第84話 ギルドで報告

ダンジョンから出る頃には、外は薄暗くなっていた。

アイラの回復魔法を受けたラフィという男性は、それでも流石に歩くことは出来ないようで、手を握っていたアフマドという男性に背負われている。

私達と会話をした剣士はムバラクといい、ハンマーを振り回していた女性はルカイヤというらしい。

ちなみに、今までの旅路でも肌の色は多様だったが、この街というかゴラン大草原もそこは変わらない。

ただ、王国や共和国に比べ褐色の人の割合が多く、偏見かもしれないが砂漠の街っぽい。

なんでいきなりこんな話をというと、新たに知り合った4人も皆褐色の肌をしているからだ。

まあ、それで何がかわるわけでもないが。

私達の紹介も当然済ましてある。仮面に関しては、特に話していないが、最初に驚いた顔をされた後は、向こうも敢えて触れてはこない。

大人の反応と言うやつだな。


「アイラと言ったよな。本当にありがとう。あんたがいなけりゃ、どうなっていたことか。」

「俺からも言わせてくれ。ラフィを救ってくれて本当にありがとう。」

ラフィさんとアフマドさんが言えば、ムバラクさんとルカイヤさんも口を開き、

「アイラだけじゃない。ルーク、ユニ、テオがいなけりゃ俺たちはあそこで死んでいただろうさ。本当に感謝する。」

「ええ。あなた達が来てくれなかったらと思うと、寒気がするわ。ありがとう。」

口々にお礼を伝えてくる。

「どう致しまして。無事で良かったですよ。」

と私が代表して返事をする。

物のついでに行ってしまえば、彼らはこの街で育った幼馴染同士のパーティで、ムバラクさんとルカイヤさん、ラフィさんとアフマドさんはそれぞれ恋人同士らしい。

ラフィさんとアフマドさんは同性愛ということになるわけだが、この大陸では特に同性愛を禁じる法律はなく、結婚もできる。

さらに言えば貴族における事情もミリアーヌ様達から聞いた話では、後継などの関係で当主は異性との婚姻が求められるが、逆に言えば当主を辞退し一代の分家になることで貴族でも同性婚は成り立つらしい。

子どもが1人しかいない場合は近隣者から養子を取るというから徹底しているというか、実力さえあればそれでいいのだろう。


「いや、あんなことは初めてだ。」

ムバラクさんが短い髭の生えた顎を撫でながら、そう答えた。

ダブルカップルパーティとお喋りをしながら歩いている。その途中でダンジョンでのことについて訪ねたのだが。

「そうなのですか?」

「ああ。俺たちもダンジョンに潜って長いが、毒を使うダンジョンアントなんて初めてあったぜ。」

と言うことらしい。

「ま、ここで言ってても仕方ないわよ。とにかく今はギルドで報告しましょ。」

とルカイヤさん。彼女は黒の髪を肩あたりで切り揃えたつり目の女性だ。

ダンジョンをでて2時間後、ギルドに到着した。ラフィさんもいるのでやや時間がかかったのは仕方ない。


「それは本当ですか?」

ギルドの受付嬢が訝しげに聞いてくる。

「疑問は分かるが、俺が証拠だ。」

とアフマドさんに負われたラフィさんが答えている。ちなみにアフマドさんはスポーツマンといった出で立ちで、ラフィさんは中性的な顔立ちの男性だ。だからなんだ、と言う情報だが。

話を戻そう。

詳しく話を聞きたいと言われた私達は、ギルドの中の別室に案内された。

その部屋の中央には大きな長方形のテーブルとその周りに椅子が置かれ、会社の会議室を思い出す。

待たされること1時間。

「時間を取らせて悪いね。だが、我々としても適当には出来ないのだよ。」

そう言って部屋に入ってくるのは、恰幅の良い人の良さそうな男性。頭部を光らせながら、こちらから目線を外す様子はない。

部屋には私達4人に、ムバラクさん達4人がそれぞれテーブルの左右に並んで座り、そして今ら口を開いた男性がいわゆる誕生日席に座った。

なお、ラフィさんはもう調子が戻ったそうで今は1人で座っている。というか、恋人と離れたくなくて負ぶわれていたのかもしれないが。

「さて、私の名前はモハマド。ここのギルド長をしている。ルーク君達と言ったかね。こんな状況だが、ようこそゴランに。そしてダハの町へ。君たちを歓迎するよ。」

ギルド長の登場か。まあ、予想通りだが、改めてそれだけの事態だと認識する。

「まずは、報告を整理しよう。ムバラク達のパーティが、この街のダンジョンの地下10階にてダンジョンアントの群れに遭遇。そのうちの1匹、小型の個体がメンバーのラフィに噛み付いたところ体が痺れ動けなくなった。その後、丁度同じ階に降りてきたルーク君達のパーティに助けられてその群れを撃退。ダンジョンから脱出に成功した、で良いかな。」

その顔には困惑がありありと浮かんでいる。

「その通りだ。」

と、ムバラクさんが答えている。口調から顔見知りなのだろう。

モハマドさんが私にも視線を向けるので、

「ええ。間違いないと思います。」

と答える。それを聞いたモハマドさんは、

「そうか。」

と呟くと考えるように目を瞑る。

しばらくのち、こちらに向き直り話を始めた。

「ムバラクは分かっているだろうが、ダンジョンアントが毒を使うなんて初めて聞く。と言うよりも、今まで体格が大きくなると言う変化はみられたが、それ以外の変化が確認されること自体が初めてだ。そして、ここゴランはダンジョンアントの変化を放っておくわけには行かない。2度として500年前の悪夢を起こしてはならないんだ。杞憂ならいいが、それならそれで、大丈夫だと言う確信が必要だ。」

そこで一度言葉を区切るモハマドさん。軽く呼吸をして続きを話し始めた。

「ギルドは今回の報告を受け、他のギルドと情報を共有するとともに、探索隊を組織し、この町のダンジョンと横穴の先までの範囲の調査を行うことを決めた。」

モハマドさんが真剣な目をする。

「そこでだ。ここにいる8人に、そのままダンジョンの探索を依頼したい。理由は当事者であるとともに、能力の高さだ。ムバラク達は皆B級だし、ルーク君達もC級だ。あまり大所帯にしては狭いダンジョンでは不便だろうし、どうだろうか?」

ふむ。思わない展開になってきたな。

「少し、パーティで話をさせてもらってもいいですか?」

と私が言うと、

「俺たちも少し相談したい。」

とムバラクさんも言う。

「分かった。私がいては邪魔になるだろう。では、30分後に戻ろう。」

そう言ってモハマドさんが退室する。


「さて、どうするか、と言いたいが。」

「ん。行った方がいいと思う。」

「そうなのか?」

「そうだね。アイラ、ギルド長から直接依頼されるなんて、まずありえない。それだけ緊急だと言うことだと思うんだ。と言うか、本来はA級でもないと声がかからないんじゃないかな。」

声が聞こえていたんだろう。ムバラクさんが教えてくれる。

「この町には滅多にA級はいないからな。もっと中央に近いダンジョンのある町なら話は別だが。」

らしい。続けて、

「ちなみに俺たちは受けるつもりだ。ルーク達も分かっての通り、それだけの事態の可能性があるし、何より俺たちはこの町で生まれ育ったからな。放って置けない。」

とのこと。

「そう言うことなら。」

と、みんなの顔を見ると、みんな頷きを返してくる。


さて、ただの社会見学のつもりが、おおごとになったものだ。

私は、仮面の中で軽く溜息をついた。

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