第408話
「おや、かくれんぼはもうおしまいでいいのかい?」
「もう隠れても意味ないだろ、嫌味かてめえ」
「いや、そういうつもりではなかったんだ、不快な気持ちにしてしまったのなら謝るよ。ごめん」
戦いの最中だというのに、この男は俺から視線を切り、頭を下げた。
その隙にナイフを投擲、さらにワイヤーで仕掛けを起動させ、完全に死角になっているところから閃光灯と臭い袋が投擲される。
「―――それはもう、効かない」
注意をこちらに向けさせるためのナイフだったが、すでに威力を把握されており、やつはマントに加護を纏わせるだけでナイフをはじいて見せた。
さらに完全に死角から投擲された閃光灯と臭い袋も、本体に剣を触れさせることなくすべて空間のはざまに落として対処して見せた。
それまでの一連の動作が完了すると同時に、瞬間移動のような速さで俺の前に現れ、引き絞られた腕を前に突き出してくる。
「申し訳ないが、そろそろ終わらせよう」
眼前に迫る掌底。本来殺傷能力は高くないはずの掌底だが、しかしこの勇者の掌底であれば話は別だ。
すでに眼前に迫ってきている掌底に、普段の俺であれば成すすべなく攻撃を食らっていたであろうタイミング。
しかし、今はそれでいい。
脱力とともに、突き出された腕をからめとり、そのまま腰を取る。
突きの威力がそのままベクトルを変え、下方向への推進力に代わる。
「どっせい」
一本背負い、モドキ。
なぜモドキなのかと言えば、答えは簡単。
理想的な力の運用ではなく、非流動的な力の転換を意図して行うことで、相手のひじ関節を破壊し、そのまま地面に投げ捨てる現代柔道でやれば帯で首を吊れと言われるような最悪の投げ方。
さすがにこれには地面に転がされた勇者も一瞬顔を歪めるが、すぐに腕を回復させつつ、反対の手に握られた剣を足首くらいの高さで振るってくる。
当然そんな悪あがきがまともに通るわけもなく、やつの頭を踏み台に、俺はその場を離脱。
頭部を押され、空間の収縮に頭から突っ込んだ勇者のくぐもった悲鳴が聞こえた。
普段加護で守られているはずの頭部から大量に血を流している勇者。
本来自分の攻撃で怪我を負うようなことはないのだが、そもそも俺がただ頭を分絵ジャンプするだけなんて無駄なことをするはずがない。
アーティファクト"世界の空席"このアーティファクトは一瞬だけそのものの加護を無効化することができる。
しかし、そもそも一瞬だけ加護がなくなろうとも大抵の加護が多いやつってのは戻ってきた加護で回復できるので、古代文明でもあまり流行らず廃れたアーティファクトだ。
しかも加護を増やす神剣との相性は最悪で、今まで死蔵してたが、ようやく日の目を浴びる時が来たと言いつつ、使い捨てなのでもう出番は二度と来ないと思うとさみしいようなどうでもいいような気持になってしまうこともない。
「頭吹っ飛ばしておいて申し訳ないけど、せっかくなので畳みかけさせてもらいますよっと」
再びの古代種用の爆弾と合わせ、オマケを降らせる。
爆風の中で勇者がぼろぼろの成りになりながらも土煙の中から飛び出した直後、頭上から直径25メートルという頭の悪さむき出しの刀身を持った超特大剣が降ってくる。
「これは――――」
「巨人の剣だよ希望の旗さん」
ユゥリィルム。巨人の言葉で“希望の旗”と言う意味を持つその名前。
龍の神リンドブルム率いる龍軍との戦いに敗れ、この世界から姿を消したとされる巨人。
それまで神々と対をなす存在とされていた彼らだが、しかし序列4位、龍の古代種リンドブルムと、その配下の龍が相手では分が悪いというものだ。
彼ら序列1桁の神を名乗る獣たちは、本当の神を無数に屠りその存在を簒奪した怪物の中の怪物なのだから。
しかし、そんな彼ら巨人の作り上げた文明は非常に高度なもので、神を名乗る獣の時代が終焉を迎えたのち、天使と悪魔の対戦で人類の生存に大きくかかわったのがこの巨人の技術だ。
多くのアーティファクトはこの時代に設計、製造されていたとされており、俗にいえば人類の最盛期ともいえる。
そんな人類繁栄の礎を築いた巨人。その巨人が作り上げた4つの至宝の一つ"龍狩り"シリーズ。
「ぐううう――――がはッ!!」
バランスを崩した状態で、まともに準備もできず垂直落下する超巨大な金属の塊はそれだけで強大な暴力である。
さすがの勇者も的確にさばくことはできず、その巨大すぎる刀身が体をかすめてしまい、鮮血が飛び散る。
ダメもとでもう一押し、そう思って足を踏み出そうとした直後、龍狩りの落下で再び土煙に隠れていた勇者を中心に、光の柱が伸びた。
おいおい、冗談は存在だけにしてくれよ。
これだけの力の差があって、手札を切りまくってようやくまともにダメージが通ったってのに、このタイミングでまさか"覚醒"かよ。そりゃないぜマジで。
どんだけ世界に愛されてるんだよ。
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