閑話 上に行くために2
分かっていたことだけど、マフちゃんは強い。
「ユニちゃんは、なかなか素早いわねぇ。」
そんな言葉を口にしながら、マフちゃんは切り掛かっていく私の剣の側面を、右手を握って出来た拳の底で殴る。
流石にそれで剣を手放すようなことはないけど、それでも私は体のバランスを崩してしまった。
すかさずマフちゃんの蹴りが私のお腹に突き刺さり、私は思わず膝をつきかけるが、
「あら?」
なんとか足を踏ん張り、後ろへと飛び跳ねる。
マフちゃんが私の頭のあった部分を薙ぎ払うように腕を振るったその勢いを見て、私の行動が正解だったことが分かった。
受けていたら、そのまま吹き飛んでいただろう。
「うんうん。よく避けたわね。私びっくりしちゃった。」
マフちゃんはそんな風に腕を組みつつ頷いている。
「で、終わり?」
更に私を挑発しながら。
もう終わりにしようと、ズキズキと痛むお腹が私に訴える。
衝撃を受けた剣を握る手がそれに賛同している。
けど、私の心は愛しいあの人を思い出す。
負けてたまるかと、叫んでいる。
「ううん。まだまだ。」
なんとかそんな言葉を絞り出し、私はまた剣を構え、マフちゃんへと切り掛かっていった。
多分数時間くらい続けた頃。
「ふう。これでお終いにしましょ。」
とマフちゃんに言われる。
私は、答えることも出来ないまま、地面に転がった。
息の荒い私と息切れどころか汗もかいていないマフちゃん。
分かっていたけど、相手にならなかった。
息を整えている途中、
「それにしても、頑張るのね。」
とマフちゃんから声をかけられた。
「やっぱりルークちゃん達を守るため?」
その言葉に、なんと答えようか悩み、けど正直に答える。
「それもあるけど。」
そう、それもあるのだけど。
「ルークに、負けたくないから。」
その言葉が意外だったのか、
マフちゃんは
「あら。」
なんて呟いている。
思い出すのは、旅に行く前日。
道場での決闘。
あの日、私は初めてルークに負けた。
その後のことが衝撃すぎて色々と有耶無耶になったけど、私は絶対負けない覚悟で挑み、それでもルークに負けた。
完敗だった。
今、思い出しても、あの時の私に出来ることで打つ手は無かったと思う。
「なんだか複雑なのね。」
なんてマフちゃんは言うけれど、どうなんだろう。
「ううん。」
きっと、もっと単純な話。
「私はずっと、ルークの横にいたいから。」
だから私はもっと強くなる。
ダンジョンから出るために足を動かしている途中。
「それにしても、ルークちゃん、そんなに強いの?」
とマフちゃんが言う。
まあ、確かにルークは拳だけならマフちゃんどころか私でも勝てるし、ましてや剣を使えばまず負けることはないと思う。
けど、
「ルークは魔法を使うから。」
そう言うと、
「魔法?魔法なんて、集団戦でならともかく1対1の戦闘じゃ使えないでしょ?」
なんて言葉が返ってきた。
実際マフちゃんの言う通りで魔法を使おうと思えば、その魔法使いを守る人が必要になる。
私はルークがポンポン使うのを見慣れちゃったけど、学院で聞いた話だと攻撃用の魔法は大昔戦争があった時代に建物を壊すとかそう言う為に使われていてぐらいで、今も一応研究はしてるけど本当にただ研究しているだけみたい。
「ルークは特別。」
「へぇ。そうなの。」
感心するような、ただどこか疑うようなマフちゃんの言葉。
確かにダンジョンの帰りはほぼマフちゃんが全てどうにかしていたからルークの戦いは見ていないし、それなら仕方ないのかな。
「うん、あのね。」
けど、私の大切なルークが、何も知らない人からならまだしも冒険者としての上の存在であるマフちゃんから誤解されているのは少し悲しい。
なので私は、歩きながら今までの戦闘。
特にルークの魔法についてマフちゃんに話す。
得意な槍を地面からたくさん生やす魔法や、レイ様を矢から守った盾の魔法など。
「他にも、落とし穴を作ったり、一瞬で敵を凍らしたり。ルークは凄い。」
冒険者になった時、ラト先生の作ったゴーレムを凍らした魔法はカッコよかった。
ただし決闘の話はしない。
私が負けたからなんかじゃなく、あれは私とルークの思い出だから。
いい思い出とは決して言えないけれど。
あの日のことは、私が大事に抱えていかないといけない思い出だと思う。
ダンジョンの外に出た。
「マフちゃん、今日はありがとうございました。」
ペコリ、と頭を下げる。
本当にダンジョンの帰りに稽古をつけてなんて、我ながら無茶を言った。
けど、
「どういたしまして。けど、私も楽しかったし、暇つぶしになったわ。じゃ、また明日ね。」
マフちゃんからすれば疲れるようなことはしていないんだろう。
変わらない様子で返事をくれる。
私達はそこで別れた。
宿に戻るけど、なんとまだルークは寝ていた。
テオとアイラはいないからどこか遊びに行ったのかな?
私はチョットいたずらを思いつき、実行するのだった。
念のため言っておくと、汗はちゃんと拭いたから。
随分と寝てしまったな。
なんて思いつつ起きてみると、あまりのことに心臓が止まるかと思った。
「ユ、ユニ?」
ユニが私のベッドに入って寝ているではないか?
なんとかテオ達が帰ってくる前にユニを起こすことが出来たから良いものを。
寝ぼけでもしたのだろうか?
何故かほのかに汗の匂いを感じながら、そんなことを思うのだった。
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