第20話 まずは国境を目指して

現在私達はヴィーゼン教国方面行きの馬車に乗っている。

私達以外の乗客は数人程度、快適な旅路だ。

テオがこれからの道のりを教えてくれる。

「まあ、ヴィーゼン行きといってもこの馬車自体がそこまで行く訳じゃないんだよ。」

「ん?そうなの?」

「うん。この馬車はいくつかの町を経由して、グラント王国とヴィーゼン教国の国境にある街、貿易都市クーべルに向かっている。グラント王国は大きな国との国境にいくつかの貿易都市を立てているけど、クーベルもその1つだね。」

「貿易都市か。そういえば、ヴィーゼンからはどんな商品が輸入できるんだ?」


ちなみに魔物の大生息地であるエルバギウス大森林を有するグラント王国の主産業は魔物の素材、及びそれらの加工だ。グラント王国はそれらの品物を外国に売り、逆に食料などを買うことで成り立っている。

外国から見れば、グラント王国が昔から魔物の生息地を抑えているお陰で比較的安全に発展してきた歴史がある。

かたやハイリスクだが、貴重な魔物の素材を独占できる王国と、安全な地で独自の特色を育てることが出来る諸外国は持ちつ持たれつの関係にあり、これが1,000年以上戦争が行われていない理由である。

お互いがお互いに依存しており、もし戦争になれば、言葉が通じない魔物という存在がこちらに来ることを理解している。地球での歴史も、条約などの国同士の駆け引きの上で戦争に発展していた。これがAという国を攻めれば確実にBという国がしかも自身の損害も気にせず攻めてくると分かっているなら、地球での戦争は激減していたか、少なくともかなり小規模なものになっていたに違いない。戦争を仕掛ける度に必ず大震災が起こると分かっているようなものだ。


「ヴィーゼンからは、絵や彫像なんかの芸術品が入ってきているよ。それに歌なんかの音楽も盛んで、クーベルの冒険者ギルドでは、近くを行き来する楽団や行商人の護衛依頼が多いんだってさ。」

「なるほど。冒険者ギルドといっても地域毎に特色があるんだな。」

「そういえば、外国にも冒険者ギルドってあるの?」

ユニが首をかしげている。

「ああ。それぞれの国の主要な都市には冒険者ギルドがあるらしい。なんでも、元々王国で発展した冒険者って言う制度を真似ようとした時に、じゃあといって各地に支部を作ったんだそうだ。表向きは国同士の助け合いだが、王国としては諸外国に影響力を持てるし、諸外国はギルドを通して王国の内情を探るとかの思惑もあったんだろうな。ただ、ギルド自体が王国を守ってきたって自負がある分独立心が強いし、冒険者全体の傾向として政治利用されるのを嫌うから、結果平和に各地にギルドが立つようになったわけだ。」

「そりゃ、僕だって貴族様と関わり合いになりたくはないからね。貴族は貴族、平民は平民。住み分けは大事だよ。」

「ん。確かに、そう言うのが好きな人は騎士になる。」

ユニが言う通り、騎士は平民が貴族になるほぼ唯一の方法だ。王都で行われる騎士試験に合格することで騎士爵という一代限定の貴族位が貰える。ゼルバギウス家も元を辿れば魔物討伐に多大な功績のあった騎士が騎士団長に命じられ、エルバギウス大森林近くに派遣され、そのまま領地も任されたと言われている。地元では、元々いた領主が跡継ぎがいないまま魔物に殺され、民衆から人気のあった初代ゼルバギウス家当主が辺境伯になったと言われているが、さて本当かどうかは分からない。


「まあ、そう言うわけで、この馬車は今日はヤムスに、明日はラベンナに、そして明後日にはクーベルに着く予定だよ。クーベルからは、目的地のチェルミへ向かう馬車があるはずだからそれに乗ろう。運が良ければ、護衛役として路銀も稼ぎながら移動できるよ。まあ、今までの稼ぎがあるから、贅沢しなければ何の問題もないだろうけどね。」

「ほう。調べるとは言っていたが、随分丁寧に調べてくれたんだな。助かる、テオ」

「ん。ありがとう。」

「気にしないで。そもそもこないだも行ったけどチェルミは前から行きたかったから実は調べてあったんだ。母さんも羨ましがってたよ。父さんを置いてそこまでついて行こうかなんて行ってたけど、父さんが泣いてたから諦めたって。」

そ、そうなのか?ここ数日で、カイゼル師匠の家庭内での扱いが不安になってきたんだが。


そんなこんな尽きない話をしていると、行く手に町の門が見えてきた。ガインほどじゃないが、ここらでは1番大きい町でヤムスという。実はここには以前依頼で訪れたことがある。さらにいうと、ここが今まで訪れた中で1番遠い町だ。そういえば、依頼人だった町長のところには同い年ぐらいの少女がいたが元気にしているだ

「痛っ!」

何故かユニが私の腕を抓っている。

「どうしたんだ、ユニ?」

「なんだか、ルークが嫌な事を考えてる気がした。」

「いや、それは。」

「むぅ。」

確かにユニ以外の女の子のことを考えていたが、これが女性の勘というやつなのか?

「というか、大丈夫なんじゃなかったのか?」

確か出発前にそんな事を言ってた気がする。

「それはそれ、これはこれ。」

「全く、どこでそんな言葉を覚えるんだか。」

「?確かルークが教えてくれた。」

言われてみればそんな気もするが。

「そもそも、町長の娘さんのことなら、あの子、私の仮面を見て引いてただろ。」

「ルークは女の子の顔をよく見ている。」

「いや、依頼人の娘を泣かせる訳にはいかないだろう。」

「ルークは女泣かせ?」

「それ、使い方違うからな。」

多分違うはずだ。前世含め縁がないから自信がないが。

前世で女の子を泣かせた記憶といえば、中3の時に好きだった子に勇気を出して告白したらその場で泣かれた挙句、女子全員に締め上げられ、卒業までの半年間クラス全体から無視され続けた記憶しかない。しかも、その半年の方がパシリや暴力が無い分余程快適だったのが輪をかけて救いがない。

「おーい、僕もいるからねー」

結局、町に入る直前まで賑やかな3人だった。


その日は町に入ってすぐに宿に泊まった。

面倒になるのが目に見えているのに、わざわざ町長の家に伺う必要もない。

宿の一階は食事処になっていて、適当に夕食を済ませると私達はすぐに部屋に入った。

ちなみに3人とも同じ部屋だ。

冒険者になってからも依頼の時は同じ部屋で寝泊まりしていたので、今更違う部屋に泊まる発想がない。

もちろん着替えの時なんかは交互に部屋の外に出たり、難しい時は収納に入れてある板で仕切りを作っている。そこはマナーと意識の問題だ。

親しき仲にも礼儀あり。

お互い着替えを終えて、寝る準備は出来ている。

因みにベッドは2つだったので、ジャンケンの結果ユニが床に寝ることになった。

以前は女の子だからとベッドを譲っていたが、本人が特別扱いは嫌だと主張したので、今は完全に平等だ。

因みにジャンケンは私が教えた。2人とも感心していたが、これも知識チートとやらに入るのだろうか?

蛇足だが、ユニは最初私と同じベッドがいいと言ったが、男2人が断固拒否した。

私はヘタレだからだが、テオは流石に自分の双子の姉と友人が一緒に寝ているベッドの横で寝たくないと主張していた。全く正論だと思う。

というか、ユニは先日の件から吹っ切れすぎではないだろうか。

もちろん落ち込んでいるユニは見たくないし、今ではユニと、いずれはそういう関係に、と思ってはいるが、いつかちゃんとといったいつかは、今ではない気がする。

まあ、ユニもそれが分かっている上での一種のじゃれあいのようなものなのだろう。


さて、ユニが真剣な表情で聞いてくる。

「ルーク、今日良い?」

一瞬なんの事かと思ったが、これはおそらく私の素顔に慣れる云々の話だろう。それ自体は納得したが、しかし今はテオも横にいる。

私の心配が分かったのか、ユニが口を開く。

「私はテオも一緒がいいと思う。ルークが良ければだけど。」

テオも一緒、か。それはつまりテオにも素顔を見せ慣れてもらうという事だ。

「どうしたの?なんだか深刻そうだけど。」

自分にも関係する話だと察して、横になっていたテオも会話に入ってくる。

私自身は実は構わないと思っている。ユニに見せた時点で、だいぶハードルは下がっている。しかし、事の経緯を話すとどうしてもユニの嘔吐が含まれてしまう。ユニもそれは分かっているだろう。

いいのかという思いを込めて顔を向けると、

「私のことは大丈夫。自分で言う」

ユニもまた、ユニなりのケジメというか双子としての思いがあるのかもしれない。

ならば信じよう。きっと、大丈夫だ。

「話というのは私の素顔の事だ。」

テオにも緊張が走ったのが分かる。これは、長い付き合いの私たちが最初から今まで避けてきた話だから。

「確か、火傷したって言う話だよね。」

「それは師匠から言われて話している嘘だ。実際は火傷の類はした事がない。」

私は改めて覚悟を決める。

「端的に言うと、私の顔は醜いんだ。」

言った。しかし、テオはピンとは来てないようだ。

「醜いって、ブサイクって事?」

「確かにそうだが、私の顔はただブサイクという範疇を超えている。」

「いや、でも、顔でしょ?酷いって言ったって…」

テオの言葉をユニが遮る。

「私は。」

言いにくいだろうに、それでもユニは言葉を続けた。

「私は昨日、ルークの顔を見て、吐いた。」

「へ?」

それは予想の範囲外だったに違いない。テオの口から気が抜ける声がする。

後は私が引き継ごう。

「本当だ。私は素顔を見せ、ユニは嘔吐した。しかし、ユニを責める気は無いし、責めないでくれ。私は自分の顔が、見た人間が吐く程のものだと分かっていて見せたんだ。」

そこで1度間を空ける。

「だから言っただろう。ユニは来ないと思うと。しかしユニは来てくれた。そして提案してくれたんだ。私の素顔に慣れるようになると。正直、慣れることがあるのか半信半疑だが、言ってくれた。私もわがままを言えばユニと仮面なしで向き合えるようになりたい。それで、だ。もしテオも良ければだが、テオにも私の素顔を見てもらいたい。」

「それは…」

「無理強いはしない。これは本当に私のわがままだからだ。」

ユニは何も言わない。先程の告白以降、黙って成り行きを見守ってくれている。

「僕は、正直に言えばユニが吐いたって話がまず信じられない。」

それはきっと当然のことだが、紛れも無い事実だ。

「テオ。」

「だけど、」

テオが続ける。

「だけど2人がこんなことで嘘を言うとも信じられないし、何より長い付き合いだからね。2人が本気で言っているのは理解できるよ。」

そして覚悟をした表情になる。

「分かった。ルーク、僕にも君の素顔を見せて。」

「ああ。テオ、ありがとう。ユニも改めてありがとう。」

私は幸せだ。

この世界で、前世の知識が蘇ってすぐに、奇跡は起こり難いものと諦めた。

奇跡は起こり難い。その気持ちは、今でも変わらない。

それでも、私はこの2人に会えた。この2人ならもしかしたら。

「仮面をとる前に2人ともこれを。」

そう言って収納から土を取り出し、魔法で土の桶を作る。土魔法は便利だが制約もあり、バレットのような小さい球なら空気中の塵を集めることで使えるが、今回のようにある程度の大きさや強度が必要な場合、原料の土が必要になる。そのため私は収納に土を入れ持ち歩いている。それにも限度があるが、逆に森だとか土が無尽蔵に使える場所ならかなり自由度が高く、対魔物戦では昔から私の主力でもある。

話を戻そう。私は今作った桶を渡す。

「ルーク、これはどうしたの?」

テオが聞いてくる。

「なに。吐きたくなったらそこに出すといい。部屋を汚すわけにはいかないだろう?」

テオは少々納得のいかない顔をしているが、ユニは真剣に頷いている。

では、いよいよだ。

私も覚悟を決め。仮面を外し、幼馴染達に自分の素顔を晒すのだった。

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