第85話 ギルド長からの提案

宣言通りに30分後、モハマドさんが部屋に戻ると、私達は依頼を受ける意向を伝える。

「そうか、そうか。それを聞いて安心したよ。では、すぐにと言いたいが、みんなも戻ったばかりで疲れているだろう。渡したい道具もあるし、今日、明日は休んでもらい、明後日の朝ギルドに来てくれ。」

というモハマドさん。言葉に嘘はないようで、入るときに緊張していた顔とは別人のようだ。

そしてモハマドさんのいう今後の予定に、私達もムバラクさん達も頷きを返す。

「さて、それならば今日は戻ってくれていい、と言いたいが、ルーク君達はもう少し時間をくれないかな?」

との言葉。理由は分からないが断る理由もなく、

「?分かりました。」

と答える。

「それじゃあ、俺たちは帰られせて貰おう。素材の買取も頼まないといけないからな。」

「じゃあね。明後日はよろしく。」

そう言ってムバラクさん達は帰っていった。ついでに言うと、ラフィさんは既に自力で歩いている。

ちなみに、彼らが襲われていた際のダンジョンアントの素材は私達が貰っている。実際ほぼ私達が狩っていたし、彼らの取り分に関しても窮地を助けた分の謝礼として受け取り、それでチャラにしようということになった。


「さて。」

部屋の中が私達だけになったところで、モハマドさんが口を開く。

「まずは時間をくれたことにお礼を言いたい。ありがとう。」

「いえ、お気になさらず。」

「ふむ。それで早速残ってもらった理由なんだが。まず私、というよりギルドからの通達で、君達をB級に認定したいと思う。」

唐突にそんなことが話された。

「B級ですか?」

「そう、不思議そうにしなくてもいいだろう?知っての通り、ギルドでは高ランクの冒険者の情報はある程度把握している。先ほど部屋を空けたときに確認したんだがね。魔物の討伐数に加え、ロックリザードの討伐依頼や野盗も複数の集団を討伐しているし、貴族からの長期依頼も問題なくこなしている。そして今回はダンジョンに潜り、窮地の冒険者達の救出だ。B級の昇進には副ギルド長以上の推薦がいるのだが、今回は私がしよう。」

ぐるっと私達を見渡すギルド長モハマドさん。

「というわけでだ。ギルドとしては、優秀な人材にはふさわしいランクにいてもらいたいのだよ。受けてもらえるかね?」

そう聞かれて、

「はい。わかりました。」

私は即答した。仲間達も同様だ。

というよりは、ランク自体はあくまでギルドからの評価であり、私達の意思は関係ない。

断ったところでギルド長クラスがB級といえばその時点でB級だ。質問のようになったのは、だからその後の内容があったからだろう。

「それを聞けて嬉しく思うよ。それで続けてなのだがね。ルーク君、ユニ君、テオ君の3人は、実力テストを受けてみるつもりはないかい?」

実力テスト。つまり、現在4の評価を3に上げないか、ということだ。

忘れている人のために言うと、目安なのだが、数字の評価は戦闘に関する実力を表している。4は戦闘の専門家としては中の上、3からは上級者と言えるようになる。B級やC級が総合的な信頼なのに対し、数字は純粋な実力だ。

そしてテスト自体はギルドによって違う。ガインの街では、師匠の作ったゴーレムを使っていたな。そんなことを思い出すと、なんだか懐かしい気持ちになるな。

ミリア師匠は元気だろうか、なんて考えていると、モハマドさんの話が続いていた。

「ちなみにこの町、というかゴランでは判定員として雇われた高位冒険者と共にダンジョンに潜り、評価するという形をとっている。とはいえ、すごく特別に何かをするわけでもなく、ある程度意識して魔物を狩ってくれればそれでいいよ。今回、敢えて提案したのも、ムバラク達とダンジョンに潜る際、一緒にテストを受けてみてはどうかと思ってね。」

なるほど。話は見えてきた。

「それはありがたい話ですが。」

実際、ランクが上がることでのデメリットはほとんどない。高ランクになった途端貴族から目をつけられるなんて話も聞かないな。

まあ、メリットらしいメリットも特にないのだが。ゴランでならダンジョンに入る際の制限に繋がっているそうだし、他の国なら騎士なんかになるときに有利になるくらいだ。

私達の場合も、騎士になる気は無いが、もし本当にカイゼル師匠達の道場を継ぐなり、自分たちで開くなりする場合の箔にもなる。

だからこの申し出は、とてもありがたいのだが、

「調査依頼のついでなんて、いいんですか?」

と気掛かりな部分を質問する。

「うん?ああ、問題ないよ。ムバラク達なら判定員は慣れているからね。もちろん確認はするが、負担にはならないだろう。それで、じゃあ明後日の調査の際に、実力テストも行うという事でいいかな?」

そういうことならば、

「はい。よろしくお願いします。」

好意に甘えさせてもらおう。

みんなも表情や雰囲気からは反対の様子は見れない。

みんなに相談せず返事してしまったが、大丈夫だろう。

「そうかそうか。よし、ではムバラク達には伝えておこう。こちらはまず断られる心配はいらないからね。」

そう言ってモハマドさんは微笑むのだった。


その後、お互いに挨拶をして部屋を出る。

さて、私達も忘れずに素材を買い取りにだそう。

見てもらいたいものもあるしな。

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