。
賑やかな街並みを楽しみつつ、宿に向けて歩き出した。
「いらっしゃい。泊まりかい?」
流石王都と言うべきだろう。
宿屋が固まっていると聞いた場所に来れば、いくつもの宿屋の看板が並んでいた。
その1つ。天を裂く剣(つるぎ)亭という、宿屋とは思えない名前の宿に入れば、恰幅のいい女性が元気よく迎え入れてくれた。
なんというか、自然と女将さんと言いたくなる人物だ。
「ええ。4人部屋はありますか?」
「あいよ。2階の奥2つが4人部屋さ。1番奥の部屋でいいかい?」
「はい。では、よろしくお願いします。」
「ああ。ゆっくり休んどくれ。ご飯なら夕方から、旦那がそこの食堂で出してるから来ておくれよ。」
「はい。分かりました。」
言われた部屋に行き、一息つく。
王都からならゼルバギウス領、更に師匠達の待つガインの街まではそう遠くない。
長い旅ではあったが、ここまでくればもう少しだな。
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