第39話 船乗りと魔物

宿屋の店主に呼ばれ一階に降りると、そこにはまだ幼さの残る顔立ちの少年がいた。

彼は私を見ると話しかけてきた。

「ルークさんですか?ギルドからの使いで来ました。」

「確かに私がルークです。ギルドからということは、船の用意ができましたか?」

「はい。急な事でルークさん達には申し訳ありませんが、第3港に用意が出来ています。もし良ければすぐにでも向かってもらえますか?」

「今からですか?」

「はい…その、船乗りは気の短い方が多くて。でも、腕は確かです。」

私は後ろを見る。

仲間達は頷いてくれた。

「そういう事なら分かりました。すぐに向かいましょう。その第3港への道を教えてくれますか?」

「ありがとうございます。ギルドから大丈夫ならそのまま案内するよう言われています。」

「分かりました。では、荷物を用意しますので、少し待ってください。」

こうして私達のクチュールでの初仕事が始まったのだった。


宿から港までは1時間ほどだった。

昨日は着いたばかりで街を見ることも出来なかったが、流石は大陸でも有数の大都市。

多くの人が行き交い、喧騒が途切れる事がない。

そして街全体に広がる潮風の香りが、ここが私達にとって異国である事を教えてくれている。


そして今、私達の前には日の光を反射し煌めく海とそこに浮かぶ巨大な船の数々が、その姿を現した。

「「「………」」」

私にとっても前世以来の海だが、ユニ、テオ、アイラの3人には初めての海だ。

みんなは風の匂いが違うことにも困惑していたが、目の前に広がる海に言葉を失っている。

「え、えーと、どうされましたか?」

使いの少年は不思議そうに声をかけてきた。

まあ、生まれた時から海を見ている彼には海を見て止まる人間の気持ちは理解しにくいだろう。

「私達の故郷には海がないので、みんな驚いているんですよ。」

「えっ、海がないんですか?」

おっと、彼にしてみれば逆に海がない事の方が衝撃らしい。

「ルーク、凄いね。」

「ああ、本当にな。」

ユニが言葉を発する。

それを受け、他の2人も動き出してきた。

「これが海なんだ。本で読んだことはあったけど、本当に水がどこまでも広がっているんだね。」

「あれがしょっぱいって本当なのか?」

アイラが少年に質問している。

「あ、はい。そうですよ。目に入ると痛いので気をつけてください。そういえば、島の方では海から塩をとる人も住んでいるそうですよ。」

因みにこの大陸では、海から塩を精製する事はあまりない。

大陸中央部にあるアプルス山岳部で巨大な岩塩の採取地があるため、塩といえば岩塩を使う。

とはいえ、少年の話では少数ながら海からの塩も取れるらしい。

「す、すみません。船乗りの方を待たせているので…」

少年の声に、待ち合わせを思い出した私達は早足で目的の船に向かうのだった。


「おせーぞ!!って、あんたらは。」

開口1番そう発するのは、まさかの昨日の宿屋で米について教えてくれた男性だった。

とにかく、まずは謝罪だな。

「遅れて申し訳ありません。私達は海を見るのが初めてでつい感動して見入っていたのです。」

「いや、そういう事ならな。まさか昨日みた兄ちゃん達が来るとは思わなかったぜ。まさか冒険者だったとはな。」

「ええ。冒険者をしている、私がルーク。こちらがユニ、テオ、アイラです。今日はよろしくお願いします。」

「おお、ありがとうな。俺はロック。この街で漁師をしてるんだが、まさか兄ちゃん達が来てくれるとはな。」

「こちらこそ、昨日の方に今日お会いするとは思いませんでしたよ。」

そんな風に談笑すると、

「あ、あの。では僕はこれで。フォレストボアの討伐。よろしくお願いします。」

少年はそう言って頭を下げると帰っていった。

「よし、それじゃルーク、だったな。船に乗ってるくれ。」

ロックがそう言って指をさすのはボートのような大きさの木造の船だった。



「よし。それじゃあ、船を出すぜ。」

ロックはそう言い、船に置かれた青い球体に手を触れる。

「これはなんですか?」

「これは魔道具でな。これを使って船を前に進めるのさ。とはいえ、動かせるのはこの程度の大きさが限度だし、基本真っ直ぐしか進まねーから、波を見たりは俺たちの腕の見せ所だな。」

「ほう。そうでしたか。」

当然この世界で船に乗るのはこれが初めてだ。

船には帆があり、ロックは左手を魔道具に。右を帆のかかった柱のような部分に掛けている。

船に関する知識は前世含めて全くないが、おそらくあの帆で風を受け、方向の調整などをするのだろう。


「ところでロックさんはターラ島にはよく行かれるんですか?」

「ん?おお、俺はその島の生まれでな。」

「なんと。そうでしたか。」

「まあ、100人もいない小さな島だけどよ。大事な故郷だ。だから、ルークの兄ちゃん達が依頼を受けてくれて助かったぜ。なんでもC級なんだってな。見たところ若いのに大したもんだ。」

「みんな師匠が良かったんですよ。」

「謙虚なことだねぇ。いや、謙虚なのか?」

そう言ってロックさんは首を捻っていた。


そうして、港を出ること1時間ほど。

私達はターラ島の桟橋に到着する。

「おし、じゃあまずは村に案内するぜ。」

そう言ってロックさんは先頭を行く。


着いたのは本当に小さな村だった。

ロックはその中でもまだ大きいと言える一軒に入っていくので、私たちも後に続く。

「島長、例の冒険者連れてきたぞ。」

「おお、ロックか。出来した!」

そう言って大きな声を出しているのは、胡座をかき、申し訳程度の白髪と立派な白い髭を蓄えた老人だった。

しかし、老人とはいえ、その体つきは逞しく、長年海で生きてきたことを語らずとも教えてくれている。

「ああ、こちらがC級冒険者のルーク、ユニ、テオ、アイラだ。」

「ご紹介にあったルークです。この度は、ギルドへの依頼を受け、ロックさんの船で参りました。」

「そうかそうか。儂はこの島で長をしておるズーというものじゃ。今回は依頼を受けてくれて感謝する。」

そういうと彼は頭を下げた。

「では、すみませんが早速依頼の話を伺いたいと思います。なんでもフォレストボアが出たとのことですが、これは確実なのですか?」

「うむ。あれは10日前のこと。村の若い衆が酒の材料になる果物を取りに森の奥に入ったんじゃ。なあ、ロック?」

「ああ。行ったのは俺の友人だ。まあ、こんな島だから全員顔見知りなんだけど、とにかくそいつが森の奥で猪を見かけてよ。なんでも普通の猪に頭にも1本でかい角が生えてたんだってさ。そいつはなんとか見つかる前に逃げることが出来てな。村に教えてくれたんだ。」

なるほど。その特徴なら、フォレストボアで間違いないだろう。

身体的特徴もだが、この魔物は戦闘力自体は高いが索敵は苦手だ。その島民は運が良かったというべきだな。

これが狼系の魔物なら気付く前に殺されていた可能性も高い。

「分かりました。幸いフォレストボアなら過去に討伐した事もあります。日も高いですし、早速森に向かおうと思います。」

「おお!そうですか。どうぞよろしくお願いしますじゃ。」

「よろしく頼むぜ、にいちゃんよ。」


そうして長の家を出た私達は森に向かうのだった。

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