第43話 船乗りの悩み
私とユニ、そしてロックさんの3人は、屋台近くの椅子に腰掛けた。
それぞれ手には買ったばかりの串焼きを持って。
「飯を食ってる時に悪いな。」
「いえ、お気になさらずに。それにしても、まさかこんなところで会うとは思いませんでした。」
「うん、驚いた。」
「そうか?まあ、確かにこの街は広いからな。俺としても、もう会わないだろうって思っていたんだが、偶然ってのはあるもんだな。」
「ロックさんもお昼を食べに来たんですよね。お仕事の休憩ですか?」
「いや、一昨日大きな漁から帰ったところでな。昨日から祭りが終わるまでは休みになったんだけどよ…」
そこまで言うと、ロックさんは頬を掻きながら視線を上に向ける。
言いにくそうにしていたが、すぐにこちらを向き口を開いた。
「なあ、ルークのにいちゃん。確かあんた、魔法が得意なんだよな。」
「ええ、まあ。」
昨日の夜、フォレストボアを狩った時の話は、『顔』の事は省いて話してある。
簡単に魔法で落とし穴を作り、テオが弓で射抜いた、という内容だ。嘘ではないし、実際普段ならそういう狩り方をしている。
「そんなあんたに折り入って頼みがあるんだ。」
「頼み、ですか。それは魔法に関する事で?」
「ここじゃ話にくくてな。着いてきてくれないか?」
どうやら思ったより深刻な様子が表情から伺える。
私としては、可能なら受けても構わない。彼とは数日の付き合いだが、悪い人ではなさそうだからな。
そう思い、ユニに向かって頷くと、ユニからも頷き返される。
よし。
「分かりました。では、案内をお願いします。とはいえ、力になれるかはお話を聞かないと分かりませんが。」
「もちろんだ。それでも感謝するぜ。さあ、こっちに来てくれ。」
そう言ってロックは話ながらも食べていた串焼きの串を小さく折り、懐の袋に入れた。
ゴミは持ち帰るのが基本だ。
その後、私達が連れてこられたのは、街の外れにある森の中だった。
大きく拓けた場所に、傷だらけの板とその向かい側に置かれたなにかの道具がある。
板の大きさは低学年の小学生が収まるくらいで、板と道具の間は結構な距離だ。
見た目は小さな大砲のようだか、筒の部分は細く、先端から銛のようなものが見えている。
そして銛とは反対部分には、細かい文字が書かれている。
「これは、魔道具ですか?」
「その通りだ。さすが、よく分かったな。」
「まあ、魔法文字が書かれていますしね。なんとなく予想は付きますが、どんな道具ですか?」
「多分その予想であってるぜ。こいつは銛を飛ばす道具でな。こいつは今朝言ったピスキスを取る為の道具だ。」
「なるほど。つまりその銛で、海の中のピスキスを貫くんですね。」
「その通り。銛には紐が付いていてな。ちゃんと戻ってくるようになってんのさ。」
「手で投げるのでは駄目なのですか?」
「ああ。言った通りピスキスは魔物だからな。普通にやったんじゃとても体を貫くなんて出来やしねえのさ。」
「それは分かりましたが、そうなるとお願いとは何ですか?先に言っておくと、私にはこれの修理は出来ませんよ。」
これは本当だ。以前魔法使いは得意不得意が大きいと言ったが、私の苦手分野は魔道具作り。
使う分にはむしろ小器用だとミリア師匠からも褒められたが、いざ作ったり、壊れた道具を直したりはてんで無理だった。
師匠は逆に魔道具作りが専門で、弟子としては不甲斐ない思いだ。
師匠は得手不得手は当たり前と言ってくれるが、当の師匠に苦手分野があるとは聞いたことがないし、想像もつかないのが正直なところだ。
「それは安心してくれ。ちゃんと動く。相談ってのは、まあ、見てもらった方が早いな。」
そう言うとロックさんは板を見ながら、魔道具に手を当てる。
よく見れば板には魚の絵が描かれている。
ドシュッ!!…トン!
大きな音と共に銛が飛び出し、板に当たると、軽い音と共に地面に落ちた。
更によく見れば、板の傷は全て魚の絵の中心付近。
つまり、命中ということだ。
私もユニも拍手と賛辞をを送る。
「凄いですね。」
「お見事。」
「ありがとうよ。そう、当てる事は出来るんだ。」
「何がダメ、なんですか?」
ユニが首を傾げるが、私も同意見だ。こういうのは、当てるのが一番難しいと思うのだが。
「板をよく見てくれ。」
「傷だらけですね。しかも全て魚の絵の中に。」
「そう、傷はつく。けど、穴は開かねえんだよ。」
「ああ、なるほど。つまり、あの板に穴が開くぐらいの威力がないと、意味が意味がないと。」
そうなると、ピスキスとは予想以上に防御力の高い魔物のようだ。
「そうなんだ。自慢じゃないが、当てる事に関しちゃ俺は自信があってな。去年の祭りじゃ百発百中よ!なのにちっとも体に刺さらねえから、結局捕まえる事は出来なくてな。ここでこうして特訓しちゃいるんだけどよ…」
穴は開かないと。
「道具の不備という可能性は?」
「そいつは俺も考えてな。頼んで他の奴のを使わせて貰ったんだが同じだった。しかも貸してくれたやつは俺の使っていた道具でピスキスを釣り上げてるんだから、道具のせいじゃねえと思うぜ。」
確かにそういう事なら、道具のせいではなさそうだ。
「すみませんが、私も使ってみていいですか?」
「ああ、勿論だ。」
そう言ってロックさんは横に動いた。
「それと狙いをつけるのは難しいので、それは頼めますか?」
銛が飛び出した反動か、筒は大きく上を向いている。
これでは、銛がどこに飛ぶか分からない。
「おう、任せてくれ。」
ロックさんが筒を動かして固定するので、私はそれ以上動かさないよう気をつけながら、文字の上に手を当て魔力を流す。
ドシュッ!!!…ズボッ!
すると先程より勢いよく飛び出した銛は板に突き刺さった。
場所は魚の絵を少し外れた場所だったが…
「す、すげーもんだな。」
ロックさんが目を丸くしている。
それは置いといて、原因はほぼ分かった。
「原因はおそらく魔力不足ですね。」
「魔力不足?」
「ええ。道具には問題はなさそうです。なら、単純にロックさんの魔力量が普通の人に比べ少ないのだと思います。」
「魔力量?それはどうすれば増えるんだ?」
「残念ながら、魔力量は基本的に生まれた時に決まり、増える事はないと言われています。」
まあ、私という例外がいるのだが、それは言わない方がいいだろう。
私の言葉を聞いたロックさんの顔は分かりやすく絶望していた。
「ただ、」
「ただ!?」
ロックさんが私の肩を掴む。必死だが痛くはないので、まだ理性残っているようだ。
「魔力の質を高める訓練はあります。細かい話は省きますが、魔法の威力を高める事は出来ますし、魔道具についても効果を高める事は出来ます。」
そう伝えると、絶望顔から一転、安堵した表情になるロックさん。
「とはいえこれもすぐに効果が出るかは分かりません。少しでも訓練するためにすぐに始めようと思いますが良いですか?」
「勿論だ。というか、今更だけどよ。手伝ってくれるのかい?」
「ええ。乗りかかった船という言葉もありますしね。ユニも構わな…」
後ろを見ると、木に持たれて寝ているユニの姿があった。
「…。ま、まあ、乗りかかった船です。付き合いますよ。」
「お、おう。助かるぜ。それにしても乗りかかった船、か。面白え言葉だな。よし!頼むぜ、ルーク先生。」
「せ、先生ですか?今まで通りで良いですよ。」
「いいや。教わるんだから先生だろ。」
少し問答が続くが、結局私が折れる事になった。
その後、土魔法で椅子を作り、お互いに座りながら、師匠に教わった魔力の練り方を教える。
「いい感じですよ、ロックさん。」
ロックさんは集中している。
人に教える機会はほとんどないので不安だったが、普段から船の操縦で魔道具に触れているからか。
試してみるとあまり掛からず魔力を練り始めた。
その後、暗くなる前にと試すとまだ穴が開くほどではないが、明らかに今までより勢いが増していた。
「お、おお!やったぜ!ありがとうよ、先生。」
「いえいえ、ロックさんの頑張りのお陰ですよ。」
その後私達は明日も訓練をする約束をして、別れる事にした。
テオ達に勝手に決めてしまったが、明後日の祭りには興味があるようだったし、大丈夫だろう。
もし無理なら、やり方は伝えてあるし、ロックさんに謝る事になるが…
勿論、ユニは起こして連れて帰った。
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