第46話 海洋ギルド
「ここ、ですか?」
「おう。まあ、先生達には馴染みはないだろうな。」
ロックさんに案内された場所は、なんと海洋ギルドだった。
海洋ギルドとは、内陸のガインの街などとはあまり縁がないが、船乗りや造船所などの互助組織である。
大陸中の港に支部があり、商品である魚の買取や貿易商との橋渡しにもなる。
冒険者ギルドもだが、交渉ごとの苦手な人々の代わりとなるため、海に生きるもの達にとっては頼りになる存在なのだろう。
さらにロックさんに先導され、ついたの、ガインの街の道場を思い出すような広さの部屋だった。
そこでは、30人程がそれぞれ床に座りながら、輪になって飲み食いしつつ談笑をしている。
そのうちの1人、この中では明らかに年長の白髪混じりの男性がこちらに気付いた。
「おっ、ロック。遅いじゃねーか。それに後ろのはどうしたんだ?」
「悪りいな。で、この人達は俺の恩人とその仲間でな。落ち着いて飯を食う場所がねぇってんで。」
「どうも。ロックさんとは冒険者ギルドの依頼を通して知り合いまして、私からルーク、ユニ、テオ、アイラと言います。」
「こりゃ丁寧に。俺はこいつらのまとめ役でダンダってんだ。まあ、そんなところにいるのもなんだしな。こっちに来て座ってくれ。」
「では、お言葉に甘えて。」
ダンダさんに誘われ私達も輪に加わる。
何はともあれ、まずは折角のピスクス料理を頂くとしようか。
結論から言うと、どれも大変美味しかった。
味としてはカツオに似ているだろうか。これだけ美味しいのはやはり新鮮だからなのだろう。
内陸で育ったユニ達はもちろん、前世はあまり海に縁のなかった私も、滅多に口に出来ない味を若干我を忘れつつ楽しんだ。
「かっかっか。いい食べっぷりだな。」
「ダンダさん。とても美味しくて、つい。お恥ずかしいところを見せましたね。」
「なーに、自分らが獲った魚を、美味そうに食ってくれて喜ばない漁師はいないわい。」
「先生達は、宿屋でも美味そうに魚を食ってたからなぁ。」
「おう、そうだ。その、先生ってのなんだ?今年ロックが遂にピスクスを獲ったことと関係があんのかい?」
「ああ。と、その前に。すまない先生。みんなにはあの事を話してもいいか?」
あの事とは、魔力を練る特訓のことだろうか。ならば問題はない。師匠からも特に秘伝ではなく一般的な訓練法だと教わったからな。
「ええ。構いませんよ。」
「そうか。ありがとうな、先生。でだ。実はな…」
そう言ってロックさんは、私との特訓について話し出した。
「なるほど。」
ダンダさんが納得したように、頷いている。
「どうしてロックの使う銛がピスクスに刺さらないのか誰も分からなかったんだが、まさか魔力のせいだとはな。これはルークさんが来てくれにゃ、分からんままだったじゃろう。」
なんでもロックさんの腕は漁師の間でも有名で、同時にその彼が何故かピスクスは釣れないことが、ここ数年クチュールでは謎とされていたらしい。
もちろんクチュールにも魔法使いはいるだろうが、だからといって普段から付き合いが無ければ分かるものも分からなかったのだろう。
「いや、ルークさんには本当に感謝しなけりゃいかんな。ロックのこともじゃが、これから同じような漁師が出来た時にも、ルークさんのお陰で解決するかもしれん。何かお礼が出来ればいいんじゃが。」
「私としても、お役に立てて嬉しいです。」
「全く、ルークさんは欲がないの。そういえば、ルークさん達は旅をしとるじゃよな。この後はどこに行くんじゃ?」
「はい、カタルス共和国へ船を使って行こうかと思っています。」
「となると、ここからゼラム港までと言うことかの?」
「ええ。」
「それで船は確保出来たのか?」
「いえ、実は船が見当たらなくて。」
「そうじゃろうな。」
ダンダさんは腕を組んで頷いている。
「普段なら特に問題ないんだろうが。今の時期はな。どこも先約でいっぱいじゃろう。それならちょうど良い。儂のとこの船に乗るか?」
「いいのですか?」
「うむ。明日すぐに出ないと行けないんじゃが、それで良ければな。難しいなら他の船を探すぞ。」
「いえ、明日で大丈夫です。本当に助かります。」
「なに、こちらこそ恩返しが出来そうで良かったわい。ガッハッハ!」
そう言ってダンダさんは豪快に笑うのだった。
その後も漁師の人々との交流を楽しみ、明日の朝港で落ち合う約束をして私達は宿に戻った。
とにかくこれで、カタルスまでの足はどうにかなりそうだ。
情けは人の為ならず、とは本当のことだな。
「おう、よく来たな。さあ、乗ってくれ。じきに出発するぞい。」
翌朝港に着くと、そうダンダさん改めダンダ船長から声がかかる。
船長の言葉通り、1時間も経たずに私達を乗せた船は大海原へと漕ぎ出していく。
海洋都市群クチュール。なかなかに得難い経験を出来た街だった。
第3章 海洋都市群クチュール編、完
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