第409話 ダックスってダックスフントなんだ。憤怒かと思ってた

 ようやく与えたダメージも、これまで必死に削ってきたメンタルも、そのすべてがリセットされる理不尽の権化"覚醒"。

 全状態異常解除、HPMP全回復、全ステータス大幅アップ。これが覚醒の糞仕様だ。

 しかもそれが、人類の歴史上もっとも強い存在.....いや、世界の歴史の中でも頭一つ抜けてる怪物の中の怪物。

 歴史上最悪の怪物、神代の支配者だった神の王ノストガウリエラを打ち取った最強の人類。そんな男が覚醒したとなればもうどんな存在であろうと立ち向かうことさえ諦めるような、そんな絶望だろう。


 ちらりと覚醒中の勇者の奥に視線を送る。

 どうやら向こうもあまりいい状態ではないらしい。

 

 というかさ、そもそもタイマンとか俺苦手なんだよね。こちとら大勢のうしろからやいのやいのいってる感じの少年Dくらいの立ち位置なわけですよ。

 正々堂々とか、一対一とか、騎士道精神とか、そういうものから最も縁遠い存在なわけですよ。 

 

 向こうが先に卑怯なことしてきたんだからこっちだって卑怯してやろうじゃねえか。あぁやってやるね。この俺に卑怯で挑んで勝てると本気で思っているのであれば、その鼻っ柱へし折ってバルーンアートみたいにしてダックスフントみたいにしてやろうじゃねえか。

 

「奴さんどんな感じよ」


『基礎能力がすべて我以上であるな。こざかしい攻撃などがない分、基本性能の差でごり押されておる』


「君的には初めて戦うタイプってことか」


『然り。そして、ユーリの最も得意なタイプであろう? 頭が悪く、体のスペックだけが高い敵というのは』


「よくご存じで」


 おそらくわざと攻撃を食らて吹き飛んできたモンテロッサと情報交換を行いつつ、古代種の闇鍋みたいな姿になっているノストガウリエラに向け閃光灯を投げる。

 それを見た瞬間モンテロッサの口から「うげっ」と聞こえたが気にしない。


「―――私を忘れてもらっては困る」

  

 しかし、俺の投げた閃光灯は勇者によりきれいさっぱり処理され――なかった。


「何を―――」


 突如眼前に現れた勇者に対し、ノストガウリエラが攻撃を仕掛けたのだ。

 普通は厄介な攻撃を無力化すると思うが、しかし今のノストガウリエラは正気ではない。

 自分以外のすべてを敵とみなしているのだろう。

 最初にあいつから感じた尊大さや傲慢さがきれいさっぱり失われている。

 

「ァァァァァァァッァァアアア!!!!!」


 視界を焼かれ、苦しみに悶えるノストガウリエラ。

 地面にたたきつけられた影響で怪我の功名的に閃光灯の被害から免れた勇者だったが、立ち上がろうとしてついた手の横にころころと、先ほどの閃光灯に似た見た目のモノが転がっていることに気が付き、その瞬間勇者の顔から一気に血の気が引いていくのが分かった。 

 もう安全に処理することは不可能と理解したのか、目を閉じ、閃光灯と眼球の間に手を入れようとした瞬間、ついにそれが炸裂した。


「―――がっ!?」


 奪われたのは視覚ではなく、聴覚。

 耳から血を吹き出し、三半規管が破壊されたことで上下の間隔を失い、再び地面に突っ伏す勇者。 

 その勇者に影が落ちる。

 

『くははっ!』


 甲冑みたいな顔のくせにサングラス&耳栓というくそ間抜けな格好をしたモンテロッサが手にした武具を一斉に勇者に向け叩きつける。

 対して俺も馬鹿みたいに暴れているノストガウリエラの懐に入り、取り合えず神剣で何度かぶすぶすと刺しながら、体中に張り付いてるバカみたいな顔してる連中のお口に古代種用の爆弾を押し込んでいく。

 顔って言っても人間から比べるとバカでかいから樽の2.3個は簡単に入ってしまうのだよ。


 ノストガウリエラがもぞもぞしている間に業炎陣にて着火。

 ノストガウリエラの下半身が見事に吹き飛ぶほどの破壊力って思ったけど、コイツ再生にステータス振ってるだけなタイプだわ。速攻で足生えてきやがった。


 先に視界を取り戻した勇者がモンテロッサの檄をかちあげ、モンテロッサの上半身が大きくのけぞる。

 というかこの体格差で力負けしないってどんな超生物だよと思いながらも、モンテロッサに追撃を加えようとする勇者の前に滑り込み、振り上げた剣が振り下ろされる前に一撃を見舞う。


「くっ! 2対1ということか!」


 悔しそうにそんなことを言いながら攻撃の対象を俺に変更しようとした瞬間、モンテロッサの大槌によって勇者は横っ面を殴られ、そのまま彼方に吹き飛んでいった。

 

「あぶねえな俺にまであたりそうだったじゃねえか」


『避けるそぶりもしておらんくせによく言いおるわ』


「お前がミスればどうせ死ぬんだから無駄にあがかねえだけだっての。んなことより、さっさとあっちをどうにかしちまうか」


『うむ......? おぬしあの剣.......まさか!』


「そうそう、置いてきちゃった」


『くはははははは! 本当に貴様という男は! 唯一あの神を滅ぼすことのできる道具を、まさか自分から手放すとはなんと豪胆な!』




 

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