第17話 時は満ちた

冒険者登録をしたあの日から3年が経とうとしている。

あれからも、私たちは依頼をこなし続けた。

元々若いと言うことと、街でも有名人のラト師匠、カイゼル師匠の弟子ということで注目を集めていたが、近隣の村々を周り、依頼をこなす中で改めて信頼を得ていった。

冒険者は結果が全てだ。どれだけ長く続けようと実績が無ければ見向きもされず、逆に若くとも力を示し依頼をこなせば評価に繋がるし、中には力が無くても社会に貢献する事で自分達の価値を示す冒険者もいる。

実力に関しても、私たち3人それぞれに強くなった。

以前は、エルバギウス大森林中層の魔物をソロで狩れていたわけだが、最近では3人で協力する事を前提に師匠達からの許可を得て中層と深層の境にいる魔物とも戦うようになった。

いや、話には聞いていたがやはり深層の魔物は化け物だ。

例えばヘルベアーと呼ばれる熊に似た魔物は純粋に耐久力が高く、私の魔法の中でも良く使うようなサンドランスでは皮を貫くことができなかった。

結局この時は、ユニとテオが時間を稼いでくれている間に魔力を込めて至近距離からの雷魔法を使い、内部から破壊することで、倒す事が出来た。

断言するが、ソロなら死んでいた。改めて、力を磨く必要性と仲間のありがたみを感じた一件だった。

こんな感じの日々を過ごすうちに、ギルドでの評価も実力が4、信頼がCの4C級冒険者と呼ばれる立場になった。

Dがプロと認められる段階なら、Cはその中の1軍として認められるようになる。ついでに言うと、師匠達のB級は、更にスター選手で、A級はトップスター。1番上のS級は、その分野で歴史に名を残すような人々、英雄とか伝説とか言われるレベルだ。


さて、実力もつき経験もある程度は積むことが出来た。そろそろあの話も実現していいだろう。

そう、冒険者になった日にユニとテオに語った世界を周ると言う計画だ。

私も前世は、ファンタジー系の漫画や小説、ゲームに夢中になった人間の1人だ。未だに、なぜこの世界に前世の記憶を持って生まれたのか分からないし、もうだいぶ前から気にしなくなってはいるが、前世の記憶自体は今も無くなる気配はない。

そんな私としては、夢にまで見たファンタジーの世界が目の前に広がっている。これに心を躍らせずにいられようか!

ふぅ、がらにも無く熱くなってしまったが、まあ、そういうわけだ。

近いうちに私はこの街を出る。実はミリア師匠にはもう話をしてある。

「寂しくはなるが、あんたの夢だ。旅に出るからにはしっかりと世界を見てきな」

とのことだった。

さて、問題はユニとテオの2人だ。あの2人はどうするだろう。

仲間の大切さが身に染みた直後だが、しかし無理強いは出来ない。

もちろんあの2人が一緒なら何よりも心強いが、ここは地球ではない。

地球でだって、仲のいい友人に世界旅行に付き合って、とは気軽に言えないだろう。仲のいい友人なんていなかったから、想像でしかないが。

まあ、確かに私の空間魔法があれば、繰り返し遠距離移動の魔法を使うことで、帰ってくる事は難しくない。

あれ?そう考えると、そこまでハードルは高くないのだろうか?

いや、それはそれ、これはこれだ。

生まれ育った街を離れるというのは、やはり適当に決める事ではないだろう。

今私は、ギルドとは別の食事処、地球でいう喫茶店のような立場の店にいる。

2人には今日、話をしたいと伝えてある。そろそろ、来る頃だろうか。


程なくして、ユニとテオの2人が店に来た。

改めて見ると、2人とも成長したものだ。

ユニはあれから背はあまり伸びなかったが、明らかに少女っぽさが抜けた。

前世の記憶では、15歳はまだ子どものはずだが、環境のせいだろうか。

成人だと言われれば、大人の女性だと思えてくる。

相変わらずの眠そうな目は、客観的に見れば表情に乏しいのかもしれないが、長年の付き合いで、少し緊張しているのが分かる。

金色の綺麗な髪は、最近少し伸ばし始めたそうで、二の腕程度の長さまで伸びた。

そんな彼女だが、とうとうカイゼル師匠から1本を取ることが出来た。

何回も剣を合わせた1回なので、まだ師匠を超えたとは言えないが、それでも彼女にとっては大きな一歩だ。

その日は、私とテオの提案で、始めて高級店に行きお祝いをした。お金だけはあったからな。

ユニは最初こそ照れて遠慮していたが、私たちに説得され祝われるうちに実感したのか、笑いながら涙を流していた。

それだけ私たちにとって、師匠の存在は大きいのだ。


テオはテオで綺麗になった。

彼には酷な言い分だが、そうとしか言いようがない。

結局身長はあまり伸びず、女性にしては高く、男性にしては低いという、なんとも言い難いあたりで止まっている。

前世の知識では、中にはまだ伸びる人もいるらしいが、下手な希望は与えまいとノーコメントを貫くことにした。

顔に関してはご想像の通り、母親のマリーさんと瓜二つ。

肌に至っては、女性に羨まれるどころか、恨まれるほどだ。

ユニの肌も綺麗で、遺伝とは罪なものだと思い知らされる。

髪型も、別に女性的では無いのだが、彼の場合ベリーショートと言いたくなってしまう。

以前、マリーさんの知り合いが偶然テオを見て、

「あら、マリーさん髪切ったんですね。それもお似合いですよ」

と言い放った事件は、私達の中で禁忌となっている。

そんな彼は弓の腕の方も、ますます冴え渡っている。

ギルドで行われた4級のための実力試験では、前回と同じ内容ながら、1度に3本の矢を放ち同時に3つの的を撃ち抜き、我が目を疑った。


この流れなら私について言いたいところだが、残念ながら大した変化は無い。

ガタイだけは良くなったくらいだ。

前世はほとんど肉の付かない体質だった身としては、これは少し、いやかなり嬉しかったりする。

なんだかんだで鍛えているからな。

先月、身体強化の魔法無しの素手で石くらいなら砕けた事を報告する。

ただ、意外でも無いが素顔は相変わらずだ。いや、顔の面積が子ども時代より広がったことで、寧ろより凶悪な物になったように思う。

詳しい描写はしたくないが、物語で出てくるゴブリンとオークとフランケンシュタインの怪物とを混ぜた後、硫酸をぶっかければ私のようになるかもしれない。

自分の顔だからか、水に映して見てみても流石に嘔吐まではしないが、嫌悪感は抱かずにいられない。

師匠のくれた仮面はおそらく一生の相棒になるだろう。

まあ、これが今の成長した私達3人の姿だ。


「ん。ルーク、聴いてる?」

「すまない。少し考え事をしていた。」

つい色々と考え込んでしまったが、今日は私が時間を貰っているのだ。集中しよう。

「考え事?」

「いや、大したことじゃない。私達も大人になったんだ、とな。」

「へえ、ルークもそんなことを思うんだね。」

そう言うのはテオだ。

「失敬な。私でもってどう言うことだ?」

「だって、前にも言ったけどルークて昔から大人だったじゃない。初依頼でも、村長と対等に話してみたりさ。それでもやっぱり大人になったなんて思うんだって、意外でさ。」

「そりゃ私だって人の子だ。確かに、私1人ではそこまで感じなかっただろうけど、ユニやテオも一緒だと、やはり成長を実感することもあるさ。それにしても、初依頼とは懐かしい話だな。」

「ん。あれから3年。」

「そうだね。正直、あの依頼は拍子抜けというか、あっけなく終わったよね。確かクルト村でブラックドッグを狩ったんだっけ?」

「ああ、そんなこともあったな。」

ここで私は話を切り出す。

「初依頼と言えば、だ。2人は、冒険者になった時に私が話した事は覚えているか。」

「ん。もちろん。」

「やっぱり、その話なんだね。ルークはこの街を出るの?」

「そうだ。10日後にはこの街を出ようと思っている。どこに行くかはまだ決めていないけど、私はこの街を出て世界を見て回りたい。」

「10日、後。」

「それは急だね。いや、そうでも無いのかな。ルークは昔から言っていたからね。」

「ラト師匠にはもう話してある。それで、2人にわざわざ来てもらったのはだ。2人は」

「待って、ルーク。」

どうするか聞こうとすると、ユニから遮られる。

「ここに残るか、なんて聞かれたら流石に怒る」

「怒る必要は無いと思うけど、まあそういう事だよ。」

「それは、嬉しいけど。本当に良いのか?それにカイゼル師匠やマリーさんの意見だってあるだろう?」

「もちろん。私達も、ルークが世界を見たいって言ってからずっと考えた。私も外の世界をみたい。それにルークと一緒に行きたい。」

「ユニはルークと一緒が良いってのがほとんどだろうけどね。けど、僕も同じだよ。世界を見てみたい。普通なら、この街で一生を過ごすんだろうけど、僕たちには機会があるんだ。なら、それを逃したく無い。それに父さん、母さんに話したら寧ろ応援してくれたよ。色々と見て、学んでこいってさ。」

「そうか…」

なんだか気が抜けたというか、心配して損した気分だ。いや、もちろん嬉しく無いといえば嘘になるけどな。

「ありがとう。2人が一緒なら俺も心強い。じゃあ、さっき言ったとおりだ。10日後の朝、この街を出よう。行き先の希望はあるか?」

「私は特に無い。どこでも行ってみたい。」

と、ユニ。実は私も同じだ。まあ、決まらなければ、海洋都市群と呼ばれるクチュールに行こうと思う。あそこは航路の要でもあるから、どこに向かうにも不便はしないと聞く。

が、ここでテオから希望があった。

「それじゃあ、チェルミに行かない?ヴィーゼン教国の。」

「ヴィーゼン教国って言えば、アレクシア教の総本山だろう。そういえば、テオとマリーさんは普段から教会に行ってたよな。」

アレクシア教は、女神アレクシアを崇める一神教で、このグラント王国のみならずこの大陸で最も信仰されている教えだ。

以前内容を聞いたが、隣人愛なんて言葉もあり、地球でのキリスト教を思い出した。日本人には一神教というと抵抗感がある人もいるかもしれないが、実際は善良な信者のかたの方が多いだろう。

アレクシア教も、ここ数代の大主教が人格者で、考えの押し付けを良しとせず、互いに認め合うことが女神アレクシアの御心だと説いている。少なくともこの街では、アレクシア教の信者でなくても教会に悪印象を持っている人はあまりいないだろう。

それに、そこのチェルミという街にある大聖堂は非常に美しく一見の価値があると有名だし、何より確かチェルミはここガインの街からクチュールのルートから少し外れた程度の位置関係だ。最初の目的地としては悪く無いだろう。

「いいんじゃないか。せっかくテオが提案してくれたし、チェルミの大聖堂を私も1度見てみたい。よし、じゃあ最初の目的地はチェルミにしよう。」

「ん。私も賛成。」

「ありがとう。ルーク、ユニ。詳しい道は、僕の方で調べておくよ。とりあえず、西門から出れば良いはずだよ。」

「分かった。じゃあ、10日後の朝西門の前に集合で。当たり前だが、それまで仕事は休んで各自準備に専念しよう。大丈夫か?」

「ん。それでいい。」

「僕も問題無いよ。」


こうして、私達の旅が始まることになった。困難に合うかもしれないし、逆に何も起こらず旅行だけして帰ることになるかもしれない。しかし、この2人となら、これからも楽しい日々が続くはずだと、この時の私は疑っていなかった。



「ルーク、少し話したい。いい?」

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