第3章 海洋都市群クチュール編
第38話 海洋都市群クチュール
昼を少し過ぎた頃、私達は海洋都市群クチュールに到着した。
「やっと着いたねー」
そう言ってテオが伸びをしている。
「これからどうする?」
「どうするって宿屋を探すんだろ?」
こちらはユニとアイラの会話だ。
「まあ、待ってくれ。宿屋も大事だがまだ日は高いしな。この街のことをほとんど知らないし、まずはギルドに寄ろう。」
ここにもギルドはあるはずだ。
ギルドで、初めて来た冒険者と言えば何かしら有益な情報も聞けるだろう。
ヴィーゼンではアイラやその知り合いがいたから、そういう意味ではギルドを頼ることはあまりなかった。
そう言うわけで、今私達はギルドに来ている。
ガインでもそうだったが、ここのギルドも朝は賑やかなのだろうが、昼を過ぎた今はのんびりとしたものだ。
建物の構造も、ほとんど変わりない。
「初めまして、ルーク、ユニ、テオ、アイラです。基本的な事でいいので、この街について、教えてもらえませんか。」
そう言って私はギルドカードを手渡す。
受付嬢はカードを確認し笑顔で説明してくれた。
「かしこまりました。まずご存知のようにここクチュールは海洋都市群と呼ばれています。都市群とは、ここクチュールを中心に大小数十の島々を合わせて1つの都市とてして存在していることを指しています。ですので単純にクチュールと行った場合、この街を指すことが多いですね。」
「クチュール都市群では、主に漁業と造船、貿易を中心として街がまわっております。そのため、この街では当冒険者ギルドと商人ギルド、造船所や漁師たちなどを束ねている海洋ギルドの各ギルド長ら3人による合議制で都市を運営しています。」
「冒険者の皆様には、港での日雇い業か魔物の討伐依頼が主になるかと思われます。特に島々の中には魔力の濃い場所もあり、魔物の討伐は多くあります。」
「なお、魔物の討伐の為島に渡る際には、当ギルドにて契約している船と操舵者をご紹介しますのでご安心ください。」
「街の説明としてはこの程度でしょうか。他に質問はございますか?」
慣れているのか滑らかにこれだけ説明すると、ニッコリと笑っている。
「いえ、よく分かりました。ありがとうございます。」
私は振り返り、
「折角だから依頼も見ていくか」
と、みんなを促した。
私達は依頼書の貼られた壁の前に来ている。
「これなんてどうかな?」
テオがそう言いながら指を刺すのは、魔物の討伐依頼だった。報酬は大銀貨2枚。悪くない額だ。
「フォレストボアの討伐か。大森林なら中層程度か深層一歩手前程度の魔物だったな。」
「ん。私はいいと思う。」
「あたいは戦闘自体は出来ないからな。けど、怪我をしたならいつでも言えよ。」
女性陣がたくましい。
「よし。ならこれを受けよう。書いてあるターラ島は場所がよく分からないが、さっきの話ならそこは任せられそうだしな。」
そうして依頼書を受付に持っていく。
「あら、先程の。早速ご依頼を受けるのですか?」
「ええ、こちらをお願いします。」
「拝見しますね。なるほど、ターラ島のフォレストボアですか。かしこまりました。先程話した通り、そこまでの船はこちらで手配します。準備出来次第使いを出しますが、宿はお決まりですか?」
「いえ、これから探すところです。良いところはありますか?」
「そういう事でしたら、このギルドを出て左に真っ直ぐ行った最初の宿屋は当ギルドと提携していまして、カードを見せて頂けば多少安くなります。2人部屋や4人部屋もありますよ。」
「ありがとうございます。そう言う事ならそこで良いかな?」
後半はユニ達に向けてだ。
みんなが頷き、今夜の宿は決まった。
「では、おそらく明日の朝には使いが伺いますのでしばらくお待ちください。」
そして私達は宿に着いた。
意外と距離があり、少し早めの夕食に良い時間だ。
私達はいつものように4人部屋を取ると、そのまま食堂に向かう。
ここの宿屋は一階が食堂、二階と三階が客室だ。これは一般的な宿屋の作りでもある。
「店主、4人分を。酒は必要ない。」
この世界では、余程高級な店でもなければメニューと言うものはなく、その日に作れるものを提供している。
因みに、酒は15歳から飲めるのがこれまた一般的だが、私達の中ではあまり酒を嗜まない。
テオとアイラは、アレクシア教では深酒を諌めていることから普段から飲まないらしい。
私も下戸の為ほとんど飲まない。前世でも酒の類はそこまで好きなわけではなかったので、苦ではないが。
そしてユニはザルだ。父のカイゼル師匠譲りでどれだけ飲んでも酔わないらしい。逆にそのせいで、飲んでも楽しくないらしく結局酒を飲むことはほとんどないのだが。
しばらくすると、パンと焼き野菜、そして焼き魚が届いた。
「ほお、これはまた。」
種類は分からないが鯖のような見た目の大きな魚が1人1匹ある。
ガインやチェルミには近くに海がないので、魚といっても川魚ぐらいのものだ。
「これは、すごい」
「本当だね。こんな大きな魚は初めて見るよ。」
「あたいもだ。流石はクチュールだね。」
みんなも興奮気味だ。
そして味の方は…
「「「「美味い!」」」」
やはり新鮮なのだろう。身が引き締まり味も濃い。これは内陸部に住んでいては味わうことは出来ないな。
大袈裟だが、これだけで旅に出て良かったと感じる。ただ…
「米の方が合いそうだな。」
思わずそう呟いていた。米という単語を言ってしまったが、幸いみんなは目の前の食事に夢中だ。
すると、
「なんだ兄ちゃん。米を知ってんのかい?」
と話しかけて来る男がいた。
私はずらしていた仮面を被りなおし顔を向ける。
そこにいたのは日に焼けた大きな体格の見るからに海の男と言った男性だった。
20になるかならないか。青年というべき年頃だろう。
仲間たちも食事を中断している。
「米は共和国なら作ってるんだがな。俺は好きなんだが、あんまり人気がなくてここいらじゃなかなか食えないぜ。」
「そうなのですか?わざわざありがとうございます。」
なんと!この大陸には米があるのか。
それは良いことを聞いた。
「なーに、あんたらがあんまり美味そうに食うからな。俺は漁師でな。俺たちが取ってきた魚をそんな風に食ってくれりゃ、嬉しいもんさ。」
「そうでしたか。私達はグラント王国の内陸から旅をしてきまして。こんなに美味しい魚は初めてなんですよ。」
「そうだったのか。それじゃ美味いはずだぜ。せっかく来たんだ。この街を楽しんでいってくれよ。」
そういうと、男性は自分の食事代を支払い店から出て行った。
なんというか粗野だが、気持ちのいい男性だったな。
その後私達は部屋に戻る。
クチュール最初の日はこうして終わるのだった。
翌朝、ギルドからの使いが宿を訪れた。
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