第11話 魔法拳士と幼馴染

あれから、私も師匠についてガインの街に行くようになった。

もともとミリア師匠は、ラト師匠の姿となって10日に1度ガインの街に出掛けていたが、私がカイゼル師匠の道場に入ってからは、2、3日に1度の頻度で街に行くようになった。


カイゼル師匠の道場では、基礎的な戦闘技術の習得を中心に教えられた。

初めて訪れた時にも子どもしかいなかったが、実際この道場では子どもを対象に体の動かし方と実際の運動を教えている。

そしてある程度それらを習得した子どもには、元冒険者のカイゼル師匠が学んできた戦闘の基本を教えている。

カイゼル師匠は現役時代から多才な事で有名だったらしく、大抵の武器なら並以上に扱える。

その多才ぶりに『武器に愛された男』と呼ばれていたらしい。

本人は、その話をすると

「器用貧乏ってだけだ」

と不機嫌そうにするが、

「様々な魔物を相手に、あらゆる場面を想定するんなら、何か1つしか出来ない天才よりも、、器用貧乏の方がよほど頼りになるもんじゃよ。」

とは、ミリア師匠の評価だ。

話を戻すが、体を動かすカイゼル師匠の指導に加えラト師匠が読み書きを教えるようになってからは、街では庶民向けの学校のような扱いらしい。

ちなみに貴族や商人の富裕層向けの学校もあるそうだ。まあ、今の私には縁はないだろうけど。




これは、道場に通い始めてから一年程経った日の記憶。

私が7歳の時だ。


「なるほど。私には才能がないと」

「ああ、そうだ。お前には、剣の才能は無い」

「そう、ですか。」

ラト師匠が言ったように、私は家の庭で棒を振り回していた。

独学での素振りのつもりだった。もちろん体を鍛えるという目的があったが、それでもこの剣と魔法の世界への少なくない憧れがあったからだ。

しかしそんなものは知らんとばかりに私の素振りを見たカイゼル師匠からの通告に、少なくない落胆を受ける。

そうか。

物語の主人公のようにはいかないか。

魔法剣士、なってみたかったんだけどな。

が、私の落胆をよそにカイゼル師匠は続ける。

「子どもってのは剣に憧れるからな。むしろお前さんにも子どもらしいところがあって安心したぜ。」

そういうと、口を開けガハハと豪快に笑う。まあ、この人に悪意が無いのは分かる。

「安心しな。ここはこのカイゼルの道場だぜ。まずは体を作れ。そうすれば必ずお前に合う戦い方を見つけてやる。」

そう断言する。ここまで断言されるなら安心してしまう。それにこの人はラト師匠の信頼する人だ。


その後も道場に通い、師匠の判断は…

「拳でいってみるか。」

「拳ですか」

最近気づいたが、どうも私は受け身のパターンが多い気がする。

まあ、それは一旦置いといて師匠の言葉を考える。

拳、か。

「拳ということは、拳闘術ということですか。」

「そうだ。あれから色々試してもらったが、お前は武器を扱うセンスが無い。センスのある奴は、武器を体の一部として扱えるもんなんだが、どうにもお前さんは取ってつけた感じが抜けないんだよな。」

1度間を置いてから話を続ける。

「とはいえだ。戦闘のセンス自体はないわけじゃ無いし、身体も順調に出来上がっている。そもそも、お前の本質は魔法使いだ。あのラトが見込むほどだし、俺も見せてもらって度肝が抜かれたぜ。だから、だ。距離がある相手には魔法で対処して、魔法が使いにくい近距離では拳を使う。魔法拳士ってところだな。」

「魔法、拳士。」

つい夢想する。遠くにいる大きな魔物を大きな炎の魔法で焼き払い、炎を掻い潜り私の隙を突こうとする人間大の魔物を世紀末覇者や海賊漫画の登場人物のように拳の一撃で倒す姿を。


良い。とてもカッコいいじゃないか。

ワクワクしてしまう。だって男の子だもの。


カイゼル師匠がニヤリと笑い問いかけてくる。

「魔法拳士、目指してみるか?」

「はい!」


思えば私には生きる目標というものが無かった。

前世はいじめにあい幸せを考える余裕はなかったし、ブラック企業に勤めてからは生きるだけで精一杯だった。

今世でも最初だけは領主を継ぐという目標があったが捨てられて、ミリア師匠に拾われ、やはり生きること自体が目標になった。

弟子として魔法を学んでいるが、生きる手段以上の意味は無かった。少なくとも、今の今までは。


しかし、今は魔法拳士を目指すという目標が出来た。

私は前世を思い出す。

顔のせいでいじめを受けたのは確かだろうが、それ以外にも体が弱いことが拍車をかけた。

弱くて醜い私のあだ名はゴブリンだった。

私をいじめていた人間にすれば、私はいいカモだったのだろう。

もう終わったことだが、それでも乗り越えたい思い出には変わりない。

今世でも顔はどうしようもない。多少体格は変わっても、顔が人並みになるなんて事は夢のまた夢だ。

だが、せめて強さだけは鍛えたい。

その強さで何をするかはまだ先の話だが、それでも、だ。




生きる目標が出来た。

それも大事件だが、それと同じくらいの出来事がある。

初めてガインの街に行ったとき出会った人を覚えているだろうか。

ルイーズさん?悪い人ではない。むしろ親切で良い人なんだけど、良い人すぎて独身らしい。

アリスさん?あの人も真面目過ぎるのか、恋人は出来ても結婚出来ないのが悩みらしい。美人ほど、結婚出来ない時は出来ないらしいね。

そうじゃない。

いや、この2人とも知り合いになれた事に不満はないしむしろ嬉しいが、それよりも大切な出会いがあった。

そう、ユニとテオの双子達だ。

彼女達とは道場に通い始めて以来交流が続いている。

時には、ラト師匠と一緒にカイゼル師匠の家で食事をご馳走になり、ユニとテオと私の3人で遊ぶことも多い。

つまり、だ。

私、ルークに初めてのお友達が出来ました、ということだ。


改めて、2人を紹介しよう。


ユニは私と同い年の女の子だ。

母親譲りの金髪を肩まで伸ばしている。

顔立ちは10人いれば10人が美少女だというだろう。

ただしいつも眠そうな目をしていて受け答えものんびりしているので、あまり付き合いがある者からするとちょっと残念な美少女と評価されることが多い。

まあ、本人自身はまだ幼いこともあり特にそのことを気にしていないみたいだが。

そして彼女はそんな見た目と言動からは想像しにくいが、剣の天才だ。

私は剣に関しては才能がないと断言される程の人間だが、それでも街の門番を相手に7歳の少女が互角に戦うのを見れば、納得せざるを得ない。


双子のテオも当然私と同い年でこちらは男の子だ。

彼もまたユニ同様母親譲りの顔立ちで、こちらは既に容姿について悩んでいるらしい。

まあ、初対面どころか説明するまではほぼ全ての人から女の子扱いされれば悩みもするだろう。その為か、初見で男の子だと分かったラト師匠にはよく懐いており、文字の読み書きも道場で1番熱心だ。

彼は、成長すれば顔が父親に似ることを心から願っている。

初めはユニの後ろに隠れていた彼だが、親しくなれば普通に話せる。

今ではちょっとおとなしい普通の男の子という印象だ。

彼の大人しい性格も、女の子と勘違いされる理由の1つだろう。

そんな彼は、弓の天才だ。

ユニのように大人と戦っているところを見た訳ではないが、鍛錬場の的で彼が矢を外すところを見たことがない。


また、彼らの母親でカイゼル師匠の妻であるマリーさんともその後知り合った。

彼女はストレートの金髪を腰まで伸ばした双子に似てとても綺麗な女性だった。まあ、実際は双子がマリーさんに似ているわけだが。

彼女は弓の名手でカイゼル師匠とは、若い頃冒険者として同じパーティで各地を旅している間に恋仲になり、この街に腰を下ろすことにしたらしい。

とても優しく上品な方で、私としては元冒険者という事実に未だに違和感を覚える。

むしろ、商人のご令嬢だったと言われればそちらの方が納得してしまいそうな、そんな女性だ。


以上にカイゼル師匠を合わせた4人が、ここガインの街で出会った友人とその家族、というわけだ。




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