閑話 上に行くために
実はダンジョンを出た時には既に昼をだいぶ過ぎていた。
そのため宿に着く頃には周りは暗くなり始め、私達は食事も取らず、皆泥のように眠った。
ここの宿屋もギルドの運営で、ダハで泊まった宿屋のようにそれぞれの部屋に別れ、ベッドが置かれている。
翌朝、変に早くに目覚めるが、どうにもまだ疲れが取れない。
周りを見れば、ユニ達もまだ寝ているようだ。
いっそ今日は一日寝て過ごそうか。
どうせ明後日、いや明日まではやることもないのだから、たまにはこんな日もいいだろう。
そう思い、私は再度眠りに就くのだった。
私、ユニは目を覚ますと、寝起きのぼんやりとした頭で周囲を見る。
ルークもテオもアイラもまだ寝ていた。
部屋の中にはベットが4つあり、横にはアイラ、向かいにはルークとテオが並んで寝ている。
ベッドから降り、ルークの顔を見る。
私の愛しい人。
幼馴染であり、恋人であり、結婚の約束をした婚約者。
まあ、お父さん達には何も言ってないからちゃんとした婚約者とは言えないんだけど。
でも、子どもの時からルーク以外となんて考えたこともないし、これからも考える気は無い。
そんなことを考えつつ、私はルークの顔を覗き込む。
もちろん、教わった魔力を練ることも忘れない。
なん度も繰り返し、もうあまり意識しなくても出来るようになった。
ルークの顔は、きっと殆どの人が醜いと言うだろう。
思い出すのは、旅に出る前日。
初めてルークの顔を見て吐き出してしまった日。
あの時は驚いてしまったし、正直に言えば未だに、彼の顔をカッコいいと思ったことはないし、醜いと言う人たちを責める気は無い。
一応言っとくと、私だって道場の女の子達が誰々君カッコいいと言った時に共感できる程度の感性は持っている。
でも、私がルークを好きになったのは顔じゃないのだし。
強いて言うならルークという存在そのものなんだから。
それにカッコいいと思ったことがないだけで、今はもう見慣れてしまって、ルークの顔はルークの顔だとしか思っていない。
逆になんであの時吐いてしまったのか不思議なくらい。
ルークは呪いとか病気とか色々言っていたけど。
まあ、分からないことを考えても仕方ないかな。
「急がなきゃ。」
ルークのことを考えているときは油断するとあっという間に時間が過ぎちゃうけど、実は今日は約束をしている。
だから本当はまだ寝ていたい体を起こしたんだ。
別にルーク達に秘密にすることでもないんだけど、同時にわざわざ起こすようなことでもないので。
私はそのまま部屋を、宿を出て約束の場所に向かった。
ダンジョンの前、どうやら相手はまだ来ていないらしい。
そう思ってすぐ、声がする。
「あらユニちゃんおはよ。待たせちゃったかしら?」
「ううん。大丈夫。それよりもマフちゃん、今日は来てくれてありがとう。」
そこに来たのはつい最近、というか昨日知り合ったマフちゃんこそマフムードさん。
凄腕の冒険者だ。
本人がマフちゃんと呼んでというのでそうしている。
今日もピンク色のドレスを着ている。
個性的な服装で女の人のような喋り方だけど、本人が言うには体は男だけど心は乙女らしい。
よく分からないけど。
マフちゃんはマフちゃんだと思う。
会ってすぐだけど、いい人だし、何よりダンジョンでの動きから凄い強いことが分かった。
今だって、強い人特有の空気を確かに感じることが出来る。
「じゃあ、行きましょうか。地下の5階なら邪魔も入らないでしょ。」
「ん。分かった。」
ちなみにダンジョンに入る許可証は共通で1度発行されると1年は有効らしい。
朝早く、まだ他の冒険者達の姿はない。
門番の人たちがいるだけ。
私達はダンジョンに入っていくのだった。
「ここなら良いわね。」
ダンジョンの森の中、月光花とかいう光る花の下、少し開けたところに着いた。
なんでこんなところに来たのか。
実は昨日別れる際にマフちゃんにお願いしていたのだ。
「ん。よろしくお願いします。」
稽古をつけて欲しいと。
そしてマフちゃんは快く受けてくれた。
稽古と言ったところで、私とマフちゃんでは実力が違いすぎる。
それにマフちゃんは斧使いで、私は剣士。
だから難しいことは考えずひたすら打ち込んでいく。
私は剣を鞘に入れたまま、さらに布を巻いて構える。
マフちゃんはというと。
「さ、良いわよ。」
素手のままだ。
怪訝な顔をしていたんだろう。
マフちゃんが答えてくれる。
「大丈夫よ。私はこれでもそれなりに出来るし。それに、この方がいいでしょう?」
そう言ってウインクされる。
どうやらお見通しみたいだ。
なら、甘えさせてもらっちゃおう。
「うん。じゃあ、行きます。」
そう言って、私は飛びかかっていった。
分かっていたことだけど、マフちゃんは強い。
早いし、一撃一撃が重いし、私は何度も吹き飛ばされる。
今も、お腹に蹴りを入れられ、後ろに大きく吹き飛ばされた。
そもそも、ダンジョンを1人で攻略してきた後だというのに、疲れた様子がない。
まあ、そんなときに無理を言った私が言っていいことじゃないけど。
飛ばされた先。
木の幹を足で蹴り、地面に立つ。
剣を構える私と、待ち構えるマフちゃん。
私は、マフちゃんに向けて飛びかかるのだ。
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