閑話 宣教師から見た冒険者達

あたいアイラは宣教師だ。

宣教師とは、旅をしながら教会のない村などでアレクシア教の教えを話す人の事だ。

そう言う村の人達は、村から出ることは滅多にない。

だから、教えと一緒に世の中の出来事を伝える役割も、宣教師は担っているんだぜ。

「まさかアイラが、世界を見て回るなんて言い出すとはね。」

そう言って私を見るのはあたいの母ちゃん、アトラだ。聖都の数ある教会の1つで、司教をやっている。

「宣教師になるって言いだしたときにも驚いたけどなぁ。」

そうしみじみとしているのはあたいの父ちゃん、ガレム。神聖騎士団で働いているんだ。

それにしても懐かしいな。


あたいが宣教師を目指したのは、12歳の時、ニコラオス大聖堂でマーティン先生のお話を聞いたのがきっかけだ。


「アレクシア教の教えが正しいと仮定します。」

黒い肌に白い髪の男の人が、堂々と喋っている。

「おそらく、ここにいらっしゃる方の多くは、教えを正しいと思っているでしょうし、私もその1人です。」

体が大きくて、騎士団に入っている父ちゃんより強そうだ。

「しかし、全ての人がそう思っているのではありません。そして、そうでない人が悪なのでは無いのです。世界にはアレクシア教以外の考えを持つ人も大勢いらっしゃいます。」

私はまだ、このチェルミから出たことはない。だから、違う考えと言われてもピンと来なかった。

「もちろん世の中には悪と呼ぶべき行いと、それをする人もいます。」

男の人の話は続いている。

「しかし、その人はそれを悪と知らないのかもしれません。そうなのだとしたら、その人は不幸です。そして、悪と知りながら、更に他の道があるにもかかわらず、悪を行うのであればそれは罪なのです。」

最後に、男の人は大きく手を広げ今まで以上に堂々と声を上げた。

「皆さんを悪から守る役割は神聖騎士団が担ってくれるでしょう。ですから、どうか皆さん。寛容な人で会ってください。例え違う考えだとしても、その人もまた女神の愛子だと思い出してください。違うということ。それは悪では無いのです」

そう言って男の人、マーティン先生は袖の方に降りて行ったんだ。

これが、あたいが宣教師を目指すきっかけのマーティン先生との最初の出会いだった。


あたいはそれまでも何回もこの大聖堂の礼拝には来ていた。それでもこんな風にはっきり覚えているお話は、後にも先にもこれだけだ。

母ちゃんにそう言うと、

「誰にでもそう言うことはあるわよ。何が心に響きなんて、本人にも分からないわ。」

だそうだ。

結局、あたいは母ちゃんの紹介でマーティン先生に弟子入りすることが出来、そして宣教師になった。

運のいいことにあたいには回復魔法の才能があった。

これを活かしながら旅をすれば、きっと良い宣教師になるだろうね、と先生も笑ってくれたんだ。


そして15歳。

ヴィーゼンの外、グラント王国の貿易都市クーベルの近くの村で初めて1人で礼拝をした帰り、あたいは護衛依頼を受ける。

今までも冒険者として登録してから、他の宣教師の先輩について護衛依頼を受けたし、魔物と戦うことは出来ないけど、その後の回復は上手くやれた。

だからその時も何も心配せず依頼を受けたんだ。


そして結果は…


あたいは、自分が狭い世界しか知らなかったことを思い知らされた。

あの時、マーティン先生の言った悪を悪と知りつつやるということ。

もしあの人達が盗賊になる前に、話をすることが出来たら、

何か変わっていたのかな。


考えても答えは出ない。

だからこそ、あたいはテオ達と旅に行くことにしたんだ。

今のあたいには分からないなら、分かるようになるために。

世界を見て、あたいに出来ることを探そうと思う。


そんな風に思い出していると、

「それにしても、本当にあんたは迷惑をかけてないだろうね。」

母ちゃんが心配そうに聞いてくる。

大丈夫!と答えたいけど、

「実はルークの仮面のことを質問しちゃって。」

それを聞いて、

「はぁ。」

とため息をつくのは父ちゃんだ。

「全く、あんたのことだから初対面で急に聞いたんだろ?前から言ってるじゃないか。人間聞かれたくないこと、触れられたくない事もあるもんだって。」

「けど、仲よさそうにしてるって事は許して貰えたんだろ?良かったな、ルーク君が大人で。」

母ちゃんのセリフに反対したいけど、事実だから言い返せない…

それに父ちゃんのセリフ。

「そうさ。ルークは魔法が使えて、大人でみんな頼りにしてるんだ。剣が使えるユニは、女友達でさ。あたい、女友達って初めて出来たけど、お喋りしてると楽しいんだぜ。それにテオも、弓がすごく上手だし、アレクシア様の教えもよく知ってるんだ。」

「おやおや、この子は友達の話になるとよく喋って。」

「それだけ嬉しいんだろう。思えば、教会ではあまり友達って言う関係は無かったしな。それにしてもテオ君だったか?彼は男なんだな。聞いた時は信じられなかったが。」

「と言うかわたしゃ今でも少し信じられないけどね。」

「そんな事ないって、テオは男だぜ!」

全く。父ちゃんも母ちゃんもおかしいんじゃないか?

そう思いあたいがムキになると、母ちゃんは少し嬉しそうにニヤニヤと。

父ちゃんはどこか不機嫌そうにしている。

なんでそんな顔をしているのか、結局教えてもらう事は出来なかったけど…


変なの。

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