第16話 初仕事

冒険者登録をした翌日、私たち3人はギルドに来ていた。

当然、初仕事をするためだ。

時間は朝を少し過ぎた時間。他の冒険者はいなくはないがまばらになっている。

「ん。ルーク、この依頼はどう?」

「クルト村での害獣駆除か。魔物の可能性もあり。報酬は村から銀貨3枚にギルドからの報酬が銀貨7枚の10枚。」

「いいんじゃないかな。クルト村なら定期馬車もあるし、ギルドからの補助もあるなら変な依頼じゃないでしょ」

ギルドからの補助とは、今回のように地方の村での討伐依頼にはギルドから補助を出す事で、実入りは少ないが社会的に重要な依頼が放置されないようにしている。

「よし。じゃあこれにしよう。受付に見せてくる。」


私は依頼の紙を持って、カウンターに向かう。

今日の受付はエリーさんという女性で、アリスさんの後輩、ソフィーさんの先輩だ。

「あら、ルークくん達、聞いたわよ。いきなり5Dですってね。そんな人始めて見たわ。」

「ははは。まあ、期待に応えられるよう、頑張ります。」

「全く、ルークくんは相変わらず大人ね。たまにはちょっとくらい調子に乗ってもいいのよ。それで、今日は初依頼かしら?」

「はい。こちらをお願いします。」

「分かりました。クルト村の依頼ね。こういう田舎のは人気がなくて。だから補助も出るんだけどね。ルークくん達が行ってくれるなら安心だわ。ちょっと待ってて、ね、と。はい。受理しました。じゃあ、ルークくん、ユニちゃん、テオくん。気をつけて行ってらっしゃい。」

「はい、ありがとうございます。」

「確かクルト村は南門だったよね。」


ガインの街には東西南北に門があり、それぞれに一般用、商人用、貴族用がある。私たち冒険者が使うのは一般用だ。

門についた私たちはそのまま、クルト村方面の馬車を探す。

「クルト、デイ、アリム方面の馬車はここだよー!」

御者の呼び声にそちらに向かう。

「3人頼みます。」

「おう、1人大銅貨3枚。3人で9枚だな」

「これで」

そう言い銀貨1枚を渡す。お釣りを受け取り、馬車に乗り込んだ。見た目は大きいリヤカーのようだ。

しばらく待つと、車はいっぱいになり、馬に引かれて動き出す。


3時間程で、目的のクルトの村に着いた。相当揺れたが、幸い私達の中には酔うものはいないようだった。

クルトの村で降りるのは私たち3人だけのようだ。

村には行きと戻りで2回馬車が立ち寄る。なんとか明日の朝までに仕事を終えれば、戻りの馬車に乗れるだろう。

「ん。ルーク、まずは村長の所に行って話を聞こう。」

「そうだな。」

村の周りには柵がある。入り口のところの門番に、冒険者である事と依頼を受けに来た事を話すと初めはギョッとし、その後訝しそうにしながら、村長の家を教えてくれた。おそらく私の仮面と私たちが若すぎる事が原因だろう。

まあ、意外でもないが村長の家は村の中で1番大きい家だった。こういった村に宿屋がある事は稀で、村長の家か空き家に泊めてもらうことになる。

私たちは玄関から中に声をかけると、幸いなことに村長は在宅だった。


「初めまして。冒険者のルーク、ユニ、テオと申します。」

今私たちは机を挟んで村長と向かい合っている。彼も私の仮面を見たときには、随分と一瞬引いていたが、そこは年の功か他人の問題に足を踏み入れるつもりはないようだ。

「これはこれは、わざわざありがとうございます。しかし、思っていたよりも随分と、その、お若い方々で驚いてしまいましたよ。」

「まあ、自覚はしています。ですがギルドからは正式に認められていますのでご安心ください。」

そう言ってギルドカードを渡す。

「なんと。その若さでD級ですか。なるほど、期待の星と言うことですな。これは疑ってしまい、申し訳ありませんでした。」

「いえ、お気になさらずに。私たちもご期待に答えられるよう全力を尽くします。それで、早速ですがご依頼について詳しく伺ってもよろしいですか?」

「もちろんです。実は先月の中頃、村で共同で飼っている鶏が襲われましてな。全滅ですよ。柵は壊れていなかったので村人の誰かかと思ったんですが、よく見ると足元に犬の様な足跡があるのに気づきまして。それに鶏は10匹いましたからな。村人が犯人ならすぐ分かります。」

「それでは野犬や狼の可能性もありますが、遠吠えなどは聞いていませんか。」

「いえ、そういったものはありませんな。以前は近くの森に野犬の群がおりましたが、わしの子どもの頃に力を入れて山狩りをしましてな。それ以来、森で野犬を見たというものはおりません。」

「そうなると。魔物の可能性も出てきますね。」

「魔物ですか。」

魔物と聞き、村長の顔が険しくなる。

それもそうだ。もし魔物なら、いつこの村が滅んでもおかしくないということになる。

「まず、かつて山狩りをしたと言いますが、おそらくその時に数匹逃したのでしょう。その野犬が森の奥に行き、偶然魔力の濃い場所に巣を作った結果、適応して魔物化したのではないでしょうか。村長さんの子どもの頃ということは、そろそろ魔物が生まれてもおかしくはありません。魔物なら、柵程度は乗り越えられるでしょうし、魔物が遠吠えをすると言う話も聞いたことがありません。」

「なんと!だ、大丈夫でしょうか?」

「ご安心ください。状況から魔物はおそらくブラックドッグあたり。私達なら駆除できない魔物ではありません。」

というよりは、それ以上に危険度が高い魔物なら、鶏が襲われた際にこの村は滅んでいるだろう。これはあえて言わないが。

「鶏は10匹との事でしたね。ならそろそろ次の獲物を探しているかもしれません。私たちは、早速森に入るとします。」

「それは心強い。よろしくお願いします。」

そう言って村長は深く頭を下げるのだった。


そして今、私たちは森の奥を気配探知の魔法を使いながら歩いている。

この魔法も、使い慣れたお陰でかなり広範囲に広げられるようになった。

2時間も歩いただろうか。見つけた。

「前方右斜め。30分ほど歩いた先、魔物の反応が5つある。」

2人が武器を構える。

気配を抑えながら歩いていくと、そこにやはりブラックドッグと呼ばれる魔物がいた。

ブラックドッグは見た目はほとんど犬と変わらない。しかしやはり魔物だけあり、身体能力が高く、何より厄介なのが群れを作ることと強い仲間意識だ。

5匹のうち大きな2匹は夫婦、残り3匹は子どもだろう。その仲睦まじい姿に心が痛むが、しかしここで放置すれば、1年もしないうちに巨大な群れとなり村を滅ぼすほどの脅威になる。

「私が固まっている3匹を魔法で殺すから、こちらに来るだろう2匹をそれぞれ頼む。」

「ん、分かった。」

「任せて。」

「では、行くぞ。」

中央に固まっている3匹に狙いを定め魔法を放つ。

「サンドランス」

その瞬間、3匹の下からそれぞれに土の槍が伸び、ドスッと三匹を串刺しにする。

子どもを殺された親たちは、殺気の元である私を見つけると、脇目もふらず襲いかかってきた。

左から迫る個体の脳天をテオの矢が的確に射抜く。魔物はスピードはそのままに、木にぶつかって止まった。

右から来た個体は、ユニがそのまま斬り伏せる。

結局彼らは子どもの仇を取ることも出来ずに一瞬で死ぬことになった。

後味が良いとは言えないが、村人と魔物なら村人の方が大切だ。

彼らの作る農作物の余剰のおかげで、城塞都市の人間は生きている。

ガインの街の中にも畑はあるが、全ての住民の食を賄えるほどでは無いからな。

周りに気配がない事を魔法で確認し、5匹の死体を収納する。

その後、空間魔法で村の近くまで戻った私たちは村長に死体を見せ、討伐が終了した事を報告した。


「おお。お見事です。しかし、魔物はこれで全てでしょうか?」

不安なのは分かるので説明する。

「大丈夫だと思います。ブラックドッグは群れを大きくする習性がありまして、同じ森の中なら、互いに集まります。5匹しかいなかったという事は、この森には他のブラックドッグはいないでしょう。」

「そうでしたか。いや、素早い対応をありがとうございます。しかもこんなに早く戻られるとは、もしや森の浅い所にいましたかな。」

浅いところにいると言うかことは、それだけ村が危機的状況だったと言うことだ。

まさか帰りは空間魔法を使ったとは言えない私は適当に合わせる。

「ええ。あまり探さずに遭遇できました。今日、村に来れたのは運が良かったです。」

「なんとそれは。いやはや、改めて皆さんには感謝致します。宿もない村ですから、本日は是非この家に泊まっていってください。」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます。」

その後、サインを貰った私たちは、村長の奥さんの手料理をご馳走になり空き部屋で休ませて貰う。


「今日はルークのおかげで助かった。」

ベッドは1つしかなかったので、話し合いの末ユニが使うことになった。これはベッドの上のユニのセリフだ。

「どうしたんだ、いきなり。」

ちなみに、私とテオは毛布を借りている。野宿もある冒険者なら上等すぎる部類だ。野宿に関してはカイゼル師匠に連れられ何回か訓練している。とは言えメンツがメンツなのでキャンプみたいな感じになってしまったが。

「村長との会話。私だったら、多分あんな風にスムーズにいかなかった。」

「それは確かにね。僕だって、初対面の大人が相手だとあんなに堂々とは出来ないよ。前から思っていたけど、ルークって大人と話すのに慣れているっていうか、むしろ子どもたちと話すより楽そうだよね」

一瞬ドキリとする。当たり前だが、彼らには前世の話はしていない。

「子どもよりって事はないが、大人との会話は話すべき事が決まりやすいからな。今日だったら、村長は私達の能力に不安があっただろうから、ギルドのカードを見せてサッサと必要な情報を教えてもらっただけだ。慣れれば2人だって出来るさ。」

「んー、そんなもの?」

「そっ。そんなものだ。」

たわいもない話をしながら夜はふけ、私たちは眠りについた。


翌日の朝、また村長に感謝され村に来たガインの街行きの乗合馬車に乗った。

街についた私たちはすぐにギルドに向かう。

「あら、ルークさん。初依頼を受けたと聞きましたが、どうしたんですか?」

今日いたのはソフィーさんだった。

「依頼が終わったので、報告に来ました。こちら村長さんのサインです。」

「もうですか!依頼受けたの昨日でしたよね?あ、サインもありますね。お疲れ様です。依頼の方は如何でしたか。」

「どうも今回は、ブラックドッグが出たようでした。5匹の群れを、森の中で見つけ討伐してあります。」

「ブラックドッグですか?魔物じゃないですか。本当にありがとうございました。」

そして報酬の銀貨10枚と、ブラックドッグの素材代の銀貨6枚、計銀貨16枚を受け取って、私たちの冒険者初仕事は終了した。

その後私達は話し合い、今日と明日は休息に当てて、明後日の朝またギルドに集まることになった。

なお、今後依頼での報酬は4分の1ずつに分けて、それぞれの収入と共有財産に分けることにした。共有財産は帳簿を3人でつけた上で、私が保管する。収納魔法があるためだ。


それぞれ今日の報酬取り、ユニとテオは道場に、私は森のミリア師匠の家に戻る。

なんだかんだ、初仕事は緊張するもの。

今日はいい夢が見れそうだ。

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