第94話 未知との遭遇

暗い道のりを、私達はランタンの灯りを頼りに進んでいく。

流石は最下層の更に奥、というべきか。

出現するダンジョンアントの平均的な大きさが明らかに、上の階とは違う。

1番小さいもので子猫ほど。大きいものでは、大型犬ほどの体格差だ。

ここまで違うと別の生き物かとも思うが、蟻のような大きな群れを作る社会性の昆虫は役割毎に大きさや形が違うというのはよくある話。

そして、大型の出る割合も増えているように感じる。調べたわけではないあくまで私の体感だが、地下8階で1割ほどだったのが、ここでは5割くらい。群れの半数程度だ。

当然、難易度も上がるはず、なのだが……


今も後ろの方から現れた10匹ほどの群れが瞬く間にルカイヤさん、ラフィさん、アフマドさんの3人で瞬く間に何も言わずに殺し尽くしている。

そういえば、最初の出会いでは毒に倒れていたラフィさんはナイフ使い。武器が大きく、破壊力はあれど好きも大きい2人の隙を上手く補い、小型のダンジョンアントの中心部分を刺し貫き、確実に無力化している。

彼によって作られるダンジョンアントの死体はほぼ綺麗で、ある意味今回の依頼において1番の適合者なのかも知れない。


まあ、そんな感じで、自分でいうのも自画自賛のようだが、ある程度の実力のあるメンバーが十分な集団で歩いていれば、巨大なダンジョンアントもむしろ大きな的のようなもの。

道も今のところ単純な1本道で、これだけなら楽な仕事だと言いたくなる。

いや、正確にはこれだけだからキツイのだ。


繰り返しになるが、肉体面ではなんの問題もない。

問題は、ランタン以外に明かりのない道を、時々ある穴に気をつけながら、1種類の魔物だけを延々と相手させられる心理的な負担こそ、今の私たちの最大の敵と言えるだろう。

先ほどの群れも、初めは声を掛け合っていた3人が何も言わずに淡々とこなしている。

それだけなら、実力もありなんの問題もないようだが、終わった後互いを労う言葉もないのは、やはり異常というべきだろう。

初めは意気揚々と、聞かれてもいないことまで話していたムバラクさんも、今では何も喋らず時折剣を振るうだけの髭のおっさんと化している。


いけないな。私自身も疲れが溜まっているのだろう。流石に口にはしないが、思考の口が悪くなっているのは良い傾向ではない。



私達がこの横穴に入ってからどれだけの時間が過ぎたのか。

ついにムバラクさんから、提案がある。

「だあ!もう、いい。休憩だ休憩。オメエら。疲れてないかも知れねえけどよ。座って休め。」

その言葉に反対意見もなく、かといって分かったとも言わず座り込む面々。

確かに疲れてはいないが、こういう変化が私達には必要だったのだろう。

なんでもっと早く言い出さない、なんて無責任な文句も心に浮かぶが、ここまで単調な道では、休むタイミングを探すのも難しいものだ。


しばらく沈黙がその場を支配する。

ランタンも最初に魔力を通して以来光が消える様子もない。

それだけ高性能なのか、思っていたほど時間が経っていないのか。

その後も座り込む私達だが、休憩という変化のおかげだろう。

ランタンに照らされる表情も、いつものものに近づいていく。

「よし。じゃあ行くか。よくよく考えたらよ。別にいついつまでって決まっている依頼じゃねえ。この後も、こうやって休もうぜ。」

ムバラクさんの提案に、今度は私達も、おうだの、ええだの、そうですね、だのと声を出して答えている。

食料も、幸いにしてギルドから借りた収納袋にたっぷりと入れてある。必要経費だといって資金もギルドから出たので、ここぞとばかりに買い込んだ。


その後私達はある程度歩いたところで休憩を挟みつつ進んでいくことにした。

出来ることならちゃんと時間で決めて休みたかったが、時計のないここでは仕方ない。

余談だが、この大陸にはすでに統一時間があり、それを示す時計も発明されている。さらに言えば、持ち歩ける懐中時計も共和国の最新の発明の1つだ。

なお、この世界でも1日は24時間。太陽が上に登った時点を中心にその前後をそれぞれ12時間で表している。

これはただの雑学だが、地球でも太陽暦、太陰暦の両方で1年を12に分けるのは、一説では1年のうちに、月が12回満ち欠けするかららしい。他にも円を分ける時、10の単位よりも、3でも4でも割れる12が便利だったという説もある。前世、本で読んだ知識だが。

なんにせよ、それらはこの世界でも同様で、その繋がりからか地球のような時間が使われている。まあ、実際はもっと色々な過程があったのだろうけど。

話を戻し、普通は街に1つの時計やそれに合わせて鳴らされる鐘を頼りに生活しているわけで、当然ここでは関係ない。

懐中時計も、せいぜい貴族の娯楽というか嗜好品程度にしか思われていないらしく、一般への普及にはまだまだ時間がかかりそうだ。


とまあそんなわけで、私達はムバラクさんの体内時計頼りで休憩をとりつつ。

10回小休憩を取った後に、一回。私、ユニ、ムバラクさん、ルカイヤさんの4人と残りの4人の2組に分かれて仮眠を取ると決めて、横穴を進んでいった。


5回ほどの仮眠を終え、さらに数回の小休止を挟んだ頃。

遂に光が見えてきた。

懐かしさも感じる、月光花の淡く白い光に、みんなが安堵するのが分かる。

そして遂に、横穴を抜けた先には。


「あら?あんた達面白いところから出てくるわね。分かった。ダハの方から来るって聞いた冒険者ちゃん達でしょ?」


巨大な斧を担いだ、スキンヘッドの筋肉がいた。



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