第99話 迷宮都市ヤクト
デザートホースに引かれながら砂漠を進んでいる。
ピンクハリケーンことマフムードさんはやはり有名人らしく、門を出る際には注目されていた。
なお、ゴランでは門番もギルドで雇われた冒険者がやっており、マフムードさんがダンジョンの横穴を通ってこの町に来た事は知られていたようだ。
今更だがゴランには国家というものがない。
強いて言うなら草原の民とギルドの共有統治ということになるだろうか。
草原の民はいくつかの各部族に分かれており、各部族長が持ち回りで大族長という役職になり、それが草原の民の代表者にあたる。
とはいえ、一応草原の民には草原の民の法やルールがあるそうだが、時代とともに外からくる人間との婚姻などが進み都市で暮らす人々も増え、そういった人々はちゃんと都市のルールに問題なく順応出来ているらしい。
「ま、今でも草原の民の半分くらいは草原で暮らしてますがね。」
と今回お願いした御者が教えてくれた。
彼もまた都市で暮らす草原の民である。
そして彼がいうには、都市で暮らさない草原の民達はゴランに残った少ない草原をデザートホースで移動しながらテントで生活しているのだとか。
同時に大量の羊も飼育しているそうで、羊毛を使った彼ら特有の毛織物や木彫りの置物などの民芸品をデザートホースの餌であるダンジョンアントを筆頭に必要なものと交換している。
地球でいう遊牧民族の生活に近いのだろうか。
そんな話も聞きながら進む事2日。
目的地が見えてきた。
マフムードさんが言う。
「ようこそ。ここがゴランで1番大きな街、ヤクトよ。」
「お話は聞きましたよ。お疲れ様です、マフムードさん。」
「あら、ありがとう。」
門番とマフムードさんとのそんなやりとりがありつつ、私達は門を潜りヤクトへと入っていった。
因みに、ゴランの町はどこにもダンジョンがあるのだが、迷宮都市といえばここヤクトを指す。
街並みそのものは基本的には今まで街と大差ない。日干しレンガを使った白い建物が立ち並ぶのだが、
「賑やか。」
とユニが呟いているように、道を行き交う人と物の数がやはり多い。
その中には冒険者もいれば、商人もいる。
「ヤクトにあるのは『始まりのダンジョン』だからね。取れる素材の量も1番多いし、何より貴重な魔道具なんかはここの深いところでしか手に入らないのよ。」
魔道具か。結局、私達は見つける事は出来なかったが、実際にいくつか魔道具を見つけた経験のあるマフムードさんが言うには、なんでも本当にダンジョンの床の上に無造作に落ちているのだとか。
それこそ魔道具の1つでも見つければ、1番多く見つかる光を出す魔道具でも、私達4人が数年は遊んで暮らせるほどの額になるらしい。
そしてそれら魔道具や、ここのダンジョンの奥でしか手に入らない魔物の素材を求めて人が集まるのだそうだ。
「さ、こっちよ。」
マフムードさんに誘導されて着いた先は、周りにあるものと同じ普通の一軒家程度の大きさの建物だった。
マフムードさんを先頭にお邪魔すると、
「お帰りなさい、マフ。あら、そちらの方達は?」
女性が出迎えてくれた。
玄関からすぐが居間のようで、大きなテーブルが置かれていた。
長い髪を後ろに伸ばし、この土地ではむしろ珍しい白い肌をしている。
軽いタレ目の優しい雰囲気の女性だ。
ちょうど掃除中だったのか、木製のテーブルを布で拭いていた。
「ただ今、ジェーン。この子達はルークちゃん、ユニちゃん、テオちゃん、アイラちゃん。今回の依頼で知り合った冒険者よ。なんでも旅をしているそうで、ヤクトに来るって言うから誘っちゃったの。ルークちゃん達、こっちはジェーン。まあ、何というか私の恋人よ。」
最後の部分をいう際には、その太い指でポリポリと頬をかいている。
ここ数日一緒にいたが、マフムードさんが照れているのを見るのは初めて見た。
ジェーンさんはジェーンさんで、
「あらあらまあまあ。マフが人に私を恋人って紹介するなんて珍しいわね。というか、お客さんを連れてるなんてどんな風の吹き回しかしら。」
なんて言いながら雰囲気に違わず優しい笑顔を浮かべている。
「ま、たまにはね。って。こ、細かいことは良いのよ。さ、立ち話もなんだし座ってちょうだい。」
との言葉に甘えさせてもらい、私達は椅子に座って一休みさせて貰うのだった。
「へぇ、ルーク君は魔法使いなんだ。」
お邪魔するだけのつもりだったのだが、マフムードさんとジェーンさんに勧められ、一晩泊めて貰うことになった。
今は、ジェーンさんお手製の料理を頂きながら、私達の事や旅での思い出を話したり、マフムードさんの武勇伝を聞いたりしている。
ジェーンさんも元冒険者だそうで、ダンジョンでソードタイガーの群れに遭遇してしまったジェーンさんを間一髪というところでマフムードさんが助けたのが、2人の馴れ初めらしい。
今日のメニューは、ヤニマニと言うらしい鳥を1匹煮込んだ料理だ。
クーラ鳥というここらではよく飼われている鶏のような鳥を中に、細かく切った野菜を詰め込んでいる。煮汁まで頂くようで、肉の旨味が野菜の甘みで彩られ引き立っている。
やや筋肉質な肉のワイルドな味と噛み応えが、食べているという実感をくれる料理だ。
そういえば、ダハの町の宿屋でも魚の煮込み料理を食べたな。
その話をすると、ジェーンさんがゴランでは煮込み料理が多いと教えてくれた。
砂漠では生で野菜を食べるの勇気がいるだろうし、汁まで飲めば栄養も無駄にせずに済む。
それに夜は冷え込むこの土地では、言われてみれば煮込み料理はピッタリなのだろう。
美味しい料理と楽しい会話。
ヤクトでの夜はこうして過ぎていく。
その後、私達は空き部屋を借り、毛布にくるまって眠るのだった。
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