第12話 鍛錬

冒険者としての夢が出来た私は、今まで以上に魔法に拳闘術にと鍛錬に励んでいる。


まず魔法については、ミリア師匠の指導の元、いくつか新しい魔法を習得した。

特に魔法拳士の夢を話してからは、攻撃に使用する魔法については特に厳しく指導されている。

「どんな道を歩もうとあんたの自由だ。止めるつもりはないよ。しかし、魔法を失敗して仲間や守るべき人間を傷つけちまうことはあるかもしれない。そうならないように、今まで以上に厳しくしてやるから覚悟しな。」

師匠のぶっきらぼうな優しさに今日も甘えさせてもらった。

ちなみにずっと避けていた火の魔法についても、今では出したり消したりを出来るようになった。

また攻撃以外にも、気配探知などゲームでいう補助魔法や、治癒魔法を学んだ。

その名の通り、周囲にある魔力反応や気配を探ることが出来る魔法だ。

治癒魔法については今は切り傷や打ち身などの軽傷の治癒程度だが、それでも道場では喜んでもらえている。

そしてなんと、空間魔法の習得にも成功した。

師匠のような遠距離の移動はまだ無理だが、何度も一緒に街まで行くうちに感覚的に理解できるようになったのだ。現在は森の中を移動し、家まで戻るのに使用している。

そうするうちに収納の魔法もなんとなくだが使えるようになっていた。

とても便利で、流石は鑑定と並ぶ転生チートの代表格と納得してしまったものだ。


そんな感じで魔法の修行は進み、現在は実戦形式として森に住む魔物の討伐を、師匠監視のもと行なっている。

とはいえ、師匠がついたのは最初だけで、最近は1人での修行も認められるようになった。


今更だが、私達が住んでいる森は、エルバギウス大森林といい、古代語でエルは生み出す。ギアスは魔物。つまり、魔物を生み出す場所という意味の地名だ。

通称で魔物の森と言われるほどに魔物が多く住んでいる。

そして私の生まれたゼルバギウス家は、どうも辺境伯として王国を魔獣から守る役割を担っていたらしい。

ゼルバギウスのゼルとは、これも古代語で打ち砕くという意味を持つ。つまりゼルバギウス家は代々、魔物を打ち王国を守る人々の盾としての役割を果たしてきた。

今代の領主、ジルグ・ギ・ゼルバギウス様は名君と名高く、彼の代になって騎士団の強化と派遣が増え、領内の盗賊は激減したという。

その長男であるレイ・ギ・ゼルバギウス様も、子どもながらに文武の誉れ高く、将来は父を超えるほどの名君として名を残すと噂されている。

また現領主婦人のエリアス様やレイ様の妹のミリアーヌ様も美しく聡明でさらに心優しく、ゼルバギウス家はまさに今をときめく領主様とそのご家族と街でも評判だ。

そして、私達が行っているガインの街は、魔物の森の南側で私の生まれた領都カトックとは同じ領内でもかなり距離があるらしい。

ここら辺は全てミリア師匠に教えてもらった知識だ。

まあ、そんなわけで、この森の中では実戦の相手には事欠かない。

そもそも魔物とは、魔力の影響を強く受けた一部の動物が独自に繁殖していった動物で、特に魔力の強い生き物である人間を好んで捕食する事から、古来より人間の敵とされてきた。

実際の魔物を見てみれば、殆どがツノの生えた熊など見覚えのある動物がベースになっているものが多い。

時々、全くわからないのもいるが、地球とは違う進化をした動物も中にはいるのだろう。


さて、今日もまた気配探知を使いながら森を探索すると、早速強い魔物の反応がある。

木の陰に入りながら伺うと、デビルウルフと呼ばれるオオカミと似た姿の魔物がいた。

似てはいるが、サーベルタイガーのような牙と真っ黒な毛皮、普通のオオカミの2倍程度の体躯に、全身を巡る魔力が別種の生き物だと教えてくれる。

最初見たときは足がすくんだものだが、今ではだいぶ慣れた。

「ランス」

一言唱えると、デビルウルフの心臓下の地面から真上に向け土の槍が飛び出した。土とはいえ、魔力により固められたそれは、たやすくデビルウルフを串刺しにする。

この修行の目的は2つ。

1つは魔物の駆除。デビルウルフに限らず魔物が1匹迷い込むだけで、普通の村なら壊滅するだろう。

もう1つは、魔法の反復練習だ。実際に何度も使うことでイメージが固まり、速く正確な魔法の使用が可能になる。

さっきのデビルウルフも最初の頃、それこそ師匠がついてきていた間は、魔法の発動に時間がかかり、逆に襲いかかられたことが何度もあった。

それが今では見つけてから数秒で倒せるようになった。

慢心は危険だと分かっているが、それでも自分の成長が嬉しくなる。

さて、デビルウルフの死体を収納し、空間魔法で家にまで帰る。デビルウルフは毛皮や牙などをギルドで買い取って貰える。その収入は私が使って良いことになっているが、特に使うあても無いので現在は貯金している。

ちなみにデビルウルフの全身を持っていくことで、大銀貨3枚。だいたい普通の人の1月分のお金になる。

なにはともあれ、魔法の修行に関しては順調に進められていた。


魔法の修行について順調なのはご覧の通りだが、武術に関しても少しずつ成果が出てきた。


まず基礎鍛錬に関しては、特に問題はない。

スポーツ医学などはないこの世界だが、それでも体に負荷をかけることで強くなることは経験的に知られている。

そのため、騎士をはじめ、魔物の討伐を専門にする冒険者など戦いに身を置く人々は反復練習を重視する。

具体的には走り込みや武術の型がそれだ。

カイゼル師匠の道場では、ある程度パターン化した動きを型として教えている。

当たり前だが、魔物を倒しているだけで奥義が身につくような便利なシステムは存在しない。

地道な修練こそが実戦を支えるのだ。

まあカイゼル師匠の受け売りなのだが、あの人は豪快な言動からは想像できないほど武術に関しては堅実な考え方をしている。

それが、この道場の信頼になっているんだろう。

そしてだ。私はもともと反復作業が苦ではないタイプの人間だ。

お陰で筋肉もつき、前世とは比べ物にならないほど、なかなかに理想的な体つきになったと自負している。

型については、ひとまず拳闘術の物をそのまま学んでいる最中だ。

そもそも魔法拳士自体がカイゼル師匠の提案した新しい戦闘スタイルだ。

騎士などは武器に加え魔法もある程度使える事が要求されるため、参考に出来るかと思いきや、ある理由からそうもいかず、どうしても独自に模索していく部分は多くなる。

そのため、拳闘術の修行をしつつ、そこに魔法をどう活かせるかを考えている。

そこで枷になるのが、対人練習での魔法練習が難しいということだ。

そりゃ武術をやっていれば多少の怪我は当たり前だし、それも最近では私の治癒魔法で治せるようになったが、流石に風の刃や炎は誰だって想定外だ。土弾も普通に木の壁を貫通する程度の威力がある。

結局は、今の隙に魔法が使えたな、といった半イメージトレーニングみたいな練習が主体になるのだ。

とはいえ、全く成果が無かったわけではない。

それが身体強化。これは戦闘中に魔力を練ることで身体能力が上がり、腕に魔力を集中させるこなどすれば、一時的に券打の威力を跳ね上げることができる。

意外だったが、この世界では身体強化の魔法は今までなかった。

いくつか理由はある。

1つは、魔法使い自体が研究や開発を中心に行う学者肌の者が多く、私のように魔法と武術を学ぶ人間がそもそもイレギュラーだった。

2つ目は習得の困難さ。さっき例に挙げた騎士に関しては、貴族階級でも彼らは教養として魔法を学んでいるだけであくまで主体は武器であり、普段から魔力を練るような習慣はない。そうなると、戦闘中魔力に意識を向ければ武器が疎かになり、本末転倒になってしまうのだ。これが騎士の戦闘方法を参考にしにくい理由だ。

実際使い勝手はそこまでよくはない。燃費が悪く、戦闘中ずっと使うことは私も無理だ。しかし勝負所だけで使おうとすれば体の調子が急に変わるので、相当な違和感がある。

結局使いこなすにはそれ相応の練習が必要なのだ。

とはいえ威力は高く、冗談抜きで岩を砕けた時には、自分で自分に驚いた。

ただその結果、カイゼル、ラト両師匠から組手での使用を禁じられてしまい、なかなか練習出来なくなったのは誤算だったけど。

ちなみに組手の相手はユニが1番多い。同い年ということと、現在拳闘術を中心に学んでいるのが私しかいないことが原因だ。

ただ拳闘術自体はみんなが習っている。

カイゼル師匠曰く、武器がない時や壊れた時に身を守る術が必要だからだ。

そのため、ユニとは拳対拳か拳対剣で組手を行う。

1つ白状すると、私も子どもとはいえ男だ。はじめは密かに、組手とはいえ女の子に拳を向けることに躊躇したが、そんな考えは初めて彼女と手合わせしたその日に捨てた。

あの日の試合は今でも覚えている。


「よし、じゃあユニとルークやってみろ。ユニは今日は拳闘術を使え。」

「はい、分かりました。」

「ん、分かった。」

ユニは相変わらず眠そうな目と口調だ。

お互い、距離を取って向き合い拳を構える。

それにしても、稽古とはいえ大丈夫だろうか。ユニは女の子だし、彼女の才能は知っているけど、今日は私の専門の拳闘術だ。怪我をさせないようにしないとな。

「ルーク。」

「はい。」

「お前の作った身体強化は禁止だ。が、それ以外は全力でやれよ。じゃねーと、お前が怪我するぜ。」

「それってどういう」

意味ですか、と聞く前に師匠の合図が入った。

「はじめ!」

その瞬間、目の前にいたユニを見失う。

その直後、左の脇から拳特有の鈍い痛みが襲う。

「グッ」

不味い!とにかく一度距離を取って構え直さないと。

そう思うが、それより速くユニの追撃が入る。

痛みに腕が落ちたところを逃さず胸にストレート、さらにすかさず左頬を殴られ、視線を強制的にそらされた隙に顎へとアッパーが入る。

流れるようなコンボのラストにがら空きの鳩尾を痛打され、気を失いこそしなかったが、私は開始位置そのままの場所に崩れ落ちた。

時間にして10秒あっただろうか。

手も足も出ないどころか、動くことさえ出来ず私とユニとの初組手は終わったのだった。

倒れる私は、場違いにもユニの揺れる金髪を見て、綺麗だな、と思っていた。


それから私は、女性は守る対象という考え方は捨てた。

もちろん困っている女性がいれば出来ることはするが、それは男性だって変わらない。

少なくとも戦いの場において相手の性別は気にしてはいけないことを肝に命じておこう。


ユニとの組手だが、鍛錬を続け数年後、ある程度善戦できるようになった。

善戦と言っても拳対拳でたまに数発入れられる程度だが。

これが拳対剣になると、全く歯が立たない。

武器を相手にした拳は、懐に入り武器を邪魔することが鉄則だ。しかし、まずユニのスピードに懐に入ることが難しく、上手く入れても何故かその瞬間、私の急所に木剣の切っ先が当たっているのだ。

当然まだまだ勝てそうにない。



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