彼女の返事
付き合ってくれませんか。
そう言ったのはいいが、その後どうするのか、実はまったく考えていなかった。
何せ恋愛ものを久しぶりに読んだばかりだし、その本での情報が今の僕の恋愛の知識のほとんどを占めていた。
少し読んだだけなのに自分が恋愛できると思い上がり、そして舞い上がっていたのかもしれない。
とにかく彼女の返事が返ってくるまでに、せめてイエスかノーの二パターンくらいのリアクションは考えておこう。
しかし僕が整理をつけてもなお、彼女はジト目で僕を凝視していた。
仮にも告白したということは、有体に言えば目の前の女の子が好きなわけだ。
だからあんまり見つめられると僕の精神も耐えられなくなってくるのだが、返事が返ってきたかどうかは定かじゃない。
とても浅く首を縦に振ったようにも見えたが、ここで勘違いして喜べば、単純に変な奴という称号を授与されかねない。
好きな女の子にそんな認識をされたら、さすがに僕も胸が痛い。
どうにも掴めない彼女の動きに反して、頭のアホ毛は前に倒れては起き上がるという見たことのない動きをしていた。
僕にはその感情が理解できず、結局お互いの意思疎通に進展は生まれない。月夜の下の昇降口は、動かない女子生徒と返事を待つ男子生徒を巻き込んで時を止めた。
そこからもう五分くらいは経っているだろうか。いや、雰囲気に気圧されただけで実際はほんの数秒だったのかもしれない。
いずれにせよ痺れを切らしてしまった僕が「明日返事を聞かせて」と伝えようと彼女に近づくと——。
——彼女のアホ毛は犬のしっぽのように大きく揺れ、僕を見ていたジト目は学校の門の方を見て——。
僕らは駅のホームで線路を挟むまで、二人分の足音とページをめくる音だけを聞いていた。
翌日教室に入ると、僕ら穏やかグループの面々に稀に見る穏やかさの欠如が訪れていた。
奴らは先に来ていた彼女と僕とを交互に見比べては、各々違った反応をしていた。
恋愛沙汰に疎い僕でも、何を意味しているのかは一瞬で分かってしまった。それは学生特有の、友情から生まれる弄りだ。
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