第45話 ピスクス祭り

訓練の翌日、私達は港に来ている。

元々クチュールは大都市であり、人の多さに驚いていたが、今日は普段の比ではない。

これだけの人間が一度に集まっているのを直接見るのは、前世でも無かった。

現在港にはいくつもの木組みの舞台が作られ、私たちもその1つに乗っている。

まさかこの世界で、満員電車のような経験をするとは思わなかった。

人々のおしゃべりの声で若干耳が痛い。

海に接した場所では火が焚かれ、その灰を海にばら撒いている人がいる。

ロックさんに聞いた話では、あの灰の匂いに誘われてピスクスの群れがこの港に来るのだそうだ。


沖にも、いくつもの船が並び、その上では漁師達が例の魔道具を構えている。


「あ。ロックさんだ。」

ユニが指差す方向には、確かにここ数日で馴染んだ顔がいた。

彼も魔道具を構え、真剣な表情で海を睨んでいる。

訓練に付き合った者として、彼の今日の成功を祈らずにいられない。


「来たぞ!」

ここに来て30分ほど。ボンヤリと海を眺めていると、知らない誰かの声が私たちの視線を沖に誘導する。

確かによく見れば、大きな影がこちらを目指して泳いでいるのが見えた。かなりのスピードだ。


その魚影に向けて漁師達が銛を放つ。

こちらもまた凄まじいスピードで、なるほどこれは手で投げては勢いが足りないだろう。


次々と魚に銛が刺さり、その後船の上へと引っ張りあげられる。

魚が船に上がる度に歓声が響き渡った。


肝心のロックさんへと目を向けると、彼は魔道具を構えたまま、まだ銛を放っていない。

「どうしたのかな?もしかして魔道具が壊れた?」

「いや、」

「違うと思うぜ。」

テオの疑問に答えようとすると、アイラも口を開いた。そのまま説明をしてくれる。

「どうも瞑想をしてるみたいだな。ルークが教えたんなら、確か魔力を練るって言うんだっけ?」

最後の疑問は私に向けたものだ。

「ああ、そうだ。っと、見ろ!」


遂にロックさんの魔道具から銛が飛び出す。

それは明らかに他の船乗りが扱うもの以上の勢いで飛び海へと消えた。

さらに待つこと数十秒。

引っ張りあげられた銛の先には、見事に中央部を貫かれた魚の姿があった。


「わあああ!!!」

周囲からはさらに大きな歓声が。

「ロック!よくやったぞお!!」

どうやら彼を応援していたのは私たちだけではないらしい。

ロックさんの顔からは満面の笑みがこぼれるているのがよく分かる。


私たちはその後も、祭りの一体感を楽しむのだった。



昼の少し前には、港に来たピスクスはあらかた釣り終わったようで、解散を始めている。

しかし、祭りがこれで終わったわけではない。

むしろ私のような人間には、本番はこれからだ。


舞台を降り、私たちは次の会場に向かった。

そこはつい先日、ユニといきロックさんと再会した屋台街。

しかし、その時と比べメニューが違う。もちろん全ての屋台を覚えている訳ではないが、見覚えのある品なないと言うことはそうなのだろう。

「ピスクスの串焼きだよー!」

「こっちはピスクスの揚げ物だぜー!!」

「ピスクスのすり身入りのスープはいらんかねー!」

そこかしこら聞こえるのはピスクス料理の売り込みだ。

「これ、全部ピスクス?」

「みたいだね。それにしてもさっき釣ってすぐに料理したのかな?」

ユニとテオが話していると、

「なんだ嬢ちゃん達ピスクス祭りは始めてかい?ここらで使っているピスクスは昨日沖の方で釣ってあったぶんさ。釣りたてとは言えねーが、どれも美味いぜ。」

と、酒のせいか少し顔を赤くさせた通りすがりのおじさんが、教えてくれた。

「そうなんですか。わざわざ教えてくださって、ありがとうございます。」

「なーに、せっかく祭りの時にクチュールに来たんだ。嬢ちゃん達も楽しんでいってくれよ。」

そういうと手を振りながら人混みに消えていった。


私とアイラは少し離れた場所で

「なあ、ルーク。」

「なんだアイラ?」

「あのおじさん、ぜってーテオの方を見ながら嬢ちゃんって言ってたよな。」

「…分かっている。本人も分かって流してるんだ。言わないでやってくれ。」

「ん。そうだな。」

そんな会話を交わしていた。


私達は今苦労して買い込んだ串焼きやら揚げ物、スープを抱えて席を探している。

どこも満席だ。

最悪宿に戻るかと思っていると、

「おーい、先生達じゃないか?」

聞こえてきたのはロックさんの声だった。

「これはロックさん。そうだ、こんな状態でなんですが、先程はおめでとうございます。」

「ありがとうよ。それもこれも、先生のおかげだぜ。ところで見た感じ、飯を食う場所を探してるのか?」

「ええ。ただどこもいっぱいで。宿に戻って食べようかと思っていたところです。」

「それならこっちに来ないか?漁師達用のスペースがあるんだ。」

「それはありがたいのですが、いいのですか?」

「おう!他の奴らも家族なんかを連れてきてるしな。そうと決まればこっちに来てくれ。」

「では、お願いします。」

良かった。

どうやら、これで落ち着いて食べることが出来そうだ。



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