第6話 弟誕生

記憶が戻り1年が経とうとしている。

育児経験もなく、子どもと関わる仕事もしたことがないので普通の子どもがどう成長するのかは分からない。

そもそも前世の記憶があるせいでよくよく見れば不自然な点だらけかもしれないが、半育児放棄の現状では誰もそれに気づく様子はない。


相変わらず私は体を動かし、本を読み、魔力を鍛えている。

体については子どものうちに無理をすると良くないという話を聞いた気がしたので疲れるまで走り回ったり、子どもにはちょっと重い石を持ち上げたりといった程度にしている。


魔法については、今更ながら今の鍛え方でいいか不安になるが、検証の仕方も分からず、結果は出ているので引き続き行なっている。

本によれば、基本的な魔法は親に教わり、すごい魔法使いは師に教わるらしい。

専門の魔法使い以外の一般人は日常を便利にする不思議な力程度の認識らしい。

原理はよく分からないけど、なんとなく使っている便利な道具。

そう思えば、前世のパソコンやスマホのようなものだろうか。

つまり私の修行は我流も我流で安全性も何もないものだ。

後になって思えば、口では嫌われても気にしないといいつつどこか自暴自棄になっていたのもあるのだろう。

もしくは何かに熱中して、顔面という現実から逃げたかったのか。

今では魔力が尽きる事はほとんど無くなったが、空気をより早く集めたり、空気の密度を濃くしたりと練習できる事はまだまだたくさんありそうだ。

今ではただ集めるだけではなく、空気の球を部屋の中で自在に動かしている。

これを使えば、ゲームのように攻撃に使えるのでは、とも思うが流石にそこまでの訓練はできないな。


知識については、部屋の本は暗記するほど読み込んだ。

ちなみに、私はだいぶ前から字が読める。

これは記憶が戻る前から使用人達が本をよく読んでくれていたからだ。

意外かもしれないが、使用人達が言い合っていた事では、

「本を読んでいれば、あの顔を見なくてすみますものね。」

だそうだ。

どうでもいいが、子どもとは大人が思っている以上に大人の言うことを聞いているものだ。子供の身になってよく分かる。

貴方も覚えていて欲しい。

大人が子どもを見ている時、子どももまた大人を見ているのだ。


話が逸れたが、まあそういった感じで私としては順調に成長できていると思っている。

そんな風に3歳になってしばらくしたある日、メイドのリラが爆弾発言を口にする。

「はあ、レイ様はあんなに可愛らしいのに。なんで兄弟でこんなに違うのかしら」

口調から私に聞かせるためのものじゃなかったのは分かるが、それでも無視出来る内容ではなかった。

「レイ?」

私がそう口にして顔を向けると、彼女は私の顔を見ないように顔を背ける。

我が家の使用人の必須スキルだ。

しかし、やっちまった感満載の表情は隠せていない。

数十秒後、諦めた彼女が口を開く。

「レイ様は、ルーク様の弟様ですよ。今、半年になりました」


ちなみにこの国でも1年は12ヶ月。

1月は30日前後だ。前世の太陽暦や太陰暦でも1年は12か月だったし、そういうものなのだろうか。ただ1週間は無く、10日で1単位らしい。


って、そんな事は良い。

弟だ!しかも、私に似ずかわいいらしい。これを聞いた時の私の気持ちは、はっきり言って嬉しい気持ちが強かった。

父上、母上良かったですね、と思ってしまうあたり、やはり私たちは親子にはなれていなかったという事だろう。

それがはっきりして、一抹の寂しさもまた、私の中に確かにあった。


とは言えだ。喜んでばかりもいられない。

弟が生まれたことから、この後の展開を予想し、私は覚悟を決めるのだった。

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