月曜日の朝①

 月曜日。教室に入ると、遠巻きにされた。この腫れ物のような空気には少し慣れたが、やはり居心地が悪い。


 周りを見ず、とっとと自分の席に座った。周りの雑音が煩くて、音楽を聴こうとヘッドホンに手を掛けたそのとき。



「咲夜くーん」



 あの声に呼ばれた。頭痛に侵されながらも、咲夜は顔を上げた。


 やはり、久留島類がいた。顔を顰めながら、久留島類を見やるが、久留島類は気にする素振りなくにっこりと笑った。



「おはよう」


「はぁ……」



 話しかけられたと思ったら、挨拶。胡乱に首を傾げていると、久留島類が言い募った。



「ほら、挨拶したんだから返さないといけないよ?」



 なんだそれ。意味が分からない。


 だが、彼が有無を言わせない黒い笑みを浮かべているような気がして、咲夜はたじろぎながら返事をした。



「お、おはよう……?」


「はい、よくできました」



 久留島類が満足げに頷いた途端、クラスがざわめいた。

 煩わしくて、さらに顔を顰める。



「おい、どういうつもりだ」


「どういうつもりって?」



 わざとらしい仕草で、きょとんと首を傾げる久留島類に絶句する。



(コイツ、ワザとか……!)



 αとΩが会話するなんて、悪目立ちするのに決まっている。変に勘繰ってくる輩がいないとは限らないのに。


 どうして、堂々と話しかけてきたのだ。



「言ったじゃないか。また月曜日って」



 悪びれも無く言いのける久留島類に、こめかみを押さえた。ただでさえ、彼と話すだけで頭痛がするのに、別の意味で頭痛が酷くなりそうだ。



「あれ? また頭が痛いの?」


「誰のせいだよ、誰の……!」


「さぁ? 誰のせいだろうね?」



 自分が一因だと気付いているのか、面白そうに咲夜を眺める久留島類に本気の殺意が芽生えそうだった。



(薄々感づいていたけど、コイツ、性格悪い)



 深く嘆息して、絞り出した声音で懇願する。



「頭痛いから、そっとしてくれ……」


「大丈夫かい? 保健室に連れて行ってあげようか?」


「余計なお世話だ」


「つまり、大したことじゃないんだね?」


「悪化しそうだから、話しかけないでくれ……」


「えー」



 唇と尖らせ文句を垂れられ、舌打ちしそうになるのを堪える。


 もうコイツと話したくない。それなのに、前の席に座って居座ろうとする久留島類。


 ああ、そうえいば今日の占いは最下位だったなぁ、とどうでもいいことを思い出した。


 咲夜は彼を睨めつけたが、彼はどこと吹く風のごとく笑っている。



「座るな。ほら、女子たちがお前を見ているぞ」


「えー。面倒くさい」


「面倒臭がるな」



 自分のことを棚に上げているが、この際どうでもいい。それよりもこの男を、退場させることを考えないといけない。



「いいじゃない。ここの席の子が来たらどくから」


「……」



 たしかに前の席である男子生徒はまだ来ていないが、来るまで居座る気か。

 咲夜は脱力して、顔を机に埋めた。



「あ~……もう、何の用だよ……オレがお前のこと覚えていないこと、根に持っているのか」


「そこは仕方ないじゃない? 事故だし」



 そうだけど、と心の中で呟く。根に持たれてもどうしていいか分からない。なにせ、全部が自分のせいではないのだから。



「でも、まぁ」



 咲夜の机に肘をついて、頬付いた久留島類が意味ありげに呟く。



「それと感情は違うよね」



 咲夜は胡乱げに顔を上げる。



「なんだよ。やっぱり根に持っているってことかよ」


「さぁ?」



 首を傾げ、口の端を吊り上げる久留島類。感情が読み取れない。



(友達じゃなかったのに、なんで根に持っているんだ? あれか? やっぱり忘れられたことがないからか?)



 ますます分からない。彼のことを理解したいと一欠片も思わないが、真意は知りたい。真意を知ったら、心持ちを楽にできるかもしれない。


 だからといって、素直に言わなさそうな感じがするが。



「お前は」


「ん?」


「オレに思い出してほしいのか?」

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