第97話 調査依頼の報告

テーブルに置かれた袋はモゾモゾと動いている。

来る途中聞いた話では、デザートホースの皮で作られているらしい。

草原の民が不快に思うのでは、なども思ったが、私の疑問を感じたのか、それとも似たようなことを言われた経験があったのか。

持ち主であるマフムードさん曰く、

「命を貰い、感謝し、無駄にしないことが大切なのよ。」

とのこと。

なんでも死んだデザートホースの皮で袋を作り、それを売って得た金で、葬儀をするという風習があるそうだ。

同時に、そうやって死しても家族であるデザートホースが誰かの役に立つことを、誇りに思っているらしい。

正直に言えば、全てを共感できるとは言いにくいが、世界は広く、色々な考えがあるものだと、我ながら陳腐な感想を抱いたのだった。


と、話を戻そう。

グイの町のギルド長。確か、ナセルさんと言ったか。

白髪混じりの短髪に、初老ながらも精悍な顔つきに、歴戦の戦士の風格を感じる。

恐らくは引退した冒険者から今の地位になったのだろう。

ナセルさんは蠢く袋を見て、それが何か理解したらしい。マフムードさんに話しかける。

「マフムード、それはもしや。」

「ええ。御察しの通り、ダンジョンアントよ。しかも今回話題の毒持ちじゃないかしら。噛まれた時になんかピリピリしたから、もしかと思って捕まえて来ちゃったの。」

そう言って、マフムードさんは袋の口を開け手を突っ込む。

あまりの自然な動きに誰も何も言えないうちに、その手に、ダンジョンアントが1匹、体の真ん中あたりを掴まれていた。

足や顎を必死に動かしている。まだだいぶ元気なようだが、私達と会う直前に生け捕りにしたのか、それともそれだけ生命力が強いと言うことか。

見たところ他のダンジョンアントとの違いはない。と、思ったのはどうやら私とその仲間たちだけだったらしい。

思ったことをナセルさんが代表して口にする。

「随分と小さいな。特に顎部分。」

言われてみれば、今までに見たダンジョンアントは小さくとも大人の猫ぐらいはあったが、これは子猫ぐらい。

顎についてはよく分からないが、もしかしたら噛み切るよりも刺すことに特化しているのかもしれない。

「なんにせよ。これは大きな手柄だ。流石はマフムードだな。それは、後で職員に渡しておこう。」

「ふふ。ありがとう。」

そう言いながら、マフムードさんはダンジョンアントを再度袋に戻し、口を強く縛る。

「けど、これだけね。ムバラクちゃんたちやルークちゃんたちが見たっていう大きなソードタイガー。確か大剣級とか言うんだっけ?それは私が来た中では見なかったわね。それに、それ以外にも変なことはなかったわね。」

「ふむ、そうか。分かった。それでは、そちらの方はどうだろうか。」

そう言ってナセルさんがこちらに目を向ける。

私達の方は、ムバラクさんが代表して報告をしてくれた。

「俺たちは、逆だな。まず、ダンジョンアントの方は大きな収穫はない。いちおう殺した分の素材は全て回収してあるから、そちらで確認してくれ。」

「ああ。任せてくれ。それはこちらの仕事だからな。それで。逆ということは?」

「おう。俺たちはダハのダンジョン、地下7階。ルーク達が大剣級に襲われたって階を探索したんだが、まさにその階で、明らかに普通のソードタイガーとは大きさの違う個体に遭遇。これを討伐している。ダンジョンアント同様、死体はギルドで借りた収納袋に入れてあるから、後で見てくれ。」

そして、ソードタイガーを討伐した時の様子についても詳しく報告するムバラクさん。

「なるほど。どうやらあまり苦労せずに討伐できたらしいな。」

話を聞いたナセルさんはそう言うが、ムバラクさんが補足をする。

「今回はな。ただ、今回はルーク達からやたら動きが早いって聞いていたから、人数で囲んでルークの魔法でトドメをさしたんだ。普段の4人メンバーで相手をしたならそれなりに苦労はするし、個人ではまず相手にならないな。普段あの階層に行っている奴らなら逃げる事は多分出来るかもしれねえが、命を落とす可能性も無視できねえな。」

「そうか。分かった。その意見も踏まえて今後の対応を考えよう。差し当たっては、出来るだけその階で長居しないよう注意を呼びかけるぐらいしか出来ないが。お前さん達は他には見てないか?」

「いや、見てないな。」

ムバラクさんは、そう言ってからこちらに目線を向ける。

「ええ。私達も同様です。」

そう答えると、ナセルさんはうなづきながら、

「分かった。遅くなったが、お前さん達が無事に帰ってきてくれて良かった。今回はギルド全体からの依頼だからな。調査依頼と素材の代金はこちらで出そう。貸し出していた収納袋も回収させてもらうな。本当に今回は、みなよく働いてくれた。ギルドを代表して感謝する。」

そう言って最後に私達に向けて頭を下げるのだった。


その後、話にあった通り袋ごとギルドに魔物の死体を預けてきた。

それらの買取額と依頼の報酬は、量が量なので明後日渡すので再度来て欲しいとのこと。

また、忘れかけていたが私達の実力テストの結果についてもその時に通達するらしい。


やることは終わった。とにかく明後日まではこのグイの町にいないといけない。

と言うわけで、ダハの時のようにギルドで宿屋を紹介してもらった。

他の人達は、マハムードさんは知り合いのやっている宿に、ムバラクさん達は、ラフィさんの親戚でメンバーとも付き合いのある人物の家に行くらしい。


ということで、私達はギルドを出てそれぞれに1度別れるのだった。


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