第106話 グランセニアの歴史

翌朝、目を覚ますと珍しくユニが最初に起きている。

ちなみに普段は私、テオ、アイラ、ユニの順で、たまに私とテオの順番が変わるくらいだ。

「おはよう、ルーク。」

「おはよう、ユニ。珍しいが、やっぱり楽しみだったのか?」

「うん。」

笑顔で頷くユニに、私もテンションが上がる。

ところで、何をユニが楽しみにしているかというとだ。

話は昨夜に戻る。



「急ごうと思えばすぐにでもガインに行けるが。みんなは王都でやりたい事はあるか?」

そう問いかけると、ビシッと音が聞こえそうな勢いで手を挙げるユニ。

別に挙手制にした覚えはないのだが。

「はい、ユニ。」

「ん。闘技場が見たい。」

「まあ、そうだよな。」

ユニならそういうだろうと思っていた。

闘技場。

王の道と呼ばれる南北をつなぐ道。

そこの北側の端にあり、王の道は、実質王城と闘技場をつなぐ道と言っても過言ではない。

今まで話題に出なかったが、ここ王都の1番の観光スポットは王城だが、2番目は闘技場だ。

武術の盛んな王国では多くの道場があるのだが、それら道場同士の交流も積極的に勧められている。

私たちも他の道場との交流以外にも、門番との交流稽古などは経験したものだ。

そのため、王都では大きな闘技場を建設し、普段から道場間の交流の場としている。

聞けば、行けば大抵どこかしらの道場が利用しており、そうでなくても騎士団の稽古場の1つとしても活用され、無関係な人々も有料で見学できるらしい。

修行時代もよその道場との試合に最も熱心だったのは他ならぬユニだった。

今は残念ながら時期が違うのだが、騎士団同士の対抗試合は王都で行われるお祭りの中でも代表的なものだ。

その時は、普段から賑やかな王都が更に賑やかになると聞く。

「じゃあ、明日はまず王城を見て、その後闘技場に行くとしようか。」

と問えば、みんなも不満はないらしい。



そういうわけで早起きをしたユニと、テオとアイラが起きるのを待つ。

まあ、いつも通りなら待つという程でもないが。

案の定、テオとアイラが起きてきた。

私と同じく、2人が起きているユニに驚いた一幕を挟み、私たちは宿を出る。

宿の店主に聞いたところ。

私達の宿は王都の北側の地区にあるため、ここから王城に行くにはまず東に進み、王の道に出て、あとはまっすぐ南に行けば良いらしい。

グランセニアが円形都市である事は既に言ったが、同時にここは王の道と女王の道をそれぞれ縦横の中心に碁盤のように区画整理されている珍しい都市だ。

というのも、地球でも円形都市というのは珍しいものではなく、むしろポピュラーだったらしいが、それは初期の部分から時代とともに発展させると自然に円形になるからと聞いた覚えがある。

逆、というのも変だが、平安京のような都市は碁盤のようになっている事で有名だが、あれは遷都によって、計画的に建てられたことが大きいらしい。

では、グランセニアはどうかというと、実はこの都市は1度滅びかけた歴史があるのだ。

と言った話をもちろん地球のことは伏せながら話しつつ、私たちは王都を歩いている。

「そうなのか?」

とアイラが首を傾げている。

王国では有名な話だが、ヴィーゼン生まれのアイラでは知らないのも無理はないだろう。

私がゴランの英雄ギルシュを知らなかったようなものだ。

「ああ。そもそも王国は大体今から2000年前に出来た国だ。とはいえその時はまだ小国でな。その後数百年周囲と戦争を続け、大体1500年程前に今のグラント王国としてまとまったわけだ。」

「うんうん。」

「で、まあ王政を敷いている以上、長い歴史の中で名君もいれば暗愚もいる。今代の王アレクシス王は穏やかな気性で、他国との関係も大切にしている。平和な今の時代であれば、名君の1人だろうな。」

「って、ルーク。なんか上から目線だね。」

とテオから突っ込まれる。特に咎める風ではないが、確かに王国民らしくはない物言いだったかもな。

「そうか?まあ、他意はないんだ。気にしないでくれ。」

一応言っとくと、私だって騎士やら貴族の前で王や領主のことをあれこれ言う気は無いさ。

「それより、話の続きを聞かせてくれよ。」

とアイラに促される。

「そうだな。まあ、そんなわけで長い歴史の中、残念なことに暗君どころか愚王がいたのさ。彼の名は、レノ。愚王レノだ。」

「レノってあたいでも聞いたことがあるかも。悪い王様ってことぐらいだけど。」

とアイラ。

「それだけ有名な人物だな。もちろん悪名だが。彼は600年程前の王で、元々聡明な人物だが物欲が強いという欠点があった。王城の一室に大陸各地から集めた宝物を集めていたんだ。それだけなら、まあ良かったんだがこの手の欲望というのはエスカレートするものでな。珍しい動物を集めるまでは良かったんだが、彼はついに魔物を飼いたいと考えた。」

「魔物って。」

アイラは呆れた顔をする。ユニとテオはいつも通りだ。

まあ、王国では一般常識の範疇であり、子どもの時から魔物の恐ろしさを教える教訓として何度も耳にする。

「その後は、まあアイラの予想通りだろうな。王の願いを、多くのマトモな家臣は諌めたが、ある家臣が王に好かれようと腕の立つ冒険者を雇い、深層に住むグレートレオという魔物を魔道具で眠らせ王都に連れてきたそうだ。王も喜んだそうで、最初は専用の部屋を用意し、当時まだ草原が広がっていたゴラン大草原に住む草原の民から教わったように魔物の肉を与えていた。」

「それなら、良かったんじゃないの?」

「ああ。しばらくは王や周りの人間も安心していたらしい。むしろ王家の力を示すと喜んだそうだ。が、結局、王都はある日半壊することになる。」

「唐突だな。なんで?」

「実を言うと、よく分からないんだ。それでも当時の記録を見ると、そのグレートレオが、急に凶暴化し、さらに巨大化したらしい。それこそ腕の一振りで普通の家が倒壊する程だったとか。」

そこまでいって、ゴランで遭遇したソードタイガーを思い出す。何か関係があるのだろうか。いや、共通点はあるが規模が違いすぎるか?

「そしてそのグレートレオが暴れ、何人もの凄腕の冒険者を犠牲にしながらもなんとか討伐する頃には王都は半壊していたそうだ。幸いにして初期の避難誘導が功を奏して民衆の被害はあまり多くなかったらしいんだが、それでも王城に勤めていた人間にはそれなりの被害もあったそうで、愚王レノもその時に命を落としている。しかも、兵に剣を向けられた魔物を守ろうとして、後ろから喰われたそうだ。なんにせよ、その後、既に友好関係を結んでいたカタルス共和国の助けも借りながら、区画を整理しつつ王都が再建されたというわけだ。外壁だけは、残ったものを使ってな。」

そのため、王都グランセニアは円形でありながら中は碁盤目という少なくともこの王国では、珍しい形となっている。

ちなみに、共和国の首都ソフィテウスは平安京のように、四角い碁盤形をした都市だ。


そんな風に歴史の勉強をするうちに、私達の前方に、王城が姿を現わすのだった。

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