第44話共和国の新技術
ロックさんと別れ宿に帰ると、テオとアイラは既に戻っていた。
夕食を済ませて部屋でいつものように雑談をする。
その日どんな事があったかという話題になると、テオが一冊の本を見せてきた。
「その本がどうしたんだ?」
「まずはこれの中を見てみてよ。」
テオに促され本を開くと、それはこの世界で初めて見る物だった。
「これは!」
「?」
ユニは首を傾げるが、私は思わず驚きの声が出た。
「あれ?ルークにはこの凄さが分かるのか?」
「私には何が凄いのか分からない。確かに綺麗な字だけど。」
ユニの言うようにとても整った字だ。人の力では無理な程に。
今更だがこの大陸で使われている共通語は英語のように、20個程度の文字を組み合わせて単語を作る。
私が普段言うA級とかB級はその文字の1つ目と2つ目だ。
そして、この本は同じ文字は全て、同じ形をしている。
つまりだ。この本には活版印刷の技術が使われていると言う事だ。
「こういう本は他にもあったのか?」
「うん。後2冊ね。」
「ルーク。これは結局何が凄いの?」
「ユニはさっき綺麗な字だと言ったが、これとこれとこれをよく見てくれ。」
「?…!全部同じ形。」
ユニも分かったようだ。この世界の本は手書きか、それを版画のように擦ったものが基本だ。当然そこには書き手の癖があり、この本との違いは一目瞭然だ。
とはいえ、私がすぐに気付いたのも前世で印刷物に親しんできたからだろう。確かにその知識が無く、一見した程度では綺麗な字としか思わない。
「これは、多分いくつもの文字の型を組み合わせた物にインクを付けて紙にすっているんだろう。」
もちろん、実際はもっと複雑な仕組みだと思うが。
「ルークはやっぱり凄いな。店主の言っていた説明と全く同じだぜ。」
今度はアイラ達が驚いている。とはいえこれで褒められるというのは、どうにも違和感が残ってしまうな。
「この本はこの街で作っているのか?」
「ううん。共和国だって。」
共和国。正確にはカタルス共和国は、確か北半分が農業を中心とした穀倉地域で、南が芸術や技術の研究が盛んな地域らしい。そして首都ソフィテウスはこの大陸でグラント王国の王都グラントニアと1位、2位を争う大都市だと聞いている。
アイラが店主からの話を教えてくれた。
「聞いた話じゃ、こういう本は最近の発明でさ。なんでもこの発明のおかげで、元々大きかった大図書館は大規模な改築を済ませてもっと沢山の本を入れるようになったんだってよ。」
共和国の大図書館と言えば、知を求めるものの殿堂だ。先程1、2位と言ったが、実質は武の頂点グラントニアと知の頂点ソフィテウスという方が正しいか。
次に口を開いたのはテオだ。
「それでさ。次の行き先はまだ決まってないでしょう?良ければだけどさ…」
「共和国の首都ソフィテウスか。」
「どうかな。あたいも行ってみたい。」
「私も共和国には興味があるんだが、ユニはどうだ?」
「私もいいよ。」
「ありがたいが、たまにはユニも希望を言ってくれよ。」
「大丈夫。共和国なら鍛冶屋に行きたい。」
ユニはそう言って、荷物の横の剣に目をやる。
思えば冒険者になる前から使っているそれはそろそろ寿命かもしれない。
確かに技術の進んだ共和国なら、質の良い剣もあるだろう。
「では、決まりだな。実は私も共和国には行きたかったんだ。ほら、ロックさんから米という食べ物を教えてもらっただろう?」
「そういえばそんな話もしてたね。やった!どんな本があるか、今から楽しみだよ。」
「じゃあ、行き方はどうするんだ?」
アイラが聞いてくる。
「折角クチュールに来たんだ。船に乗って共和国の港に行こう。ただ、その為には例の祭りが終わるのを待つしかないが。」
「いいと思う。それにロックさんと約束があるんでしょ?」
「あれ、ユニ。約束ってなに?」
「ああ、実は…」
そこで私は、ロックさんの訓練に付き合う事になった事までのあらましを伝えた。
「伝えるのが後回しになってすまなかった。やり方は教えてあるし、必要なら断るつもりだったが。そういうわけで私は、明日はロックさんに付き合うつもりだ。」
「いいよいいよ。気にするような事じゃないって。」
「人助けだしな。祭りは明後日だよな。じゃあ、明日も自由行動にするか?」
「ああ、そうしよう。」
こうして今後の予定が決まった。
因みに船は明日、テオとアイラの方で調べてくれる事になった。ギルドに行けば簡単に分かるだろう。
その後、私達は眠りに着くのだった。
朝になり、それぞれに行動に移る。テオとアイラは昨日の通りにギルドに行き、その後教会に寄ってくるそうだ。
ユニの方は今日は1日宿で寝ている事にしたらしい。
そして私は、昨日ロックさんと訓練をした場所に来ている。
ロックさんは既に来て待っていた。
「おはようございます。ロックさん。」
「おう、おはよう先生。2日続けて悪いが、今日もよろしく頼むぜ。」
挨拶を済ませ、私達は昨日のように魔力を練り始めた。
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