第411話

『落ちろ』


 振り下ろされた剣にはこれまで以上にモンテロッサの発する光の力が込められており、低出力ではあるものの超スピード状態ということも相まってその破壊力はちょっと想像したくない。


 間一髪のところで奇襲に気がついたのか、始まりの勇者は攻撃と体の間に剣を滑り込ませることに成功したみたいだが、空中では踏ん張ることも、攻撃をいなすこともできず、そのまま地面に叩きつけられた。

  

 うわお。まじかよ今一瞬浮いたよね!? 地震とかそんなレベルじゃねえよこれ絶対浮いたわどんな威力だよ。


『―――ぬっ!?』


 振り下ろした姿勢だったモンテロッサが小首を傾げる。 

 なにかと思い、視線を剣先にスライドさせていくとモンテロッサの剣が小刻みに震えていることがわかった。


 おいおいおいおいマジですかまじかよマジなんですか。


「――――はぁぁぁぁああ!」


『グワッ!!!』

  

 剣を振り下ろした体勢だったモンテロッサの体が大きくのけぞる。

 

「ぐっ……」

 

 あの姿勢から直撃を食らってもこれしかダメージを与えられないのかよ。 

 しかもあのモンテロッサに押し勝つ膂力ももはや意味がわからない。


 わからないが―――


「がら空きだぜ」


「―――っ!?」

 

 この状況で腕を飛ばしても対して効果はない。なので、攻撃役がいる今の状態であれば狙いは足。 

 機動力を削ぐことができればすでに体勢を立て直してるモンテロッサの攻撃が入る。

 足首ほどの高さで振るわれた一撃。 

 始まりの勇者は持ち前の反応速度で剣を地面に突き立てるように防御しようと動き始めるが、それと同時にモンテロッサの大槌がその影を落とした。


「う、ぉぉおおおおお!!!」


 始まりの勇者は即座に加護を凝縮した剣をもう一本作り出し、片手でモンテロッサの振り下ろし、もう片方の手で俺の攻撃の対処に動き始めた。


 ―――それが最悪手だ。


 俺の攻撃の進行方向を遮るように降ろされる剣。

 その剣がギリギリ、かろうじて間に合うかというタイミングで俺の攻撃は遮られるだろう。

 普通であればな。

 

「爆」


 剣に搭載された剣速に爆発の推進力を上乗せする機構。

 それが弾けると同時に急加速する剣速。振り下ろされる剣をかいくぐるようにすり抜け、始まりの勇者の両足を刈り取る。


「―――なっ!?」


 驚くのも一瞬。こちらに視線を移した瞬間、モンテロッサの顔がいやらしくニヤけた。


『この我相手によそ見とは!』


 にやにやと。手に持つ数多の武具を、無防備をさらした始まりの勇者に振り下ろす。

 激しい衝撃と同時に、地震なんてちゃちな揺れ方ではなく、ロデオマシーンの上に立っているかのようなもはや揺れるなんて概念を飛び越えてしまいそうな衝撃が連続して起こる。


 合計8つの腕から繰り出される連続攻撃に、衝撃の中心地からはくぐもった声がかすかに聞こえる。

 が、しかし。

 

 次第に低い打撃音に混ざるように金属同士のぶつかり合うような甲高い音が混ざっていき、次第にその割合は高まっていく。


 嫌味な笑みを浮かべていたモンテロッサの顔から完全に笑みが消え去った頃、それは起こった。


『ディバイン、ブレイバー!!!!』


 先ほどとは異なり、横薙ぎに振るわれた光の刃。 

 俺はかろうじて攻撃範囲外にいたためダメージはないのだが、モンテロッサはそうではなかった。

 今の攻撃が直撃し、半身が消し飛んでしまっていた。


『ぐぅう……』


 普段のモンテロッサであればすぐに体を回復させ、攻撃を再開しているところだが、ノストガウリエラとの戦闘での消耗が激しいのか、数歩たたらをふみながら後退してしまった。

 さすがにこのまま見てるだけを決め込むこともできないため、追撃のために動き出す始まりの勇者とモンテロッサの間に滑り込み、足止めがてら空雷を展開。

 更に足元には沼を展開しつつ迎撃体制を取る。


「申し訳ないけど、君の技はすべて見切っている!」


 牽制に投げたナイフが弾かれると同時に、本来視認できないはずの空雷を斬り伏せ、泥沼化した地面に剣を叩きつけることで吹き飛ばす。


 そのまま勢いを殺すことはなく、俺に向かって最短距離で距離を詰めてくる始まりの勇者。

 

 俺の攻撃が完全に見切られ、その対処も手堅くされてしまう。

 完全に俺はこの戦いで戦力外になってしまっていた。


 ――――という油断を待っていたのだ。


「複合整型、二十四芒星結界」


 無駄だとわかりきった上で投げ続けたナイフ。

 弾かれる場所、角度、距離すべてを計算しながら投げ続けた。

 その結果生み出された結界。


「何―――」


 俺の眼前で動きを止める始まりの勇者の刃。

 この結界は対象の力を使い展開される結界であり、攻撃の6割の力を吸収し、防御に変換する権能を持つ。

 準備に膨大な時間がかかり、最大有効範囲が限られる結界のため古代種相手にはなかなか使用することができない。

 

 しかし、今回の相手のサイズは人間。更にモンテロッサの連撃によって地形が変化してしまう程の攻撃の後だからこそこれほどの仕掛けが残っていることは考慮から消えていたのだろう。

 だからこそ、陣を複合することでようやく起動する事ができた陣術結界の一つの到達点。

 しかし、いままで存在した技術でこの怪物をとどめておくことは不可能に近い。

 だからこそもうひと手間。過去最高の陣術を、更に高みに叩き上げる。


 今まで使っていた簡易式。威力よりも速射性を優先した結果のものだったが、しかし今回はそうではない。

 鈍色の巨人の腕を切り落とした熱線。あのように完全詠唱の起動式を経てこの陣を叩き上げる。


「光は闇を生み、闇は火を際立たせ、火は灰を作り、土は金を孕み、金から水が湧き、水が木を育み、木は雷を呼び、雷は光をもたらす」


 本来五行に存在しない光、闇、雷。これを追加することにより、五行ではなし得なかった強力無比な陣術の強化を可能にした。


「流転し、輪転し、顕現せよ――――八業:円」


 俺の構築した二十四芒星が始まりの勇者を中心に回転をはじめる。

 その回転に危機感を感じたのか、始まりの勇者は一層の激しさを持って抵抗を行うが、もう手遅れだ。


 

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無能勇者の異世界浪漫遊譚 不可説ハジメ @abcabcabc

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