幼馴染の百合を見守ろうと思ったら、彼女が好きだったのは女装した俺だった……
うみ
第1話 思ってもみない状況に戦慄した
「わ、わたし……好きな人ができたの……」
「お、おお?」
思い切って最近様子のおかしかった幼馴染をファーストフードに誘って話を聞いていたら……衝撃的な告白を聞いてしまう。
彼女は生来色素が薄く明るい茶色の髪にヘーゼルカラーの瞳をしている。
その特徴的なヘーゼルカラーの目は今や潤んでいて、テーブルの上に乗せた両手の指を絡ませ耳まで真っ赤になっていた。
そらそうだろう。いくら勝手知ったる幼馴染である俺の前とはいえ、自分に好きな人ができたことを告白するんだから。
「由宇。それってどんな人なんだ?」
ここで聞かずにスルーなんて有り得ない。彼女の名前は
ぽやぽやあっとした雰囲気と垂れ目が人気の秘訣だと聞く。
まあ、それはともかくとして……彼女は俺の質問にじっと黙ったままもじもじするだけで一行に口を開こうとはしない。
「だ、誰にも言わない? 変な子だと思わない?」
「もちろんだよ。俺と由宇の仲だろ?」
後ろのお願いが少し気になったけど、秘密はもちろん厳守する。
「あ、あのね良辰くん、わ、わたし……」
「落ち着け。まずは大きく深呼吸だ」
彼女と目を見合わせ一緒にすーはーと深呼吸をする。
申し遅れたが、俺の名は
深呼吸をしてようやく少し落ち着いたのか、彼女はキリっと口元を締めてスマートフォンをテーブルの上に置く。
「ぜ、絶対に笑わないでね。変な子だと思わないでね」
「分かってるって。笑わないから」
「ぜ、絶対だよ!」
上目遣いで羞恥心から真っ赤になったまま、彼女はスマートフォンを指先で触り俺へ見せてきた。
写真か、隠し撮りでもしたのかなあ。可愛いところあるじゃないか。
なんて余裕を持っていたのは写真を見るまでだった。
そこに映っていたのは……俺だった。
もう一度言う、俺だったんだ!
指先を震わせながら、あんまりな事実へ動揺しないようぎゅっと腹に力を込める。
「へ、変だよね」
「い、いや……」
彼女は気が付いていない様子だ。
それだけは幸いだったけど……問題の先送りに過ぎない……。
「わ、わたし、女の子を好きになっちゃうなんて……」
「あ、うん……」
横顔だけど、同じ年くらいの黒髪の少女が確かに映っている。
うん、それはな女装した俺なんだ。
絶対に彼女には言えないけど……。
ど、どうしよううう。
「お、俺は別に女の子同士だってアリだと思うよ」
「そ、そうかな……」
「うんうん」
「うんうん!」
は、ははは。励ましている場合じゃねえぞ。
いや、百合展開自体は嫌いじゃない。むしろ遠くから見守らせて欲しい。女の子同士がきゃっきゃしてるのとか超萌える。
「話を聞いてくれてありがとう。良辰くん」
「あ、いや。もしかしたら俺の事を好きーとか言う展開を期待してたんだけど……残念だよ」
「良辰くんのことはお友達として大好きだよ! いつも頼りにしてるんだから。ありがとう」
「そ、そっか」
俺に対しては脈無しっと。
ひょっとしたらと思って期待を込めて冗談めかして聞いてみたけど、自爆したよ。
俺個人としては、幼馴染の由宇に対しほのかな恋心を抱いていたわけだったが……。現実とは非情である。
◆◆◆
どうすべきか結論が出ないまま、由宇と別れ自宅へ帰りつく。
俺の家は一軒家なんだけど、今家に住むのは俺一人なんだよ。
高校二年の時、仕事のため両親が海外へ行ってしまった。俺は高校在学中ということもあり、そのまま日本に残ることになったんだ。
そんなわけで俺は一軒家に一人で暮らしている。妹が帰ってきてたまに二人になることもあるが……。
ふう。
自室に入り、制服を脱いだら大きなため息が出てきた。
もうバレバレだが、俺には人に言えない趣味がある。
誰にだって一つや二つ秘密にしたいことってあるものだよな?
俺も御多分に漏れず、秘密にしたいことがあるんだ。
それは――女装である。
最初はほんの気まぐれだった。だけど、高校三年になり受験勉強のストレスが溜まり始めてから様相が変わってしまう。
女装すると「別人になれる」のだ。
疲れた気持ちを一新すべく夜な夜な女装して出かけることが、週に一度や二度じゃあなくなってしまった。
昨日の晩のことだ。
慣れたもんで長い黒髪のカツラをかぶり、バッチリメイクをして街に繰り出した。
いつもどこを歩くのかは決めていて、ゆっくりと散歩を兼ねて家から二十分くらいの距離にあるコンビニまで行き、桃味の天然水を買って帰宅する。
たったこれだけなんだけど、戻って来た時に俺の心はすっかり落ち着き、また受験勉強に集中できるんだ。
そんなわけで昨日も同じように、コンビニまで女装したまま繰り出したってわけ。
コンビニに入り、店内を物色していると……明るい茶色の髪の毛をしたボブカットの女の子とすれ違う。由宇だ。
バレないかなと思って緊張感から少し胸が高鳴るが、そのまま彼女を素通りし目的のドリンクコーナーにまで到達できた。
ふ、ふう。
たまにすれ違うんだよな。
「ありがとうございましたー」
店員さんに会釈して、いつものドリンクを買ってコンビニを後にする。
しっかし、受験生らしき人の姿がチラホラと目に付く。由宇と同じ予備校に通っている人たちかなあ?
どうもこの近くに予備校があるらしく、ちょうどこの時間に予備校が終わって由宇がコンビニによるみたいなんだよなあ。
お散歩ルートを変えようかなと思ったけど、今のように気が付かれていないし「まあいいかな」と思っている。
でもさ、最近彼女の様子がおかしいんだよな。
なんかこう学校でも物思いにふけっていることが多いというか、何か悩み事があるのかもしれない。
「思い切って聞いてみるかなあ」
やべえ、まだ女装中の帰り道だというのに、ついつい一人事を呟いてしまった。
はたと左右を見渡すが暗い夜道に人の姿は見当たらない。
ふう……ホッとして胸を撫でおろし自宅まで到着した。
メイクを落とし、風呂に入ってから机の前に座る。
「よっし、頑張るか!」
すっかりリフレッシュできた俺は気合を入れお勉強を開始した。
これが最近の俺の日常である。
受験が終わるまでこんな日がずっと続くと思っていた……。
ここまでが昨日の出来事である。
それが今日になって由宇の告白を聞いてしまい、状況が一変してしまった。
どうしよう。女装を止めるべきなのか。
悩みながらも一人食事を作り、もそもそと食べる。
そもそも女装をはじめたのだって、ほんの気まぐれだったじゃないか。
家族の目が無くなり、一人になった俺はついつい日ごろのストレスから逃れるために女装をして……そのままエスカレートしていったんだ。
「でもあと半年くらいじゃないか。それくらいの間なら……大丈夫じゃ?」
楽観的なことを呟き、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
でも、今日は止めておいた方がいいよな。さすがに……。
なあんて思っていたら、人間不思議なもので。
うん、女装をしてしまったんだ。
こうなると外に出たくて仕方が無くなる。
「散歩ルートを変えれば平気じゃね?」
よっし、そうだ。そうしよう。
ウキウキと可愛らしいポシェットを肩にかけ街へと繰り出す俺であった。
ところがどっこい。
家を出て最初の角を右に曲がったところで由宇に出くわしてしまった。
落ち着け、彼女は女装した俺の写真を撮ったかもしれないが、あくまで女装した俺とは他人。他人なのだから。
いつものようにそのまま素通りしてしまえばいい。
彼女と目を合わせぬよう横をスタスタと通り抜けようとした時――、
「あ、あの……」
由宇に声をかけられてしまった。
どうする俺?
※ここまででっす。この先はみなさんの妄想力にお任せします。
幼馴染の百合を見守ろうと思ったら、彼女が好きだったのは女装した俺だった…… うみ @Umi12345
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