第100話 砂漠を越えて
翌朝目を覚ませば、草原の民の特産品である絨毯の上で毛布に包まっていた。
そこで、昨晩マフムードさんのお宅にお邪魔したことを思い出す。
絨毯が高級だからなのか、そういうものなのか、フワフワしており全く身体には痛みはない。
周りをみれば、テオとアイラが寝ている。
「あれ?ユニがいない?」
珍しいな。寝るのが好きなユニは、むしろ起こされるまで寝ているのが常なのだが。
まあ、早く目が覚めることぐらいはあるだろう。
とりあえず、テオとアイラはそのままにして、部屋を出ることにする。
「ルーク。おはよう。」
「あら?おはよう、ルークちゃん。」
「ユニ、マフムードさん。おはようございます。」
昨日食事をした場所に、ユニとマフムードさんが座ってお茶を飲んでいた。
「さ、そんなところにいないでこっちに座りなさいよ。」
「あ、はい。」
マフムードさんに、誘われて私も座る。
そこで、汗の匂いに気付いた。
よく見るとほんのりと首筋が湿っている。
これは、ゴランに来てから知ったことなのだが。
乾燥している土地ではあまり汗はかかないらしい。というよりはかいてもすぐに乾いてしまい、汗だくという状態にはなりにくい。
「どこか行ってきたのか?」
ユニに問いかけると、
「ん。マフちゃんに、稽古つけてもらってきた。」
「稽古?」
思わず聞き返し、マフムードさんに目を向ける。
「ま、そんな大げさなもんじゃないわよ。軽くトレーニングに付き合ってもらっただけ。」
と返される。
まあ、深く聞くことでもないが。
その後、雑談をしているうちに、テオとアイラ、ジェーンさんが起きてきた。
パンとサラダの朝食を頂く。
ちなみに、この家には冷蔵庫があるとジェーンさんが教えてくれた。
もちろん魔道具であり、箱型で、1日2回氷を作るという、構造としては単純なものだ。
それでも生野菜を保存できるというのは、この土地では成功した人間のステータスといるらしい。
本人たちが気さくというか鼻にかけないのでその時に気付いたのだが、この地域でも指折りの冒険者であるマフムードさんは、それこそ望んだもののほとんどを手に入れられる存在だ。
なんて話をしたのが良くなかったのか。
アイラが、
「もっと大きい家に住まないんですか?」
と質問すると、
「2人で暮らすにはこのくらいがちょうど良いのよ。」
と、教えてくれた。
なお、この質問をした直後、テオから睨まれる一場面もあったが。
時折悪気なくこの手の言葉が溢れてしまうのは相変わらずだ。
まあ、そこら辺はテオに任せよう。
朝食を終えると、
「ルークちゃん達は、この後どうするの?確か、イルサに行くんだっけ?」
とマフムードさんから尋ねられる。
「はい。イルサに行って、元々の予定通り、王国に一度戻ろうと思います。ゴランに来た目的のダンジョンは思ったよりも長く入りましたし。」
昨日の夜、部屋でも特に長居したいという意見もなかった。
ユニあたり、ヤクトのダンジョンに潜りたがるかと思ったが、
「もう大丈夫。」
とのこと。言われてみれば、気持ちはなんとなく分かる。
元々金儲けがメインでないと、同じような魔物ばかりのダンジョンは苦痛だからな。ユニでなくても、蟻ばかり相手にしては嫌気もさす。
元々、道場で剣を振ってきたユニは対魔物よりも対人戦の方が得意で好きな傾向があるので余計にそうだろう。
「ならこの町を出たら、フェルガを超えて行けばイルサはすぐだね。」
とジェーンさんが教えてくれる。
そういうわけで、西側の門から馬車に乗ることになった。
なお、マフムードさんはしばらくのんびりするそうだ。
マフムードさん達の家を出たところ、マフムードさんとが見送りに出てきてくれた。
「じゃあ、元気でね。ゴランに来たらいつでも遊びに来なさい。それと、」
マフムードさんがそこで区切り、ユニに目を見やる。
「頑張りなさい。」
その意味は、私には分からないが。
ユニは真剣に、頷いている。
マフムードさんとジェーンさん。
特にマフムードさんは出会いのせいもありなかなかに強烈な人だったが、関わってみれば穏やかで尊敬出来る方だった。
彼が、ギルドからの信頼の証であるAランクを認められているのもよく分かるというものだ。
その後はスムーズにすすんだ。
まず西門に向かい馬車に乗る。
ヤクトが流通の盛んな都市というだけあり、特に困ることなく拾うことが出来た。
そのままデザートホースの馬車に揺られて砂漠を進むこと2日。
フェルガにて一晩宿を取る。
話は聞いていたのだが、今回初めてギルドとは関係ない普通の宿屋を使い、雑魚寝を経験する。
床の上にだったが、マフムードさんの家でのように特産の絨毯が敷かれ、また、宿泊客も私達以外に数人と少なく、思った以上に休むことが出来た。
翌朝またデザートホースの引く馬車にのり、1日かけてイルサに到着。
船を探したところ、運良く王国行きの船を見つけた私達は、ゴランに別れを告げるのだった。
ゴラン大草原、完
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