第6章 再びグラント王国編

第101話 湾港都市ドルムブルク

今回は特に困ることなく平民用の船に乗ることが出来た。

そもそも前回、前々回と普通の船に乗ることが出来なかったのは、ちょうど学院への留学生達の波にかち合ってしまったためという部分が大きい。

運さえ悪くなければこんなものだろう。


風に恵まれ、海上を進むこと4日。

「帰ってきたねぇ。」

テオがしみじみと呟くように、グラント王国最大の湾港都市ドルムブルクの港へと足を下ろす。

空にはカモメが飛び交い、ここ数日で慣れ親しんだ潮風の匂いが鼻をくすぐる。

ここドルムブルクは、港としての規模、行き来する船の量では海洋都市群であるクチュールには及ばないものの、人口などの純粋な都市としての規模はこちらの方が大きい。

あちらが大量の島々を含む都市群であることを思えば、やや紛らわしいが大陸最大の港町と言うことが出来るだろう。

ちなみに、ここから北にもいくつか港町はあるがどれも小さいもので、外国との船の行き来がある港というと、ドルムブルクが唯一でもある。

「そうだな。」

テオの言葉に同意しながら私たちも足を下ろす。

思えば、この大陸で成人として認められる15歳になるや慣れ親しんだガインの街を出た。

その後、ヴィーゼン、クチュール、カタルス、ゴランと越え、今1年数ヶ月の時間を経て、グラント王国へと戻ってきたわけだ。

まだスタートでありゴールでもあるガインの街、及びエルバギウス大森林についたわけではないが。

懐かしさが込み上げてくるのは、仕方のないことだろう。


「ルーク、どうする?」

ユニがそう尋ねてくる。

「そうだな。」

仮面撫でながら、今後のことを考える。

私の頭に生まれ育ったグラント王国の地図が浮かぶ。

グラント王国は、この大陸の内北半分。正確にはエルバギウス大森林を除く、人間が暮らす土地の北半分に広がる大国であり、グラント王家を中心に、貴族が地方を治める分かりやすい封建国家だ。

東西に長い長方形のような形をしており、北はエルバギウス大森林に、南はゴラン大草原とアプルス山岳地帯に、東はヴィーゼン教国、西は海にそれぞれ接している。

そして私達がいるドルムブルクからガインの街へと戻るには、王国の8割ほどを横断していくことになる。

いくつかの街を越え、王国の中心やや西寄りにある王都グランセニアを経由してゼルバギウス領に入ることになるだろう。

そうなると、

「まずは東行きの馬車に乗ろう。」

「ん。分かった。」

「ま、そうだよね。」

「あたいは王国のことはよく分からないからな。みんなについていくよ。」

こうして、なんとなくだが今後の予定が決まったところで、私達は門へと向かうのだった。


門のそばに行くと、いくつかの乗合馬車が止まっているのが見えた。

ゴランでは魔物であるデザートホースの引く馬車を利用していたため、そう長い時間でもなかったが、普通の馬が引く馬車を懐かしく感じる。

「じゃあ、とりあえずはグランセニア行きの馬車を探すとしようか。」

とはいえ、目的の馬車はすぐに見つかった。

流石は、大陸有数の港町と王都と言うべきか、都市としての規模が大きい分、人と物の行き来も盛んな証拠だろう。

とはいえ、ここから王都直通のものではなく、ひとまずここから2つほど進んだルストラという都市を目指す。

そのまま私達は馬車に乗り込み、今は青い空と流れる雲を眺めらがら馬車の振動を感じている最中だ。

なお、王国内では河を利用した物流網も整備されているが、こちらは基本的に物流のみとなっており、商人など王国から許可を得た人間でなければ利用できない。

ミリア師匠に教わった話では、街道を整備し、その途中にある宿場町での人の行き来を盛んにするため、陸路での移動に限定しているのだとか。


なんて話を思い出すと、同時に師匠のことが思い出された。

ミリア師匠は元気にしているだろうか。

いや、あの人が何かで困ったり悩んでいる姿というのも想像できないのだが。

とりあえず困ったことがあればその魔法の腕と知識でなんとでもするだろう。

今まで散々、魔法を使って戦う冒険者はいないと言ってきたわけだが。

私に魔法を教えてくれたミリア師匠は、魔法で戦うことが出来る、私が知る内でも数少ない人物だ。

とはいえ、あの人の場合は私よりも遥かに遠くを把握できる気配探知の魔法を使い、そのまま相手が気付くことも出来ない遠くから魔法を使うと言う、遠距離ミサイルのような戦い方であり、私のような拳闘術と魔法を組み合わせて戦うスタイルとは違うのだが。

イメージが重要なこの世界の魔法において、視界の外で魔法を発動すると言うのは普通なら不可能だ。

それを難なくやる辺り、当たり前だが、やはりあの師匠もまた普通ではないと、そんなことを思うのだ。

ただ、それなのにと言うべきか、その分と言うべきか。

存外にズボラな面もあり、家事はほとんどしない人でもある。

師匠の名誉のためにいうとしないだけで、出来ないわけではない。

説明に困るのだが、基本的にお金に困らない人なので、私が拾われ家事をするようになるまでは、ゴミなんかは溜まったらまとめて燃やして土に埋め、服も適当に着古したら新しいものを買うようにしていたらしい。

料理も、味音痴ではないが、あまり拘りは無かった。

「儂一人なんじゃから良いじゃろう。」

というのが師匠の言い分だ。

そもそも、街には男であるラト師匠の姿で行っており、服も男女で着れる同じ形のローブを定期的に買うようにしていたらしい。


そんなことをつらつらと思い出しつつ、私は引き続き、空を流れる雲を眺めるのだった。



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