彼女の禁忌

 顔には表さずとも、アホ毛で疑問符を浮かべる彼女。

 このまま放置というわけにもいかず、とても悩んでいそうには見えないその悩みを解決するほかなかった。


「えっと……、君、の髪の毛がすごい動いてるんだけど……」


 ここまで言って初めて、彼女は頭のアホ毛に手を伸ばし、触れる。

 だが触るだけだと分からないのか、スマホを取り出して画面を見始め、ようやく彼女は自分のさらけ出された感情を自覚した。

 驚きのあまりアホ毛はピンと立ち、見ないで、というふうに手でアホ毛を覆い隠した。

 しかし顔は平然としていて、頬を紅く染めたり怒って睨みつけたりする兆しすら見られない。


「あ、あぁ、ごめん! もう見ない! 見ないから!」


 女子の着替えに出くわしたかのように顔を逸らすが、如何せん彼女の顔に表れてこないからややこしい。

 恥ずかしさからなのか、そもそも恥ずかしさがアホ毛に出ていたのかは定かじゃないが、彼女は荷物をまとめて図書室から出て行ってしまった。


「見ちゃいけないものを見ちゃった気分だ……」


 それこそ例えじゃなく、本当に着替えに出くわした気分。

 彼女が帰って一人になった図書室はこの上なく絶好の読書環境のはずだが、この状況で集中など出来るはずもなく、その日は一ページもめくることなく帰宅することになった。


 ところがどうしたものか、アホ毛に対していつもより過剰に反応してしまうのだ。

 ここ最近寝る前に読んでいる小説。今までは普通に読んでいたが、この物語のヒロインが偶然にもアホ毛なのである。

 ストーリーは頭に入ってこなくなり、放課後同様に一ページも進まなかった。


 結局、もう見ないとあれだけ豪語した割には、一向に頭からアホ毛が抜けてくれないまま、無理やり眠りについた。


 次の日、僕と彼女は当然顔を合わせることになる。

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