第二小節 青の誘い、波の悪戯


「ん、んんっ……っと、やっと終わった」

「相変わらずこういう普通の講義は退屈そうだね、エフェス」

「うん。私、小難しいことはちょっと苦手なんだよね……魔現なんて全部ぱぁってやっちゃえばそれなりにかたちになるし」

「ふ……単位を落として落第しても知らないよ?」

「さ、流石にそこまでじゃないもん! あ、今はそんなことより……」


 するとそれまで眠そうな顔をしていたエフェスの顔が、雲間から光が差し込んだようにぱあっと明るくなって、急に立ち上がったかと思えば、三人一組の座席に隣り合って座っていたボクとコレットの肩に、ぐいっと腕を回して来た。


「わ、急に何?」

「急に何……じゃないよ、エセル! 自由時間だよ、自由時間!」

「あ、うん。確かにそうだね」

「はぁ、何そのいつも通りの低まった感じ。ほらほら二人とも早く立って、立って。青い海が私たちを待ってるよ!」


 エフェスはとても楽しそうな表情を浮かべながら、席から立ったボクとレティの背中をぐいぐいと押して教室の外に出るようにかした。


「えっ? ええっ? あ……う、外に押し出される……」

「はは……こうなったエフェスはもう止まらないから、諦めるしかないよコレット。ボクも観念しなくちゃね」

「そういうこと、そういうこと! ふふっ。ほら、早く行こう?」


 それから潔く降参したボクとコレットは、エフェスに付き合うかたちで一度自分たちのコテージへと戻り、そこで海に入るための水着に着替えることになった。

 そして、手荷物から水着を取り出そうと準備をしていたボクたちより一足先に、素早く着替えを終えたエフェスが、大仰な音を口にしながらその姿を現した。


「じゃぁああん! えへへ、見て見て。結構大人っぽいでしょ!」


 腰に両手を当てた格好で、こちらに見せつけるような仕草をしたエフェスは、白地のビキニを纏い、胸元とボトムの両脇には、すみれの花を思わせるような大きなリボンがひらひらと揺らめいていた。


「わ、可愛い……けど、ちょっと大胆かも?」

「へぇ。エフェスは水着、新しくしたんだね。前は確か上下が別れていない、よくある普通の水着だったよね?」

「そうだよ。でも今回は思い切ってビキニにしちゃった。リボンは付いてるけど、フリルだらけって感じでもなくて、あんまり子供っぽくないでしょ?」

「うん。まぁ、結構似合っているんじゃないかな」

「ほんと? ありがと、エセル! ねぇ、エセルやレティはどんなの持ってきたの? まさか水着が自由なのに、学校の水着を持ってきたってわけじゃないでしょ?」

「あ、うん。私も一応、新調したものを持ってきたよ。エフェスみたく大人な感じじゃないけど……」

「ふ……」


 ――ボクは、エフェスのいうそのまさか、なんだけどな。

 シャル姉さまが、せっかくだから可愛いものをとボクに新しい水着を用意してくれたようだったけれど、自分がそれを着た姿を想像した瞬間に何だか気が引けて、結局ボクは姉さまには黙って、学校で使う指定の水着を持ってきたんだよね。


「そうなんだ。ともかく、二人の水着姿も見たいから早く着替えてきてよ! それじゃ、レティから行く?」

「う、うん。それじゃちょっと待っててね」


 そして更衣室に消えたコレットが着替えを終えてこちらに戻って来ると、白地にミントのような淡い緑色をした水玉模様と、胸元に白い縁取りが入った同じ色のフリル、さらに腰の辺りには二重になったスカートがあしらわれていて、全体的にとても爽やかな印象を受けた。


「あっ、いい感じじゃんレティ! 何だかこの辺りの海の色とも結構似てる感じで、こう爽やかぁな感じがするよね、エセル?」

「うん。こういう色合いのってボクも割と好きかな。よく似合っていると思うよ」

「そ、そうかな? ありがとう、二人とも」

「ふふっ。それじゃ次は、エセルの番だよ! ほらほら、駆け足!」

「最初に言っておくけど、期待しても無駄、だからね?」


 エフェスはボクの姿を見てきっとがっかりするだろうけれど、別に悪いことをしてしまったわけではないから、なるべく堂々としていようと思った。


 そしてボクが更衣室に入り、其処で水着が入った巾着袋を広げた途端、その中に入っていたものを見て、自分の眼を疑いながらもそれを三度見した。


「な、なんで……? 一体どうしてこんな、ことに……?」


 あり得ない。何故ボクが入れたものとは全く違う、が入っているのか。そもそも前日に自分自身で用意したものなのだから間違えるはずがない。一つ可能性があるとすればそれはきっと、シャル姉さまの仕業に違いなかった。


「う、シャル姉さま……これはあんまり、だよ」

「エセルぅ、まだぁ? もし紐っぽいのだったら手伝おうか?」

「い、いいよ! すぐに、行くから……」


 もはや手元にこれしかない以上、覚悟を決めるほかない。たとえこのあとエフェスたちに笑われてしまうことになっても。恨むなら、シャル姉さまを甘く見た自分自身を恨むしかないのだから。


「はぁ……お待たせ」

「うわっ、エセルどうしたの! 超可愛いじゃん、それ!」

「うん! 本当、虹色のお花畑みたいでとっても素敵だと思う」


 ボクが身に付けることになったのは、エフェスと同じく上下が分かれている、いわゆるビキニと呼ばれる様式の水着だった。そのくらいなら別にそこまで気にはならないものの、問題はその装飾というか見た目だった。


 よくこういった水着にはリボンやフリル、ボトム部分にはスカートが付いていることが多々あるものの、上下共に花そのものを模した飾りが、それもふんだんにあしらわれて、コレットの言うようなお花畑状態になっているものは初めて見た。


 こんな可愛らしさを全面に押し出したようなものを、あろうことかこのボクが身に纏っているだなんて、考えただけでも穴を掘って隠れてしまいたくなる。


「期待するだけ無駄、だなんて言っておいて、実際はとびっきり可愛いのを着てくるあたり……エセルさんも中々、やりますなぁ?」

「ち、違う……これは、シャル姉さまが勝手に……!」

「はいはい。そういうことにしておくね。まぁエセルも意外に女の子なところがあるんだなって判って、私としてはかなり嬉しいかも」

「だからこれはボクの意思じゃなくって……! はぁ、言うだけ無駄か……」


 これは帰ったら、シャル姉さまを問い詰めなくてはいけない。気付いたらすっかりと言いくるめられていそうで、あまり意味はないかもしれないけれど。


 ただ、こんな姿をあのお喋り好きな学級の子たちに見られたら、実は可愛いもの好きだとか勝手な噂を広く流されてしまいそうで、正直辛い。


「ね、ねぇエフェス。何か腰に巻く長い布みたいなのって、なかったかな?」

「ん? もしかしてパレオのこと? 私は持ってないよ。レティは?」

「私も……こう、上下が繋がっているかたちだったから、そういうのは特に持ってきて無くって」

「そ、そっか……」


 まぁ海の方に出て行かなくても、この姿で居ればエフェスも文句は言わないはず。ボクはコテージ内から浅瀬へと導く階段の中頃に座って、潮風でも浴びながら持参した本でも読むことにしようと思った。


「あははっ、水が冷たくって気持ちいいね、レティ! おりゃおりゃ!」

「わっ、し、しょっぱい! と、飛ばし過ぎだよ、エフェス」

「だって楽しいんだもん。ふふっ、ほらエセルも早くこっちに来て遊びなよ!」

「ボ、ボクは別に……ここで、いいよ」

「むぅ。まぁたそんなこと言ってる。それなら!」


 ばしゃり。エフェスがこちらに向けて全力で水鞠を飛ばして来たらしく、ボクの手の中にあった本にもその飛沫しぶきが斑模様の足跡を多く残していった。


「そうか……そこまでして遊びたいんだね、エフェスは」

「あ、あれ? なぁんか魔素が高まってきてる感じがするんだけど……?」

「じゃあボクも、その期待に応えないと……ねぇ!」

「ちょ、エセル! 魔現は――」

水精の吟声カルミナ・アクアティリス!」


 ボクは周囲に充溢している水の魔素を両手に集約し、それを即座に高圧の水流に変現させて、近くに居たエフェスに向けて容赦なく浴びせかけた。


「うわぁあああっ!」

「ひあっ! エ、エフェスの身体が吹っ飛んで……!」

「だってエフェス、ボクと水遊びがしたかったようだから」

「み、水遊びって……」

「それにほら、向こうもやる気みたいだよ?」

「えっ? 向こうって……わわっ!」


 その瞬間、エフェスの居た方から飛来した大きな水の球が、豪雨の如くこちらへと降り注ぎ、その影響から周囲の浅瀬に高い水柱が幾つも立ち昇って、霧のように立ち込めた濃密な水煙が、あっという間に辺りの景色を呑み込んだ。


「このままじゃきっと、辺りのコテージも巻き添えを食ってしまうね。続きはもっと広いところでやるとしようかな。ふっ……!」

「つ、続き? エセル、ちょっと待っ……い、行っちゃった。何だかこれ、大変なことになってきているような……?」


 そうしてボクは遠くに飛ばされていたエフェスの方へと自ら距離を詰め、水遊びの続きをすることにした。自然魔素で満ち溢れているこの空間でなら、思う存分に魔現を行使することが叶う。


 エフェスはボクに負けじと水の魔素を生かした魔現を惜しみなく連発してくる。だからボクも、それ相応の術を以て応えるのが彼女への礼儀だと思った。


「どうしたの、エフェス? もう降参かな?」

「さ、さすがにこれ以上はもう……なんて、ね! 逆巻く水簾カタラクタ・インヴァーサ!」

「……ぶふっ! 一瞬だけ降参した振りをして、下から急に突き上げてくるだなんて、中々やるね。でもこの流れは、そのままそっくりお返ししてあげるよ! 輪旋の導きコントラ・フルクシオ!」

「うえっ! 水流の軌道をこっちに向けてくるなんて、卑怯過ぎ――」


 エフェスによって、間欠泉の如く轟々と巻き上がった逆しまの飛瀑は、ボクの導きを受けて宙を滑る奔流と化し、間もなく高所から落ちる滝へと姿を変えて、唖然とした表情を浮かべていた彼女のもとに降り注いだ。


「ふぅ。これで満足した? エフェス」

「けほっ、こほっ! う、鼻に水が入ってじんじんするぅ……酷いよ、エセル!」

「先に攻撃しておいてよく言うよ、全く」


 エフェスはさっきの魔現で大きく海水を鼻から吸い込んだのか、こちらにお尻を向けながら身体を大きく前に倒した格好で、しばらくせていた。


「こほん! はぁ……でも、さっきの結構楽しかったでしょ? エセル、ここのところはずっと何かを一人で考え込んでる感じだったから、たまにはこういうのも悪くないかなって」

「エフェス……そんなこと、思っていたんだ」


 常日頃は気の向くまま、自由奔放に振る舞っているようでいて、その実は色々なところに対して確かな眼差しを向けている。ボクはエフェスが時折覗かせるそういった一面に、かなり驚かされることがある。


「はぁ……やっと、追いついた。ふ、二人ともぉ、大丈夫だったの?」

「あっ、ごめんねレティ! 私たち勝手に二人で楽しんじゃって。やっぱりレティも混ざりたかったよね?」

「はは……私、あそこまで激しいのはちょっと……って、エフェス! う、上はどうしたの?」

「えっ、上?」

「あ、いや、エフェス……その、胸が……」

「へ? 胸って……あぁ!」


 コレットが来るまで、ボクからはエフェスのお尻しか見えていなくて気が付かなかったものの、こちらに向き直った彼女の胸元には、ついさっきまであったはずのものが、どういうわけか影も形も無くなっていた。


「わぁ! み、見ないで……!」

「大変! きっとさっき見えたあの物凄い水飛沫を受けて、何処かに飛んでっちゃったんだよ!」

「これはちょっと想定外だったな……おそらく、紐で留めていたところが水流の圧を何度も受けたことで、その結び目が徐々に緩んでいって、ついにはあの一発がとどめになって解けてしまったんだ」

「そ、そんな冷静な解説はいらないってば! もう……でも弱ったなぁ、一体どこに飛んじゃったんだろ……」


 さしものエセルも、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいようだった。実際その出自と魔現の資質を抜きにすれば、コレットと何も違わない普通の女の子なのだから、当然といえば当然の反応だった。


「仕方ない……ボクが探すよ。この辺りならまだ浅いし、浮いていればすぐに分かるはずだから」

「それなら、私にも手伝わせて? 二人で探した方が見つかりやすいし」

「恩に着るよ、コレット。それじゃあボクはあっちの方を探ってみるから、コレットは向こうの方を頼めるかな?」

「うん、任せて」

「レティにまで手伝わせてごめんね。うぅ……海藻でも巻きたい気分だよ」


 そしてボクは視力を魔導で強化して、周囲の海面をつぶさに観察することにした。エフェスの着けていた水着は白を基調としたものだったため、もし表面上に浮いていれば、陽光を受けて一際煌いて見えるはずだった。


「うぅん……それっぽいものは見当たらないな。結構強めの水流だったから、もしかすると水中にまで押し込まれて、何処かの岩場に引っかかっているのかも」


 そこでボクは、捜索の眼を水中へと向けることにした。魔導で能力を向上させた眼であれば、この海の透明度も手伝って、水中であってもかなり先の方まで見渡すことが出来るはずだった。


 ――視界は良好。これなら目にさえ留まればすぐに回収出来そう。水上から見ていた時には気付かなかったけれど、こうして直に中を覗いてみると、こんな浅瀬でも実に多くの生命で満ち溢れているんだなぁ。


 海中には鮮やかな色をした小魚たちの群れや、空を往く雲のように、球状や楕円、そして平面的に見えるものなど、一つとして同じ形はない珊瑚があちこちに見え、果てしなく続く水面を境にして、ボクの知らない世界が無限に広がっていた。


 これもきっと、自分から覗く機会が無ければ到底知り得なかったもの。そのきっかけはちょっと複雑ながら、あの時エフェスが水を掛けてでも、ボクの手を引っ張ろうとした本当の理由が、少しだけ解ったような気がする。


 ――ん? あそこでゆらゆらしている紐みたいなものって、まさか……?

 間違いない、エフェスの水着だ。こんなところまで流されていただなんて。


 ボクはエフェスが放った魔現に力を加えてそのまま利用したものの、もう少し加減していれば良かったと思った。久々に魔現を思い切り使うことが出来たせいか、ボク自身も少しはしゃぎ過ぎていたところがあったのかもしれない。


 ただ、発見したエフェスの水着は、ちょうど岩と岩の間にある狭い空間に挟み込まれていて、中に手を入れて腕を伸ばさないと届かない位置にあった。


 ――まぁこのくらいなら、見えている紐の部分を掴んで引っ張り出せば、何のことはないか。早く取り出してエフェスに返してあげよう。


 しかしいざ紐を引っ張ってみても、意外にしっかりと奥に挟まっているようで、ボクは限界まで右腕を伸ばして、より強くこちらへと引き寄せることにした。


 ――あと少し。もう、ちょっと……よし! 最後はこのまま引っ張れば……ほら、取れた。さ、コレットにも伝えて一緒にエフェスのところへ……って、あれ?


 腕が、抜けない。どうやら奥に挟まっていた水着を勢いよく引き抜いた瞬間に、水流を受けた身体が横に動いて、より狭い隙間の方に腕が挟み込まれてしまったらしかった。


 いけない、簡単に取れると思って息継ぎを十分にしないまま腕を突っ込んでしまったせいか、もう息が苦しく感じてきた。それに浅いといってもこの体勢からでは水面に顔を出すことは叶わず、腕を岩から引き抜かない限りは呼吸が出来ない。


 ――それなら、魔現でこの岩ごと破壊すれば……いや、そんなことをしたらエフェスの水着が跡形も無くなってしまう。それか魔導で身体を強化して強引に抜けば……あれ、魔導ってどう、やるんだっけ……息が苦しくって、頭が回ら、ない。


 ボクとしたことが、何て間抜けな。段々視界が暗くなって辺りの輪郭が霞んでいく。うっ、まずい……さすがにこれ以上はもう、息が……!


「――ル!」


 ぼやけた何かがこっちに近づいてくるのが判ったものの、意識はそれとは逆に刻々と遠のいていくようで、全身から力と熱とが急速に奪われていく。ひょっとすると、この感覚こそが、止まる……ということ、なのだろうか。


 そうしてボクの意識が水底に吸い込まれようとしたその瞬間、急に柔らかな感触が口元に伝わり、それに並行して全ての感覚が鮮明さを取り戻していった。どうやらボクは、少しだけ空気を得ることが叶ったらしい。


 水中にあってどうやって息が出来たのかは判らなかったものの、光を取り戻しつつあったボクの目の前には、エフェスと思しき顔がおぼろげながらも映っていた。


 そしてエフェスのように感じられるその人影は、一旦ボクの前から離れて光の溢れる方へと移動すると、すぐさまその身体を翻してこちらへと再接近し、その顔がボクのそれと触れ合う距離にまで一気に近寄って来た。


 ――これ、は。空気が、口の中に広がって……。もしかして、エフェスが……目一杯に吸い込んだ空気を、口移しでボクに運んでくれている?


 ボクが目の前の人間がエフェスだと認識して間もなく、彼女はボクに手を使って、いちにのさんで何かを引っ張るような仕草をして見せたのが判った。どうやら時機を合わせて、二人一緒にボクの腕を岩から強引に引き抜くつもりのようだった。


 間もなくエフェスが指折りしながらその時機をボクに示す中で、元の冷静さを取り戻すことが出来たボクは、彼女と息を合わせて挟まっていた右腕を力一杯に引っ張った。するとボクの腕が掴んでいた水着と共に、岩の隙間からするりと抜けた。


「ぷはぁっ! すぅ……! げほっ! ごほっ! はぁ、はぁ……!」

「ふぅ……な、何とか、抜けたみたいで、ほんと良かったよ……エセル」

「はぁ……あ、ありがとう、エフェス。おかげで、はぁ……溺れずに、済んだよ……お礼にはならないけど、これ、受け取って」

「これって……そっかぁ。これを取るために、ああなったんだ。ごめんね、エセル。私がエセルを挑発して無理に連れ出していなければ、こんな危ない目には……」

「それは、いいんだ。おかげで、気付けたことも……あったから。それよりボクの方こそ、さっきは少し調子に乗り過ぎてしまったと思うから、ごめん」

「エセル……なら、これでおあいこ、だね!」

「そう、だね。ふふっ」


 ボクたちが二人で笑い合っていると、向こう側から憂いを帯びた面持ちで近づいてくるコレットの姿が見えた。


「あっ、エフェス! いきなりどこかに向けて走っていったからどうしたのかと思っていたけど、水着、見つかったんだ?」

「あ、レティ! うん。この通り、エセルが見つけてくれたんだ。これで恥ずかしい思いをしなくて済むよ」

「まぁ、ボクはもう少しで魚に生まれ変わるところ、だったけどね……」

「お魚に、生まれ変わる……? それってどういう、こと?」


 それから事情を知らない様子のコレットに、今しがたここで起きた一部始終を伝えると、話を聞いた彼女は途端に仰天して、自分が何も出来なかったことをかなり悔やんでいるようだった。


 そしてそれを見ていたボクは、こんなはちゃめちゃな二人に付き合わされているコレットに対して、何だか申し訳ない気持ちで胸が一杯になってしまった。

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