第93話 調査依頼4

獣の声を聞いた私達は、念のためと周囲を探してみたところ、普通の大きさのソードタイガーを見つけた。

「こいつがさっきの声の主ならいいんだけどな。」

ムバラクさんがそう言いつつ、死体を袋へと収納している。

私もそう思う。

と同時に、今後は大剣級への心構えは必要だろうし、それはきっと、実際に対峙するのとは別に大きな心理的不安に違いないという考えも頭をよぎる。

なんにせよ、旅人である私達には口出しできる問題でもないのだが。


結局その後はそれらしいものは見つからず、私達は階段を降りて行った。


地下8階。

以前同様、迷宮と大量のダンジョンアント達が私達を出迎えてくれた。

相変わらず角を曲がるたびに現れるダンジョンアント達といういらない歓迎に辟易とするが、今回は前回と大きな違いがある。

「流石、ですね。」

「ん?どうした、ルーク?」

「いえ、皆さんの足取りに迷いがないので。流石は地元の冒険者の方々だな、と。」

「そういうことか。まあ、俺たちは冒険者になってからずっとこのダンジョンを潜ってるからな。複雑な道とはいえ、体が覚えてくれるのさ。」

と、ムバラクさんが褒められたのが照れ臭いのか、鼻を掻きながら答えてくれる。

「他のダンジョンに潜ることは無いんですか?確か、ここは楽な分、実入りは少ないんですよね。」

ちなみに他のダンジョンも上層はここと同じような作りらしく、ここが取り分け初心者向けというわけでもない。

単純に最下層までが短いだけだ。

私がそう聞くと、

「まあ、確かに腕に覚えが出来たやつはもっと深い階層のあるダンジョンに行っちまうけどな。ここだって、下まで来れれば、十分稼げる。それにな。」

ムバラクさんが1度言葉を区切る。

「俺たちはここで生まれ育った。だから、この町で生きていきたいんだよ。」

そう言って笑うムバラクさんと、頷く3人の仲間達は、なるほど、満足して生きているのだと、表情が言っていた。


さて、そんな風に話をしながら地下8階を越えて地下9階を歩く。

相変わらずダンジョンアントを狩っては袋へと詰めていく。

なお、今回の目的の片割れである毒持ちのダンジョンアントだが、見た目では分からない。

なので、

「取り敢えず、出来る限り形を残して回収するしかないな。で、なんでも共和国の学院から魔物専門の研究者を呼んで、詳しく調べてもらうらしいぜ。」

とは、ムバラクさんの言葉だ。

とはいえ私達の安全の方が大切だ。

建前は建前として、ダンジョンアントを狩っていくとしよう。

ルカイヤさんがハンマーでダンジョンアントを叩き潰すのを見ながら、私はそんなことを思うのだった。


そして地下9階も越えて、ダハの町の最下層である地下10階にたどり着いた。

そのまま私達は、横穴の前に行く。

そこはつまり、ラフィさんが毒を受け、ムバラクさん達と私達が出会った場所でもある。

ラフィさんの顔色が心なしか青いのは月明かりを思わせる月光花のせいか否か。


改めて、横穴に目を向け、小さいトンネル程度はある大きさとそれを巨大な魔物とはいえ蟻が作ったという事実に驚かされる。

横幅は、大の大人が10人は横になって歩いてもなお余裕を感じるほどで、丸みを帯びた形は、中央付近ならムバラクさんがけんを振り回しても問題がないだろう。

しかし、月光花は何故か横穴には生息しておらず、入り口から少し奥は完全な闇となっている。

私達はギルドで受け取ったランタンを取り出す。人数分の用意はなかったようで、並びの関係で、私とムバラクさん、テオ、ルカイヤさんとアフマドさんの6人ががそれぞれ持つことになった。

私とムバラクさんを先頭に、ユニ、アイラ、テオが続き、後方をルカイヤさん、ラフィさん、アフマドさんの3人で固めて貰いつつ進んでいく。


真っ暗な横穴を私達のランタンが照らしている。

魔道具であるこれは、魔力を通すことで中の水晶のような球体が光を発している。発熱はないようで、武器を使わない私は手に持っているが、他のメンバーは付属の紐を腰に巻きつけている。

実はこれが大切なのだそうだ。

というのもこの横穴、決してただの穴ではなく、ところどころにダンジョンアントの出入りの穴もあるのだが、これがまた大きい。

小柄な人ならそのまま不思議のアリスよろしくどこまでも落ちてしまうのではないかと思わせるような大きさのものもたまに見かける。

そのため腰につけることで、下に注意しながら進んでいく必要があるのだ。


歩きながら、ムバラクさんが横穴について教えてくれた。

「この横穴はグイの町にあるダンジョンに繋がってるんだがな。っと、グイってのはダハの町の隣町でな、デザートホースなら1日程度で着くようなところだが、そこのダンジョンの真ん中辺りに繋がってるわけだ。で、この道は1本道だと知られている。つっても、100年くらい前に調査した時の話だから、ダンジョンアント達が新しい道を作ってないとも限らない。まあ、まっすぐいけば大丈夫だろうさ。」

ムバラクさんの低い声が、横穴に響いている。

「ルークには、ダンジョンってのは全部繋がっているってのと、中央にある『始まりのダンジョン』が1番危険だってことは話したよな。で、ダンジョンってのは基本的に、中央に近いほどでかいし、その分奥は危険なんだ。その分、魔道具が見つかることも多いけどな。1番遠いこのダンジョンで見つかることは滅多にねえよ。」

その後も話は続く。ギルシュの時といい、ムバラクさんは話好きなのかも知れない。


そんな風に進む途中にも、時折ダンジョンアントの集団が前から下から現れる。

私達はそれらを狩っては袋に詰め、ひたすら前へと歩いてくのだった。




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