第402話

「あは、あはは…………あっはははははは! そうですよね、そうなんですよね! 私がノストを復活させたわけですから“その選択”ももちろんあったんですよね! いやぁ完全に失念しておりました! 最愛の女との未来を捨て、最高の友との再開を諦め、それで呼び出したのがまさかあの化け物だとは! 始まりも、そして最後の瞬間までも、結局私達は戦いの神と共にある運命なのですね!」


 明確な自分の失態だと言うにも関わらず、確実に俺を殺せる状況だったにもかかわらず、それでも薬屋は惜しむどころか今まで見た中で最も楽しそうな笑みを浮かべている。


「見せてください。運命に翻弄された哀れな神と、運命に逆らうことでしか生きていけなかった無能な勇者の最後の戦いを! 運命を生み出す神と、運命を打倒せしめた最高の救世主との戦いを! 今日ここで、最後の救世は成る!!!」



 壊れたように笑い始めた薬屋を放置し、明らかに薬屋本体の数百倍やばい連中に視線を向ける。


「パパの介護は息子の役目ってかんじでOK?」


『くふふ、何も問題あるまいよ。むしろ、望むところだ!』


 そう言いながら周囲の武器を地面から抜き放ったモンテロッサがノストガウリエラに風のような速さで突っ込んでいく。

 

 その光景を見たノストガウリエラの表情は最初と比べると明らかに悪い。

 それほどまでにモンテロッサとの戦いは避けたかったのだろう。


 それもそのはず、まさか自分が自分を殺せる可能性のある生物を誕生させてしまうとは思いもしなかっただろう。




 さて、大怪獣バトルは向こうに任せて、こっちは歴代最強最高の生物との戦いをしないといけないわけだ。


「はじめましてだね。私の名前はユゥリィルム。君の横に浮かぶファシュライールの元仲間だよ。だけど今は―――の支配を受けていて君たちと戦わないといけないらしい。できれば殺したくはない。だから今すぐここを離れてくれると嬉しいんだけど」


「あぁ、そりゃ無理だ。どうにも色々背負い込み過ぎちまったみたいだしな」


 あれやこれやら。本当に俺には重すぎるもんを背負い込み過ぎちまってる。

 世界のことなんざどうだっていい。どうだっていいんだが、顔を知った連中が死ぬのはわりと―――いやかなりしんどい。

 そういうのはどうか俺のいないところで、俺の知らないうちにやってほしい。

 

 でも、それも無理だってんなら――――――――


「戦うしかねえだろうが」


 一閃。

 動き出しに合わせたカウンターを放ち、始まりの勇者の腕を切り落とす。

 そのまま返す刃でもう一撃を浴びせようとした瞬間、違和感を感じた。


 動き出しが見えない。気配も感じない。

 これはやばい。そう思って後方に飛び退けば目の前の空間を“なにか”が通り過ぎた感覚を覚える。


「……驚いた。まさか腕を落とされるとは思わなかった。それにその剣……」


「んだよそれ、バケモンが。構えもしない一撃で空間がねじ切られてやがる……」


 少しの時間見つめ合い、俺は再び始まりの勇者の気配を探る。

 強者になればなるほどそれは如実に現れる。

 

 現実と見紛うほどの未来を感じ取り、それに合わせて剣を振るう。

 最速の英雄と呼ばれた野郎も、天上天下唯我独尊の最強女も、古代種にだって通用したその刃が、初めて“正攻法”で破られた。


「―――なっ!」


「早い、わけではないかな。だけど限りなく認識が難しい。いや、認識はできているのかな。だけど理解に至らない。だから反応できない。そういう技だねこれは」


 あっさりと、こともなげに止められた俺の一撃。 

 今まで数々の逆境をはねのけ、数多の最強を打ち破った刃。

 チョコチと戦ったときのような鈍りはもうない。

 それどころか、肉体が若い分、全盛期より更に鋭さを増し、剣速も数段上。前世を含めて、今までで最高の一撃だったそれがこんなにもあっさりと……


「つくづく化け物だな、てめえ」


「いや、おそらく私でなければ反応もできないまま斬り伏せられていただろうね。だけど、私は世界を背負い戦っていた。油断も慢心もない。私の敗北は世界の滅亡そのものだとわかっているからね」


 そんな心構えだけで認識の切り替わりがなくなるわけがない。

 生物の限界を、根本的なルールさえも通用しない。

 それが今俺の目の前にいる存在、始まりの勇者だってのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る