第7話 予想通りの急展開

私が弟の誕生を知ってから、1か月が立った。

とはいえ、今のところはそれで何が変わるでもない。

弟に会えるでもなく今まで通りの毎日だ。

と、思っていたある日のこと。


「ルーク様、どうぞこちらへ」

日が昇るかどうかという時間、無理矢理起こされた私に、執事のマルコは物腰だけは穏やかに、しかし有無は言わせぬ態度で馬車に乗るように言う。

年齢はおそらく50前後。白髪混じりの髪を綺麗に後ろへと撫で付けた紳士と言いたくなる男性だ。

顔を見ようとしないのは相変わらずだが、そもそも使用人の中でも地位のある彼は私と関わる『罰ゲーム』とは無縁のはずだ。

この時点でもう悪い予感しかしない。


馬車に揺られ、外を眺める。

御者はマルコがやっている。地球の執事には、縁がなかったので分からないがこの世界の執事は多芸らしい。もしくはマルコだけがそうなのかもしれないが。

つまり、この箱のなかには幼い私1人というわけだ。

屋敷を出るのも、馬車に乗るのもこれが初めてだ。

幸いこの体は三半規管が強いのか、全く酔う気配は無い。

前々から思っていたが、この体はなかなかにハイスペックなのでは無いだろうか。

いくら体を動かしてもほとんど疲れないし、思った通りに体も動く。

子どもの体とはもっとバランスが取りにくく転びやすいものとおもっていたが、そんなこともなかった。

そもそも普通の3歳児がこんなに長時間馬車に乗っていられるものだろうか。

魔力に関しては今世の魔法に関する知識不足と前世知識の影響が強すぎるせいで分かりにくいが、新しい知識もどんどん頭に入るし、本も基本的に一度読めば覚えられる。

因みに私は頭では日本語、会話ではこちらのグラント語を使っているが、現状不自由も感じない。

やはり、顔以外はハイスペックと言っても過言では無いようだ。

その顔が、あらゆる長所を食い潰して余りある欠点なのだが。

外の世界へワクワクすることもなく、こんな事をツラツラと考えるのは、やはりこの後の展開に対する不安のせいだろう。


朝はやく屋敷を出、昼がすぎ、おそらく3時ごろ馬車が止まった。

昼食はリンゴを1つ渡された。

やはり、主人の息子として扱う気は無いようだ。

「ルーク様、申し訳ありませんがここからはお歩きください。」

再度マルコから声が掛けられる。

私は抵抗もせず、無言で馬車を降りた。

馬車の中からも分かっていたが、どうやら森の近くのようだ。

近くに村のようなものはなく、ここにはマルコと私の2人だけ。

いよいよ予想していたシナリオに近づくのを感じている。

「こちらです。」

当たり前だが、手を握る様子などはなく、マルコは森に入っていく。

私は覚悟を決め彼についていった。

どれだけ歩いたろうか。

森ということもあり、辺りはだいぶ暗くなっている。

マルコは一応こちらに合わせたのかゆっくりと先を行く。

「ここら辺でいいでしょうか」

そう呟くと、こちらを向き私に向かって粉を吹きかけた。

「!」

身構えた私はしかし急に睡魔に襲われ、そのまま地面に倒れた。

と同時に結局眠る事はなかったが、深く呼吸しながら目を閉じ耳に集中する。

マルコの声がする。

「ふう、眠りましたか。眠りの秘薬、勿体ないといえば勿体ないですが、ゼルバギウス家の元長男を殺すのも忍びないですしね。結果は同じとはいえ、せめて苦しまないよう夢を見ているうちに、魔物の餌になる事を願っていますよ」

その後、ここから離れていく足音と気配。


しばらくし、周りに何の気配もしなくなってから私は立ち上がった。



まあ、予想はしていた。

弟が生まれ私が邪魔になることも。捨てられることも。

最悪はマルコの言うように彼の手で殺されることだったが、それだけは免れた。

確かに今も死の危険と隣り合わせである事はかわりない。


それでも、生き延びる道は残された。

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