第二楽章 砂薔薇の輪舞

第一小節 心優しき半妖の少女、レイラ


「……大丈夫かな。私、あの子とちゃんと話せるかな……」


 レイラ・ファラーシャ。

 この世界で忌み嫌われている妖魔の血を、その身に半分だけ受け継いだ半妖セーミスとして生まれた私は、砂漠地帯にありながら貿易の要衝として知られるマタール王国の首都、アル・ラフィージャの下層区スラムで育った。


 同区は、何かしらの理由があって住む場所を追われた者たちの吹き溜まりとして知られ、その住人は周辺に散在する遺跡の近くで古代遺構のがらくたを日ごと必死に拾い集めては、それを売って雀の涙ほどの日銭を得るという過酷な生活を送っていた。


 私のお母さんも、もともとは良家の息女でありながら、妖魔と密通したことで背神罪に問われ、故郷の町から排斥されて流民となった後、各地を転々としながらこの地に流れ着いたらしかった。


 私が下層区出身者でありながら、文字の読み書きが満足に行えて、すぐに傷んでしまう衣服の修繕などが小さい頃から出来たのも、そんなお母さんがいずれ私が大人になった時のことを考えて、一生懸命になってこの私に色々と生きる知恵を教えてくれたからに他ならない。


 お父さんは純粋な妖魔で、私が小さい頃から数えるほどしかその姿を見たことはないものの、妖術で人間の姿に扮するのがとても上手で、後から知った話ながら、お父さんはアル・ラフィージャからの行商人を騙っては行く先々で現地人までをも巻き込んだ詐欺行為をはたらき、不当な利益を繰り返し得ていたようだった。


 幼い頃の私はそんなことなどつゆ知らず、ごくまれに帰ってくるお父さんが、下層区の住人には叶わない贅沢を私たちにさせてくれたことがとても嬉しくて、私はまたすぐ何処かへといってしまうお父さんが自分ことを忘れないように、グラウ運河の近くで採った貝殻をつなぎあわせた腕輪を贈り物としてあげたこともあった。


 しかし下層区の暮らしは非常に貧しいもので、そういった臨時収入や古代遺構の残骸を売って得られるお金だけでは生きていくことが難しく、私は日々の食糧を得るべく、運河近くに現れる小動物などを狩るため、同じ下層区にいた元狩人の住人から弓術を学び、半妖故の人間離れした感覚や視力も手伝って、やがて運河の水面を泳ぐ魚でさえもその魚影から判断し、弓矢だけで仕留められるようになった。


 また、私が生まれた時から持っていた背中の翼も上手く利用して、より高い場所に居る鳥たちも、いつしかその獲物として加わることとなった。


 そんなある日私は、王家の人間のみが足を踏み入れられる禁足地の近くに位置する洞窟の中で新たな遺跡が見つかったという話を聞いて、いつもよく一緒に行動している同年代の女の子――セドナと共に、お母さんたちにも知らせないまま同遺跡へと向かい、二人して少しでも高く売れそうなものがないかどうかを血眼になって探した。


 私たちは小さな子どもであったが故に、大人では入れない狭い場所も通ることが出来たため、暗がりを照らす灯りが長くはもたないことも忘れて、どんどん遺跡の奥へと進んでいき、そしてその先でとんでもない事態に見舞われることとなった。


 何と、一緒になって探索していたセドナが、相当古くなっていた床面に気付かず、その足を乗せた瞬間に足場が一気に崩れたことで、高所から急に落下してしまうことになり、その両脚に骨折と思しき大怪我を負ってしまった。私自身は、背中の翼があったことで反射的に浮揚し、崩落に巻き込まれることは辛うじて回避出来た。


 私は刻々と衰弱していくセドナの姿を前に何も出来ず、またそこで灯りの寿命が残り少ないことにも気付いて、次第に広がっていく頻闇しきやみにただただ恐怖を感じて震えるばかりだったものの、私がどうにかしなくてはと必死になって思いを巡らせた瞬間、自分の中から突如として奇妙な光のようなものが沸々と湧出し、その輝きが傍らで倒れていた友人へと自然に伝播すると、不思議なことにみるみる彼女の怪我が回復していき、しばらくしてそれは完全に治癒したように見えた。


 私はそれと同時に強い疲労感を感じたものの、再び動けるようになったセドナと共に出口を目指し、何とか灯りが途絶える寸前に外へと脱出することが叶った。後日、私がその力のことをお母さんに告げると、それは神様が私に与えてくださった奇跡の力なのだと教えてくれた。


 ただその力の大ささ故に、みだりに使えば必ずその代償があるはずで、またその力を悪用しようとする大人が私を攫うかもしれないという懸念から、私はお母さんから極力人前では控えるようにとの注意も受けた。


 そんな中、私の不思議な力のことを、私が助けたセドナが誰かに教えてしまったらしく、やがて私の知らないところでその話が広がっていったのか、私の家には、怪我を治して欲しいという人が数多く現れるようになってしまい、私は力を使うとその分だけ疲れてしまうという反動を自覚していたことから、一日あたり三人までという制限つきで、怪我人の治療を行うことになった。


 それからしばらく経って成長した私は、ある日、上層区に身分や出身を問わずその能力に応じて報酬が得られる、実入りの良い仕事があるという話を聞いて、私の力でも治せない悪気ミアズマが原因の病を患ってしまった母の薬代を稼ぐべく、担当者との面談を受けられる場所に連れて行ってもらえるという駱駝車に自ら乗って、今後のことに深く思いを馳せていた。


 しかし、そんな私の考えとは裏腹に、私が連れてこられた場所は人身売買を生業とする組織の拠点であったようで、有無を言わさず拘束された私は目隠しまでされた上に、地下にあった何らかの輸送手段によって何処か遠くへと運ばれてしまった。


 それから私が再び地上に出て、森の中と思しき場所で一時的に拘束が解かれた際、私は相手の隙を狙ってその場から逃げ出し、何処かに助けを求めようとした。


 ところが、脱走した私は何らかの罠に引っかかってすぐに捕まってしまい、二度と逃げることが出来ないようにと、私にとって半妖の証でもあった背中の翼を、鋭利な刃物で切り取られてしまった。


 そうして最終的に何処かの地下牢のようなところに入れられた私は、自分のこれからと故郷に残したままのお母さんを想いながら底無しの絶望に打ちひしがれ、その涙が枯れ果てるまで泣き続けた。そんな中、私を閉じ込めていたその檻を容易く破壊し、この私に優しく救いの手を差し伸べてくれたのが、あのメルだった。


 その後、彼女の従者だと名乗ったリゼも加わって、他に囚われていた人と共に施設から脱出することが叶った私は、ややあって故郷に戻った時に既にお母さんが亡くなっていたことを知って、生前お母さんが私に遺してくれた多くの言葉を胸に刻みながら、私は自らの強い意思でメルたちの旅に同行させてもらうこととなり、それからも様々な紆余曲折を経て、ついには彼女たちが続けていた旅の目的地でもあった、自由の国フィルモワールへと辿り着くことが出来た。


 フィルモワールに着いてからも、私を救ってくれたメルが、それまでの道中で止むを得ず殺めた妖魔が、ずっと消息不明だった私のお父さんであったことが発覚したり、さらには大陸全土を巻き込む大事変に巻き込まれたりと、大変なことが立て続けに起こったものの、私はその全てをメルたちと共に何とか乗り越えて、今は平穏な時間の中にこの身を置くことが叶っている。


 それにフィルモワールで知り合い、私の裁縫の腕前を高く評価して、お店まで持たせてくれたあのシャルにも、私は深く感謝している。いつかはあの人にも、自分に与えてもらったこの恩を目に見えるかたちにして返したいと心からそう思っている。


 そんな中、私はシャルの勧めもあって、しばらく取っていなかった休暇を少し長めに頂くことになった。そこで以前、メルたちとロイゲンベルクに赴いた際に知り合った、妖魔や私たち半妖の存在に深い理解を示してくれたディートリンデと、再び其処で会うこととなった。


 彼女とは半年以上に渡って文通でのやり取りをしていて、お互いの気心は既にかなり知っている仲であるものの、こうして二人きりで会うのは初めてのことで、かなり緊張していた私は、自分が上手く彼女とお話が出来るかどうかをずっと不安に思いながら、彼女との待ち合わせ場所へと少し早めに向かった。


「時計塔が見える広場の噴水前って、ここで間違いないよね……? あぁ、何だかまた胸がどきどきしてきた……何処か適当な長椅子に腰掛けて、待っていようかな」


 ――まず、会ったら最初になんて声をかけるべきなのだろう。おはよう? こんにちは? ごきげんよう? それに手紙の中ではあの子のこと、途中からずっとリンデって呼んでいたけれど、実際に呼ぶとなるとちょっと気安くないかな……でも前に会った時は確か、その場でリンデと呼んで欲しいって――


「レイちゃん!」

「へっ⁉ は、はいっ!」


 左隣りから突然そう呼びかけられて、私は思わず素っ頓狂な声を上げると共に、長椅子から跳ねるように身を起こして、その場で棒のように直立してしまった。


「……やっとまた、会えたね! 急に声をかけちゃって、驚かせちゃったかな。でもレイちゃんはいつからここに? ひょっとして私、だいぶ待たせちゃってた?」

「そ、そんなこと、ないよ? 全然! ここには今、来たばかりだから!」

「そう? なら、良かった! それにしてもレイちゃん、自分の仕立て屋さんを持ってるだけあって、本当にお洒落さんだね。そのお洋服、とっても似合っていて、すっごく可愛いよ!」

「え……えっと、そう、かな……? あ、ありがとう……その、えっと……」

「リンデでいいよ、レイちゃん。お手紙の中でもそう呼んでくれていたでしょ?」

「う、うん。リンデ。それで、その……」

「あぁ、心配しないで。今日は私がレイちゃんを色々と案内してあげるから。でも手荷物とか持ったままじゃ移動がしづらいだろうし、まずは私のお屋敷まで付き合ってもらってもいいかな? ついでにレイちゃんのお部屋も紹介するね」

「あ、うん。よろしく、お願いします……」


 それからリンデが手配した辻馬車に乗って、彼女のお屋敷があるエルゲンハイム郊外に移動した私は、思っていたよりも遥かに豪壮なその門構えを見て、リンデもシャルやメルと同じで、名高い家に生まれたお嬢様なのだなと改めてそう感じた。


 実際、メルやリゼが通っていた魔術学院、ローゼン・アルカディアンの学長のお孫さんなのだから、こんな豪奢な屋敷に住んでいても全くおかしいことはなかった。


「レイちゃん、今はずっと侯爵様の別邸に住んでいるんだよね? うちはそれに比べればずっと手狭だと思うけれど、少しの間だけ我慢してね」

「手狭なんてそんな……私はただ、あそこには厚意で住まわせてもらっているだけだから……私が小さい頃に住んでた家なんて、片手で数えられるぐらいの歩数で家の中を往復できるぐらいだったもの」

「……ごめんなさい、レイちゃん。私ったら、ほんっとうに無神経で。きっと今、レイちゃんにとって、ものすごく嫌味なことを言っちゃったよね……私」

「ふふ。そんなの全然気にしなくていいよ、リンデ。悪意がない言葉だったって、すぐに分かったもの。それより、今日はどんなところに連れて行ってくれるの?」

「あ……うん! えっとね……」


 リンデは私が楽しい一時を過ごせるようにと、色々考えてくれたらしく、私がこのロイゲンベルクに滞在予定である一週間の間に、繁華街や彼女たちの学び舎も含め、その他様々な名所に私を案内するつもりのようだった。


 そして間もなく広々とした客室へと通された私は、実に豪華な調度品の数々に圧倒されながらも一旦其処に手荷物を置き、さらに自分で予め用意していたリンデへの贈り物をその場で彼女に手渡すことにした。


「リンデ、えっとこれ……私から」

「まぁ……! 私に贈り物を用意してくれていたの? レイちゃん、ありがとう! ねぇ、今ここで中を開けてみても構わないかしら?」

「う、うん。もちろん……」

「じゃあ早速開けてみるね! ……わぁ、これって……!」

「うん、私が原型をおこして一から創ってみたお洋服だよ。前に一度会った時に私とほとんど同じ体格だなって思ったから、大体の寸法は掴めていたの。気に入ってくれると嬉しいんだけれど……」

「ふふっ。こんなに心から嬉しいことって、一体いつ振りぐらいかな……本当に素敵な贈り物をどうもありがとう、レイちゃん……私、早速着替えてくるね!」

「ええっ? 早速って……行っちゃった」


 それからややあって再び姿を現したリンデは、私の目の前にまで歩み寄ったあと、芳しい香りを周囲に漂わせながら華麗にくるりと一回転してみせ、一際美しい輝きに満ちた淡い紅紫べにむらさきの瞳で私を見つめながら、その艶やかな唇を開いた。


「……どう、かな? 私、ちゃんと上手く着こなせているかな?」

「うん、とてもよく似合っているよ、リンデ!」

「本当? ふふふっ、レイちゃんにそう言ってもらえたのなら絶対間違いないね!」


 それは、リンデが煌かせる仄かな菖蒲色あやめいろの輝きを湛えた長い髪に調和するように、白を基調として要所に薄らとした桜色と濃い桃色とをそれぞれ配し、さらにくどくならない程度にレースやフリル、そしてリボンなどといった装飾をあしらった、この私が彼女のためだけに創った世界で一着だけのお洋服。


 それ故に贈ったリンデに気に入ってもらえたなら、私自身もそれ以上に嬉しいことはなかった。


「けど、こんな素敵なお洋服をたった一人で作っちゃうだなんて……レイちゃんはきっと、本物の魔法使いだよ。どんなすごい魔現や魔導を使ったって、レイちゃんの魔法には遠く及ばないもの。私、このお洋服、ずっと大事にするからね……」

「そ、そんな魔法だなんて、いくら何でも誉め過ぎだってば……でも、リンデにそこまで喜んでもらえたのなら、何よりだよ」

「それじゃあ今日はこのお洋服を着て、レイちゃんと一緒に街を見て回ろうかな。いいでしょ? レイちゃん」

「ふふ。もちろん」


 それから私たちは、最寄りの駅前まで再び馬車を利用して移動したのち、そこからは徒歩に切り替えて、近くの繁華街を見て回ることになった。

 最初に訪れたビーネン通りはパン屋さんや色々なお菓子を売っているお店などがとても多く、立ち歩きしながら食べられそうなものも数多く見受けられた。


「へぇ、ここの通りは食べ物を売っているお店が多くあるんだね」

「あぁ、この辺りは昔からパン屋さんの激戦区みたいでね。それに今あるお菓子の多くもここから発祥したらしいわ。学生の頃はここをよく通っていたのよ」

「そうなんだ。リゼとかエフェスがいたらあちこちに立ち寄ってそう……」

「あ、リゼって、メルの隣にいつも居たあのリゼでしょ? あの子、本当に食べることが好きみたいで、私もよく一緒にケーキの食べ放題とかに誘われたわ。何処に入ったか分からないって勢いで食べるものだから驚いたけれどね。そうだ、レイちゃんも何か食べる? 目についたもので良さそうなのがあったら教えて!」

「うぅんと……それじゃあ、あそこで売っているクレープなんて、どうかな。向こうでも好きでよくメルたちと食べていたんだけど」

「あっ、いいよねクレープ! 私も大好き。お家でもクレープと似ていて、少し生地が厚めのパラチンケンっていうものをよく食べているよ。それじゃ、あのクレープ屋さんに行こっか!」


 そうして私が、苺とブルーベリーに同じベリー系のソースがふんだんに掛けられたものを、一方リンデはバナナを主な具材としてそこにチョコレートソースがたっぷりと加えられたクレープをそれぞれ注文した後、そこから二人で少し移動して、遠くの街並みを一望出来る高台へと辿り着いた。


「わぁ……とっても見晴らしのいいところだね、リンデ」

「でしょ? ここは私のお気に入りの場所の一つなの。嫌なことがあった時もよくここに来てね、風の声を聞きながら街を眺めていると気持ちが落ち着いたんだ」

「そう、なんだ……でも、そういう場所って大事、だよね。私が生きてきた時間なんてそんなには長くないけど、それでもこれまで本当に色々とあったから……」

「うん。私、学生の頃は結構人の気持ちも深く考えずに、自分の思ったことをぽろっと口に出しちゃうことが多くってね……まぁその癖は今でもまだ時々顔を出しちゃうんだけど、自分と意見が合わない人とは本当に大きく衝突しちゃうこともあって。あのメルともよく喧嘩したんだ。当時はメルがお母様とお兄様の命を妖魔に奪われた過去があるだなんて知らなくって、色々と酷いことも言っちゃってね。きっと当時のメルをいっぱい傷つけたと思うんだ」

「うん……その話はメルからも聞いたことがあるよ。けど、私がメルたちの旅に同行する前に、この人に会えばきっとあなたの力になってくれるって、彼女がとある人の居場所を教えてくれたことがあって。その時に私は初めて、リンデの名前を知ったんだよ。いつも人に忌み嫌われている妖魔のことを、相手の立場になってとてもよく考えている、本当に心の優しい人だって」

「メルがそんなことを……? だとしたら、次にあの子と会った時には、その時のことも含めてちゃんとお話しないとね……って、ごめんごめん。せっかくのお散歩なのに私のせいでちょっとしんみりしちゃったよね。さっき買ったクレープを食べてほわほわした気分にならなくっちゃ……はむ」

「それじゃあ私も……はむ」


 たった一口頬張るだけで、柔らかい生地の中から、甘くて柔らかい生クリームがふんわりと口の中いっぱいに広がり、苺やベリーが運んできた爽やかで心地よい甘酸っぱさと手を繋いで一緒に踊りながら、心の中に鮮やかな色を次々と描き出していくのが判って、私と目の前に居るリンデの顔も一度にぱっと明るくなっていった。


「うぅん、やっぱりおいしいなぁ……甘いもの食べると、とっても幸せな気分になれるよね!」

「うん、その気持ちとっても良く分かるよ。ところで、あの遠くに見えるのは教会……なのかな? ここから見てもはっきり判るくらい大きい建物だけれど」

「あぁ、ボルゲンシャイト大聖堂のことだね。良かったらこれから二人で一緒に行ってみる? 中にあるステンドグラスがとっても綺麗なんだよ」

「へぇ、ステンドグラスが……ぜひ行ってみたいな。案内、頼んでもいい?」

「もっちろん。でもその前に……レイちゃん、クレープの食べ比べっこしよ?」

「えっ、食べ比べって、私のをリンデに?」

「そうそう。代わりにレイちゃんには私のクレープを食べさせてあげる! ね、いいでしょ?」

「う、うん。それじゃまず私から行こうかな……じゃあえっと、はい」

「あぁん……はむっ……うぅん、こっちは良い感じで甘酸っぱくってとっても美味しいね! ふふっ、じゃあ次はレイちゃんの番だよ。ほら、あぁんってして?」

「う……あ、あぁん……はむ」

「……どう?」

「うん、これもすっごく美味しいね。とろっとしたバナナが生クリームと絡んでいて、そこにさらにチョコレートの味わいが加わって、深みが出る感じ!」

「あはは、さっすがレイちゃん。分かってるね! じゃ、一緒に食べながら行こっか。それと何なら……空いてるほうの手、繋いだりする? そっちの方がより友だちっぽくって良くないかな?」

「手を……? リンデが良いなら、やってみたいかな……」

「ふふふっ、じゃあそうしよう!」


 そうして私は片方の手には甘いクレープを、もう片方の手はリンデの温かい手と繋がり合った状態で一緒に歩き始め、彼女の案内でここから少し遠方に見えるボルゲンシャイト大聖堂へと向かうことになった。

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