第28話 一方セルベスト王国は?
セルベスト王国をルクシオが出て、およそ1ヶ月の時が過ぎようとしていた。
魔獣討伐遠征で、縦横無尽に駆け回る神盟騎士隊の躍進は凄まじいもので、ものの1ヶ月でかの地域に発生した魔獣の8割を撃滅させた事で、王国は大盛況の有頂天にあった。
「うぉ〜!!!エル団長!」
「すげぇよ!マジすげぇ!」
「あのスカートから覗く、太腿!!やべ鼻血が!」
「おい、誰か出血したぞ!助けてくれ!!!!」
神盟騎士隊のパレードが行われていて、国民は野次をとばす。
中にはある意味手遅れのものがいるが。
しかし、神盟騎士隊にとってもこのパレードは最高である。
今回の遠征で主に活躍したものがパレードをしているため、王国中の注目をあつめることになる。
男はモテる。
女もモテる。
モテモテ大サーカスとも言っていいだろう。
そんな中で、浮かない顔の少女がパレードが始まってからずっと辺りをキョロキョロと見回していた。
「どうした、ミリア?なに陰気くさい顔をしているんだ?場違いだぞ、笑いたまえ!」
「……人の顔を陰気くさいと言わないで下さい。……笑えませんよ」
無下に答えた後、またその少女は俯いた。
「ルクシオ・クルーゼを探しているのか?
流石にこの大歓声の中にいても、気づかないだろう?パレードが終わった後にまたじっくり探せばいいではないか?」
「……でも。いつもならルクシオ、私が帰ってきた時は真っ先に私のところに来てくれたのに、今回は来なくて。
私も探してみたんですけど、見つからなくて」
つまりはそういう事だった。
想い人が見つからないという。
恋する乙女の苦難だが、それは誰もが想定していたよりも遥かに深刻な状況である。
そう、致命的なまでの状況だ。
神盟騎士隊のアイドルにして花。そんな彼女がパレード中も物憂げにしているものだから、同じ隊の面々も気にしている。
それを察知したエル団長は、困ったように頭を掻いた後言葉を告げた。
「ミリア・シャルロット。このパレードが終わったら私と共に来い。上層部に彼の所在を聞こう』
「……ッ!本当ですか!?」
「あっ、あぁ、勿論だ」
ミリアのあまりの豹変ぶりに寸秒気圧されたエル団長はすぐに取り繕ってみせた。
「今のお前は流石に放っておけん。よほどかの殲鬼が気がかりなのだろう。だから、後で私も一緒に探してやる。だから今は国民に愛想をばら撒け。
これも我が神盟騎士隊の立派な任務だ。
お前がそんな辛そうな表情をしていたら、みなまで暗くなってしまう」
本当に、素晴らしい上司だとミリアは感じた。
一介の新兵の恋煩いのために、こうまでありがとうしてくれる上司が果たしているだろうか?
「分かりました。よろしくお願いします!」
ミリアは素直にエル団長に甘えることにした。
その後、パレードはつつがなく平穏に幕を閉じた。
寄宿舎では、隊の面々が「無礼講だぁ!」と既に出来上がっていた。
「ミリア・シャルロット」
「エル団長!」
「ゆくぞ」
「はい!エル団長、本当にありがとうございます!」
「なに、気にすることはない。私もお前なそれほど恋焦がれる殲鬼に興味が湧いた。
それと、我が隊の最高戦力を苛ませた罪はしっかりとってもらう」
「エル団長ッ!……本当にカッコいい」
「何か言ったか?」
「いえなにも」
こうして2人は、神盟騎士隊上層部に向かった。
「すまない」
「はい?あっ、エル団長!此度の任務、ご苦労様です!」
受付嬢が溌剌に挨拶する。
「あぁ、ありがとう。今回少々尋ねたいことがあってきたのだが」
受付嬢はエル団長の後ろに立つ、綺麗な少女に眼を向ける。
ソワソワしていることから、彼女の要件だろう。
「はい、なんでしょうか?」
「とある人物が現在どこにいるかは知りたい。神盟騎士隊候補生、ルクシオが・クルーゼという男なのだが」
「承りました。少々お待ち下さい」
そうして受付嬢は奥へと消えていった。
「ルクシオ……」
「……」
ミリアは先ほどから落ち着かない。
時折ルクシオの名を呼ぶほどに。
「ミリアよ」
「……はい?」
辛気臭い空気を嫌い、エルはちょうどいいからとミリアにずっと聞きたかったことを問う。
「お前は、【青の殲鬼】のどういったところに惚れたのだ?」
「ふぇっ!?」
神妙な面持ちで聞いてきたのだから、何か重大なことなのだろうと予想したら、まさかの恋バナであったことにミリアは面をくらった。
「それは……ッ」と人差し指でツンツンしながらモジモジするミリアは、顔を紅潮させていった」
「そんなの、多すぎて……。けど、全部好きです」
今度は面くらったのはエルだった。
想定外の惚気だった。
「だってルクシオ、凄く優しいんです。たしかに少しだけ口うるさい時もあるけど、いつも私の事を考えてれて。
騎士隊の入った頃は、私は弱かったから、危なくなった時は、いつもルクシオが側にいて、守ってくれて」
ミリアはルクシオに対する想いをぶち撒ける。
「ルクシオはみんなに優しい。仲間の相談をよく聞いてて、助けたり。
恋の相談を受けた時も、「必ず成功させてやるッ!」って真剣に相談に乗ったりとかしてて。無事にカップル成立したらルクシオどうなると思います?」
「?」
エルは首を傾げて、続きを促した。
「ルクシオったら、無事に仲人ができたら、号泣するんですよ?
「良かったな、幸せになれよ!」って」
「……」
エルは静かに聞いていた。目の前の少女は、本気で想い人のことを語っている。
流石に間を遮るのは無粋だと思った。
「ルクシオは、人の幸せを心から願える人なんです。
いつもは適当に過ごしたりとかしてるのに、いざとなったら真剣で。
自分のことはあまり頓着しないっていうか。
俺はそんなに凄い人じゃないって言って、「俺は大概の人に興味ない」って言いながらも、いつも他人のために動いてる。
そんな彼を見てると、とても幸せを感じるんです。
幸せになってほしい。ううん。
幸せにしたいって。
この人の側に立って、永遠に支えたいって。
心から、そう感じるんです。
だから私はルクシオが、好きなんです。
……凄く好き、大好き。
あの人と、共に人生を歩みたい」
ミリアの想いは、神盟騎士隊の同僚が想定していたよりも深い。
ルクシオがいる時点で、余地など皆無。
ミリアが他人に振り向くことは絶対にない。
ミリアにとって、ルクシオとは、生きる希望であり目標であり、最愛の想い人なのだ。
「……。……んんッ!?」
ミリアははたと我に返った。
すぐに顔を赤らめる。
汗が出てきて、地に足がつかないといった感じだ。
「そうか。ルクシオ・クルーゼはお前にとって、本当に世界で1番大切なのだな」
エルは、ミリアを微笑ましく思き目尻をさげる。
そんな時だった。
「お待たせして申し訳ありません」
受付嬢が戻ってきた。
エルは、タイミング悪いなと思いながらも表に出さず振り返る。
ミリアは慌てふためいた。
「?」
何かあったのだろうか?
と受付嬢は不審に思うが、すぐに営業スマイルを取り戻して、結果を告げる。
残酷の、宣告。
「ルクシオ・クルーゼというものですが、既に1ヶ月前に辞職しています。
現在の所在は、セルベスト王国外としか分かりませんでした」
「……えっ?」
エルはすぐに状況を飲み込み、一方ミリアは、心の叫びが漏れたようなか細い声を出した。
ルクシオが……いない?
辞めたって、えっ?
なに?
どういう事?
ひたすらに思考が空回りして、足下がおぼつかなくなる。
倦怠感に身を襲われる。
ルクシオ、ルクシオッ!
ルクシオが、いない。
「そんな……嘘、でしょ?」
「ッ!ミリア!」
ミリアは、止めどなく涙を溢れさせ、膝をついた。
想像構築で生きるスローライフ〜幼馴染に拒絶され疲れたので、楽に自由に生きようと思います 白季 耀 @chuuniyuki98
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