第405話
笑顔のモンテロッサと、怒りに顔を歪めるノストガウリエラ。
しかし、次の瞬間にはノストガウリエラの表情は無表情となり、周囲から膨大な加護がノストガウリエラに流れ込む。
ノストガウリエラは人間でいうところの"特異体質"だった。
それはキルキスの特異体質に非常に似ているものだったが、唯一異なるのはキルキスは魔力を周囲から吸収し、ノストガウリエラは加護を周囲から搾取することができる点であった。
古代種は加護によって体を再生する。
つまり、ノストガウリエラは通常の方法では実質的に不死の存在であったのだ。
しかし、ユーリの持つ神剣のような特殊な方法、それか"神を殺すための力を有した武具"でもない限り、ノストガウリエラを倒すことは不可能だった。
だからこそ、絶対に折れず、生物であれば切断できるただの剣では殺すことができず、最初の勇者パーティーはヘネシーを犠牲にせざるを得なかった。
だが、モンテロッサは違う。
モンテロッサこそ、ノストガウリエラを唯一"正攻法"で殺すことが可能な生物だった。
どこかで聞きかじった知識をつなぎ合わせ、その答えに行きついたモンテロッサはあふれ出す加護をものともせず、力の濁流に身を投げ入れた。
『何をするのかわからぬが、ともかく殴るのみよ!』
そういって振り払われた一閃は、かつて最強の国とされていたシュテルクストの精鋭を屠った一撃。
普通の人間がどれほどの時間、どれほどの努力を経てもたどり着くことがかなわない絶望的な威力を秘めた一撃であった。
『―――なんとッ!』
しかし、その一撃は止められた。
ノストガウリエラの光の剣ではなく、ましてやノストガウリエラ自身が何かしたわけでもなく。
ノストガウリエラの足元からあふれるように出現する"古代種"達が命を懸けてその一撃を食い止め、からめとり、モンテロッサはその足を止めさせられた。
『これはちとヤバそうだの』
言うが早いか、モンテロッサが首を横に倒すと同時に、先程の意趣返しとでもいうかのように、モンテロッサの顔面があった場所を光の剣が通過する。
さしずめ光の弾丸のように伸縮する光の剣を構えたノストガウリエラの前方には今もなお生み出され続ける"中途半端な"古代種があふれていた。
こちらの攻撃は防がれ、あちらの攻撃は確実に届く。
なかなかに厄介な戦法だと、モンテロッサが内心で悪態をついた瞬間、いつの間にかモンテロッサを囲むように展開されていた光の剣が一斉にモンテロッサに向かって伸びた。
振るわれるときの数倍の速さで伸縮する光の剣。
さすがのモンテロッサと言えど、これを普通に捌くのは不可能であった。
『―――仕方がない』
ぶるりと、モンテロッサの体が震え、赤黒い雷がこぼれだす。
その瞬間、まばたきの数百分の一の時間さえもかからぬ刹那で、周囲の光の剣は粉砕され、あふれ出す古代種の半数が塵と化した。
『さすがに全滅は無理であったか』
悠長に額の汗をぬぐうような仕草をしながらそんなことをうそぶくモンテロッサに対し、今の一瞬で右肩から先をもぎ取られ、何をされたのかさえ理解していないノストガウリエラは初めてその顔に恐怖を浮かべた。
『お父上殿、前々から思っていたんだがな、お父上殿は割と、その―――普通に戦うと弱いな』
いまだかつて言われたことのないセリフ。全ての生物が頭を垂れ、命乞いをするべき存在。それがノストガウリエラの自己認識だった。
しかし、しかしだ。
初めて憐みの視線を向けられ、初めて嘲笑され、そしてあまつさえ、創造主である自分自身を見下す目の前の不敬な被造物が、どうしても許せなかった。
死者復活薬の効果は個性による直接の現象ではない。
個性を用いて効果を極限まで向上させられた様々な薬品によって生み出された物。
これは古代種と言えど無効化できないため、ノストガウリエラはその効果を打ち消すための古代種の創造を余儀なくされていた。
戦いが終わり、ひと段落しているあの薬屋の寝首を掻き、生み出した古代種によって薬屋を殺させる算段だった。
そのためにはそれなりの力と、それなりの思考能力を持った古代種を生み出さなくてはならない。
さすがのノストガウリエラであろうと、多すぎる制約を搔い潜るには相応の苦労が強いられていた。
当然そのような古代種の創造には手間も時間もコストもかかる。
しかし、モンテロッサの一言により、ノストガウリエラはそういった計画のすべてを一旦白紙に戻した。
『被造物ごときが、創造主であること我に歯向かうなど、万死に値するッ!!!』
感情をむき出したノストガウリエラが古代種の生成を行いながら、光の剣をさらに高速で操り、モンテロッサに襲い掛かる。
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