魅瑠とお昼~朝のことの報告~

 案の定、暦が過去一番に機嫌が悪いんだけど、というメールが瓜谷と魅瑠から来た。


 瓜谷には、


『改めて朝別々に登校しようって言って色々と言い争った。そのときに暦が入学式の前から久留島のことを知っていたことを瓜谷から聞いたと話してしまった。ごめん』


 と説明と謝罪して、魅瑠には瓜谷にした説明に加えて


『久留島となにかあったんだろって訊かれて、暦には関係ないからって突っぱねた』


 と送った。


 瓜谷は『気にしなくていいから』と返してもらい、魅瑠は『そりゃこよみん怒るねぇ。あ、昼休みは魅瑠だけで行くことになったんだけど、いいかな?』と返信をもらった。


 正直暦とは気まずくて顔を合わせたくないし、ちょうど魅瑠に相談したいこともある。

 それで了解の返事をした。


「なるほど~。それは、約束破ったこよみんも悪いねぇ」


 と、卵焼きを頬張りながら魅瑠が頷く。

 昼休み、言葉通りに魅瑠だけ社会科準備室に来た。

 お弁当を食べながら、今朝のことを事細かく伝えての反応だった。


「まあ、さっくんの言い方も悪いけど、間違ってはいないって魅瑠は思うな~」

「だってきっぱりと言わないと、暦が押してきそうで」

「たしかにマイルドな言い方をしたら、なんだかんだで手出そうとしそうだねぇ」

「だろ? 突き放したほうが、暦のためになると思ったんだけど……迷惑かけてごめん」

「だーいじょうぶ! ほとんどあかりんが対応したから!」

「そ、そうか」


 今度瓜谷になにか奢らないと、と思いながら味のしないおかずを少しずつ口に運んでいく。


 もしかしたら四組全体に迷惑をかけたかもしれない考えると、申し訳ない気持ちが込み上がってきて、箸がさらに遅くなる。


「でも、こよみんが久留島くんのこと知っているのは意外だったなぁ。親の仇を見るような目で睨んでいたのってそういうことだったのかな?」

「親の仇って、そんなに酷かったのか?」

「うん」

「オレの前では、そういう目をしてなかったんだけど……」


 記憶を掘り返しても、咲夜の前では敵視している様子ではあったが、親の仇を見る目は見たことなかったはずだ。


「さっくんの前では、出さないように気をつけていたんだよ~。あれだね、子供の前では見せたくない大人の事情を出さないようにしている親の心境というかぁ」

「オレは暦の子供じゃないぞ」

「でも一番近い心理はそれじゃない?」

「まあ……そうだけど」


 完全否定はできなかったので渋々肯定した。


「こよみんの親戚のことについては分からないから置いといて、久留島くんのほうはこよみんのことは知らないって感じだったんだよねぇ?」

「久留島は心当たりがないって言っていた」

「ますます分からないねぇ。まあ、久留島くんが忘れているだけかもしれないけどぉ」

「可能性は大いにあるな」


 取り巻き達の名前を覚えていないくらいに他人に無関心な久留島のことだから、その可能性は高い。


「だとすると、久留島が忘れるくらいの些細なことだけど、暦が恨むほどの出来事ってなんだろうな?」

「ぱっと思いつくのって告白くらいだよねぇ。でも、あのこよみんが久留島くんに告白するのは絶対にないね」

「それは天地ひっくり返ってもないな」


 力強く同意する。彼みたいなタイプの男を元々嫌う傾向のある暦に有り得ないことだ。


「なら、仲の良い友達が久留島くんのことが好きでぇ、酷い振られ方して傷付いているところを見たとかぁ?」

「有り得る話だけど、その仲の良い友達に心当たりがないな」


 咲夜が転校した時点では、暦も仲の良い友達がいたが、その友達も今や疎遠となっている。


 疎遠になってもなお、久留島のことを恨むくらいの仲の良かった友達はそもそも今でも交流が続いているはずだ。


 友達が転校した、という話も聞いたことがない。ただ話していないだけかもしれないが。


「まあ、これに関しては情報がないから考えても分からないしぃ。考えるのやめよっか」

「あっさりしているな」

「切り替えが早いだけですぅ。それで、こよみんのことはどうするの~?」

「まあ、放置するよ」

「謝らないんだぁ」

「謝ったら意味ないだろ。また朝一緒に登校しようとする」

「たしかにそうだ」


 あっさりと納得し、魅瑠はおかずである唐揚げを頬張る。


 暦は魅瑠のことを逞しい子で瓜谷のことをサバサバした子と評したが、相談事になると魅瑠のほうがサバサバしていると感じる。


 まるで線引きが見えているかのように、あまり深堀しないでほしいと思うことはしつこく訊いてこず、考えても分からないときは、あっさりと引いてくれる。


 かと言って興味がなさそう、でもなく、むしろ親身になって聞いてくれる。


(番関係かって訊いたのは踏み込みすぎていたけど、まあ結果こうしてほぼ話せる相手になったし……)


 話が合うだろうか、と初対面のときは不安だったが、こんなに話しやすい相手になるとは。


 感慨深く思いながら、水筒の麦茶を口に含んだときだった。


「ところで久留島くんとどうなりたいか決めったぁ?」

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