第40話 フォレストボア

森に入った私達はいつものように、森を進んでいる。当然私の気配察知の魔法も使用中だ。

私は前を見ながらみんなにはなしかける。

「実はお願いがあるんだが。」

「ん。何?」

ユニの声に話を続ける。

「先日、顔で人を殺した話はしただろう?」

言っていてなんだが、我ながら無茶苦茶な台詞だな。

「確か顔に魔力を集めると、吐き気が止まらなくて最後には死んじゃうんだっけ?」

「ルークには悪いけど、最低の死に方だな。とはいえ、あの野郎にはお似合いの最後だったんじゃないか?」

そう、テオとアイラが返してくれた。

「まあ、私のことは気にしないでくれて良い。そこでお願いというのは、この顔のことなんだが少し試したい事があってな。」

「試したい事?」

「人間には効果があった。しかし魔物にはどうだろうか、と思ってな。」

女神から夢の中で病気だと教わり、原因は多少分かったが、それ以外にも分からないことが多すぎる。

「確かに。今までの魔物との戦闘でも魔物が吐くなんて無かったものね。」

「むしろ今まで疑問に思わなかった方が不思議だぜ。」

「それでルーク。どうするの?」

「ああ。運の良いことに今回はフォレストボアだ。今でも問題なく狩れている。今回も同じようにしよう。トドメだけ、少し待ってくれ。」

「ん。分かった。」

「了解。」

「怪我した時には任せてくれよ。」


そうして歩くこと2時間、私の気配察知に大型の魔物の気配がぶつかった。

「いたぞ。じゃあ、予定通り私が落とし穴を用意する。テオは弓を構えて、ユニはアイラの護衛を頼む。」

頷く3人。

果たして私達は魔物の進行方向に向けて移動。

さらに運が良いことに、魔物が来るであろうルートに開けた地点を見つけた私は土魔法で落とし穴を用意する。


待つこと10分弱。

木々の間から、それは現れた。

並みの猪の二倍程の大きさに、普通の猪には無い頭の角。

ファレストボアと呼ばれる魔物だ。

それは、私を視認すると真っ直ぐに突進して来た。

この魔物の特徴は、あらゆる物を貪る雑食性とその巨体が生み出す単純にして強力な破壊力だ。

木々を枝のように薙ぎ倒しながら進む姿は、恐らく中規模の街なら端から端まで止まることなく直進できるだろうと言われている。


ドスン!!


が、罠を張ってあればコメディの類だ。

音がなった直後には、その巨体もう数体が入れるほどの余裕を持った落とし穴の底でファレストボアが半ば諦めたように入っていた。


「さて、重要なのはこれからだ。」

私は仮面に手を掛ける。

この面子で動くなら既に仮面は必要ないが、素顔が受け入れられた今、むしろいちいち外すのも面倒なのだ。

とにかく、仮面を外しフォレストボアと対面する。


「………。」

待つこと数分。特に変化はない。

が、これは予想の範囲内だ。

実際、森で1人で修行していた時も魔物達に変化は無かった。

あの夜のように、私は顔に魔力を集める。

すると、初めはなんの反応もなかったフォレストボアが急に暴れ出す。

その視線は確実に私を見ていた。

そして何度も壁に頭を打ち付け、なんとかしてここから出ようとしている。

そこには先ほどの諦めた様子は微塵も残っていない。


繰り返しの突進に地面が揺れ始める。

このままでは落とし穴の淵から崩れる危険があると判断した私は、テオのいる側の右手を上げる。

テオは近寄りボアの脳天を穿つ。

ボアの体が大きく揺れた。

その間に魔力を練り直した私は毎度の土魔法で土の槍を作り、フォレストボアの心臓部分を下から串刺しにするのだった。


テオが横に来た。

「最初はさ、顔で人が死ぬって何を言ってるか分からなかったんだけど。」

「それはまあ、そうだろう。」

「うん。でも、今のを見れば、何かまだ僕たちが分かってない事があるみたいだね。」

「その通りだな。取り敢えず、今の様子だと魔物の場合凶暴化するとか発狂するような効果があるのかもしれないな。」

「見た感じ、討伐の時は仮面は被っていた方がいい良さそうだね。」

「ああ、そうだな。」

その後、フォレストボアの死体を収納した私達はユニとアイラと合流し、村に戻るのだった。


その晩、フォレストボアを見た村の人達が興奮してお祭り騒ぎになったり、長の家でご馳走になっている途中、長の息子(9歳)にテオが求婚されたりと賑やかな場面を終えて。

私達は今、村の空き家に来ている。

なんでも住んでいた若い夫婦がクチュールに移住したそうだ。

似たような話はどの島でもあり、島の過疎化から野生の獣、更にそれらの魔物化の増加がクチュール都市群全体の社会問題になっているらしい。

まあ、それは置いておいて。


「私は反対だ。」

「ううん。必要なこと。」

珍しく私とユニが口論していた。ちなみに仮面は外して素顔の状態だ。

そして、

「僕もユニに賛成かな。」

「あたいも。」

ご覧のように、テオとアイラもユニ側になり1対3の状態だ。

何が原因かというと

「何度も言うが、危険すぎる。」

「ルークの言うように、危険なのは分かる。けど、ちゃんと知っておく必要があると思う。ルークも私達も。ルークのその顔について。」

ということだ。つまり、私の顔が普通でないのは今までも知っていたが、不慮の事態に備えるために色々と試すべきだというのだ。

確かに私もその必要性は認めるが、ここで試すということはつまり、

「だからといって、ユニ達で試すなんて、人体実験じゃないか」

それが私の反対している理由だ。

「それは分かるよ。でも、他の人で出来ることじゃないし。」

「それに、あたい達はもう一回ルークの素顔を克服してるだろ。」

「私も死にたくない。今日の魔物の話だと、最初は何もなくて魔力を込めたら変化があった。だから、少しずつやって大変そうなら止めればいい。」

「しかし、万が一魔力の操作に失敗したら。」

「大丈夫。信じてる。」

いや、信じてると言われても。

嬉しくないといえば嘘になるが、しかしだからこそ危険に晒したくはない。

「あー、お邪魔虫みたいで悪いんだけど。」

アイラが口を開く。

そちらを向くと、

「実はあたいも試したいことがあってさ。だから頼むよ。きっとルークの心配してる風にはならないさ。」

「ユニもアイラもこう言ってるし、やってみようよ。」

テオからの援護射撃。

最後にもう一度ユニの方を見る。

その顔を見て説得は無理だと、私は負けを認めるのだった。


「じゃあ、始めるぞ。」

そう言って私は、あの司教を殺した夜と今日の昼間のように顔に魔力を込め始めた。

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