第104話 着てみた

「さあ、お嬢様達が待ってるよ。」

随分と待たされたように感じるが、話を聞けば、多少の手直しをしたそうだ。

客に市場で気に入ったデザインを選ばせた後、事前に用意してあったいくつかのサイズを、最終的に購入者に合わせて微調整をするのが、ここでの服の買い方の流れらしい。

アレットの言葉を受け、私達は別室へと入って行く。

いや、別にこの後パーティだなんだがあるわけでもないのでこんな盛り上げる必要もない気がするが。


部屋に入ると、そこには、予想通りのユニがいた。

ワンピースそのものは、市場で見たデザインと同じもの。

ユニの綺麗な金色の髪に、ワンピースの青色が良く映えている。

身長に似合わない膨らみにドキリとするが、こう言うものは例えバレていたとしても目をそらすのがマナーだろう。

「どうかな?」

ユニが聞いてくるので、

「ああ、予想通り。よく似合っているよ。」

と素直に返す。

とは言え、似合うことは分かっていたことだ。

なので私としては、普段着ないような服を着て、頰を赤くさせてるユニの表情の方に心が動く。

それは、やはり綺麗な服を着たからこその女心が大きいのだろう。

もしくは、私にどう見られるかと緊張しているのだと思うのは、私の自意識過剰だろうか。


いつまでもユニを見ていたいという誘惑に負けそうになるが、もう1人の仲間にも目線を向ける。

そこには、何故か同じデザインながら目の覚めるような赤いワンピースを着たアイラがいた。

「あれ?赤もあったのか?」

と口にすると、アレットが教えてくれる。

「ええ。実は青い品は比較的最近の商品でね。お披露目ということで、今回雇われさんには青だけ着てもらったんだ。一応赤も後ろに置いてあったんだよ。」

とのこと。

全く気づかなかったが、人間興味がないものは、なかなか気づかないものだ。と言っては失礼だが。

ちなみに雇われさんとは例のマネキン役らしく、商人ギルドを通して雇われているらしい。

ついでに言うと、商人ギルドの中にはいくつかの部門があり、職人部門や料理人部門などに分かれているそうだ。

あまり縁がなかったので知らなかったが、どうやらなかなか複雑な組織らしい。

もちろん、と言うべきか、アイラもよく似合っている。

赤毛のアイラが赤いワンピース、と一瞬思ったが、見れば違和感もなく綺麗に決まっていた。

横を見れば、テオが頰を赤くしながら、アイラを褒めているし、アイラもアイラで照れつつも満更ではないようだ。

私自身余計な口出し手出しをする気は無いが、結局この2人の今の関係はなんなのだろうか。

それとは別に、頰を染めるテオがまるで乙女のようだ、とは言わない方がいいのだろうな。



「ありがとうございましたー。」

アレットに見送られギルドを出る。

ユニもアイラも今は元の服だが、ワンピースはちゃんと買ってある。

1つ銀貨3枚。安くは無いが、多少節約すれば手の出る値段だ。

これがガインあたりならもう少し高いだろうことを思えば、やはり服作りが盛んな町だと言うことだろう。

ユニとアイラのワンピースの方は、それぞれの個人用の袋にしまった上で、肩にかけている。

今更だが、共有の荷物などは私の収納に入れ、服などの個人のものは個人が鞄に入れて管理しているのだ。


ギルドで待っている時間が長かったからか。

既に日は傾き、夕方近い。

宿を取るため、私達は足を早めるのだった。


翌朝。

買い物も済ませた私達は、宿を出ると東門に行き、王都向けの馬車に乗る。

門を出れば、右手。つまり南の方に木々が見える。

「あれは?」

とユニが指を指すので、聞いた話を答える。

「多分、桑の木じゃないか?」

ルストラの西側で大々的に綿花を育てているのは見たが、実はここでは絹の生産も昔からされている。

まあ、そもそも世界そのものが違うので、綿花に見えたあれらも専門家からすれば生物学的には違うかもしれないし、遠くに見えるあの木々も地球の桑とは違うかもしれないが。

とはいえ、幼虫の繭を使った高級な糸は確かにあり、おそらく地球での絹と蚕と桑の関係はここでもそうちがいはないだろう。

そして絹の価値もだ。

「まあ、絹で作った服なんて貴族か一部のお金持ちにしか縁はないけどね。」

とテオが言う。

実際その通りだ。まあ、私たちも無理をすれば買えなくも無い。

それだけの稼ぎはあるが、かと言って買っても着る機会がないしな。

因みに、共和国で共に行動したゼルバギウス家の兄妹達もお茶会に呼ばれる際には絹製の衣服を身にまとっていた。

私達は見にいかなったが、ルストラには王都に近いこともあり貴族専門の店も多く、そこではドレスなどのオーダーメイドもしていたはずだ。


なんでもルストラは、王家に献上する絹の生産のために建てられた街だそうだ。

その後、綿花の栽培にも適していることが分かり、結果として今のような大きな街になったらしい。

という話をするテオの声を聞きながら、私達は王都へ向けて馬車に揺れるのだった。

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