僕の告白

 彼女は僕に会釈をしてすぐに出ていってしまい、アホ毛の真意が分からずじまいだった。

 それを確かめるべく、僕は普段の彼女の観察を試みる。彼女にバレたり、他のやつから勘違いもされそうなのでそこはほどほどに。

 


 そうすること一ヶ月、僕の中にある一つの感情が芽生え始めた。


 それはおそらく、恋。


 ちぐはぐで不器用な感情表現、しかしその感情自体はとても純粋。そのあどけなさが愛おしくなってしまった。

 もっと色々な感情を知りたいと思ってしまった。

 色々なアホ毛を見たいと思ってしまった。


 毎年本を読んでゆっくり過ごしていたゴールデンウィーク。今年は気を紛らわせようと性に合わず都心に出て本屋をはしごして、今まであまり手を付けてこなかった恋愛小説にまで手を伸ばした。


 いつもと違った連休が明け、再び訪れた図書委員の当番の日。仕事中はお互いに干渉することなく読書だけで終わり、あっという間に外は暗くなっていた。

 生徒に下校を促す放送が流れ、まだ残って勉強をしていた数人の生徒はおもむろに腰を上げて帰り始める。


 最後に図書室の戸締りをするのも図書委員の仕事。鍵を閉めて二人で職員室に返し、月明かりが差し込む薄暗い昇降口に向かう。


 アタックするなら今がベスト。そう考えて、鼓動が先走る。

 彼女が上履きから靴に履き替えた瞬間を狙って話しかけた。


「あの、さ。話があるんだけど……」


 肩こそ跳ねなかったものの、彼女は明らかに驚いたように動きを止める。アホ毛は当然その感情を表して真っすぐに伸び、「?」に形を変えた。

 しかし、いざ面と向かって言おうとするとかなりの勇気が必要だ。今まで似たような経験が一切なかった僕にとって、これは一世一代の大勝負。深呼吸をし、心を落ち着かせる。

 かばんを肩から下げてジト目で振り返る彼女に、


「僕と、付き合ってくれませんか」


 僕は意を決して気持ちを伝えた。

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