第407話
(カウンターも効かない、神剣の攻撃も大してダメージが通っているように思えない。こりゃ参ったね八方ふさがりだわ)
そんなことを思いながら振り抜かれた一閃を回避する。
途端にねじ切られた空間が元の形に戻ろうと収縮をはじめ、爆発のように周囲を飲み込んだ。
あと数舜後退のタイミングが遅れていればおそらく俺は死んでいただろう。
そんなことはチンパンジーが卵から生まれない事よりもわかりきっている。
「本当に不思議でならない。どうしてそこまでして諦めないのか。どうしてそこまでして食らいつくのか。私の知っている人間という種はそこまで強くはなかったはずだよ」
そう言いながら追撃を仕掛けてくる始まりの勇者。
今度はどうにも連続攻撃が来てしまうようで、その対処は困難を極める。
一撃を紙一重で回避しようものなら件の空間収縮に巻き込まれて即あの世逝きだ。
かと言って大きく回避してさばききれるほど甘い攻撃など一度もなかった。
ではどうするか、簡単だ。連撃はさせない。止めてしまえばいいのだ。
「―――グッ」
「お前の時代にはなかったおもちゃだろ? どうだ網膜をぶっ壊すほどの光量は」
「これ、は、なかなかぐっ......」
戦場のど真ん中で目を覆い膝をつくバカがいたらそりゃ剣でどつきますわ。
俺に刺された瞬間、正確には刃が始まりの勇者の服を切り裂き、やつの肌を傷つけた瞬間に目の前を刃が通過した。
どんな反応速度とハンドスピードしてんだよと。これがゲームなら確実にクレーム物ですわ。
退避ついでに気持ち程度にキルキスにも効くレベルの毒をぬったナイフを三本投擲しつつ、先頭によって生み出された瓦礫の中に滑り込んで身を隠す。
あいつは今かなりの余裕をもって俺と戦っている。
だからこそ深追いもしてこないが、逆に警戒されているともとれる。
薬屋の対処はキルキスとマッカランがどうにか頑張ってくれているところだが、この勇者にやられたダメージがあまりにも深刻すぎて長くは持たないだろう。
「かくれんぼ、だったかな。私の幼馴染の子もよくみんなとやっていてね、私はいつもそれを遠くから見ていたんだ。本当なら私も彼らとともに遊んでみたかったんだけどね、私は、化け物だったから」
「安心しなよナイスガイ。お前も死んだらただのたんぱく質の塊だ。さっさとぶっ殺してタンパク質どもの仲間に入れてやるよ」
いまだに視界が戻っていないであろう始まりの勇者が周囲を警戒しながら俺の声がした方向に進んでいく。
しかし、そこは陣術の地雷原だ。
奴の足が陣に触れた瞬間、周囲一帯を巻き込んで特大の爆発が巻き起こる。
地面が揺れ空気がびりびりと衝撃を伝えてくる、なんてことを考えようと思ったが、奥の方で行われる大怪獣バトルのせいで何も凄みを感じなくなっちまった。
あいつらの戦いはスケールが規格外すぎて怖い。
レーザービームみたいなのが前後左右ありとあらゆるところから飛んできてるのに、モンテロッサの野郎どんどん精密に回避をし始めてやがる。
マジでバケモンだな二度と戦いたくねえ。
「そこっ!」
「おっとハズレだな。残念賞にユーリさん人形あげちゃう」
俺が隠れている岩陰とは別の岩陰に攻撃を仕掛けた始まりの勇者。
それもそのはず、アーティファクトで"位置ずれ"を起こしているからこそ、そこにあるのは本物の俺の気配だ。
目が見えない相手にしか使えない戦法だが、閃光との組み合わせならかなり有用だ。
さらにそこには古代種用の爆弾がたんまりと積んである。
さすがに古代種にもダメージが通る爆撃だ、多少はダメージがないとおじさんないちゃう。
「うぐぅ、がぁ、これ、はきくね.....だけど、見えたよ!」
「うげっ! マジかよ」
苦しみつつ、即座に俺の気配を再度掴んだ始まりの勇者が、その身に宿す膨大な加護を刀身に込めて横薙ぎに剣を振るった。
剣に纏う加護が瞬く間に刀身を形成し、その一撃は50メートルほど離れていた俺のいた瓦礫をいともたやすく切り裂く。
間一髪気配を察知した俺はスーパー無様に地面にヘッドスライディングすることで危うく主人公がジオングになる未来の回避に成功した。
しかしどうしたもんかねこれ。いやいや無理でしょ。
奇策にも限りがあるというかすでにほとんど試し終わってHPの総量的に0.1%くらい削れたかなってレベルなんですけども。
「はぁ、やっぱそうだよな、お前に頼って戦ってたら勝てないよな」
この勇者野郎は加護の総量も技量も桁外れだし身体能力も言わずともがな、今まで出会った化け物の中でも頭一つ飛び出ている。
しかし、そんな誰でも思いつく強さだけで神々と神を簒奪した獣の時代を終焉に導けるはずがないのだ。
この勇者の最もヤバいところは"慣れ"に要する時間。
戦法、奇策、環境、思考に至るまで、未体験のモノにもそれなりに対応できる対応能力と、二回目に関しては看破してくる思考力、観察能力、そして適応力。
それがマジでやばい。
閃光灯で視界が戻るまで一般人で20分、英雄で3分、あのモンテロッサでさえ40秒かかった。
しかし、この勇者は15秒。モンテロッサの半分以下の時間で光に順応し、攻撃を仕掛けてきた。
さらに言えば、実は不発にされたが再度同じ攻撃を試みたが、ねじ切られた空間に飲み込ませ、光があふれることはなかった。
臭い袋もおそらく同じことになるだろう。あいつは俺の投擲物の対処方法で、最適解に近い形にたった一度の経験でたどり着きやがった。
この対処法だと陣を仕込もうがすべて関係なく無力化される。
マジでバケモンだなコイツ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます