第401話
黄金の装飾を身にまとい、二対の腕を組みながらふてぶてしい表情を浮かべる壮観な顔立ちのソレは、他の古代種と異なり人間の姿に酷似している。
だが、そのサイズは人間と異なり、全長は30メートルを超え、空中に立つという離れ業をなしている。
背中には純白の翼が広がり、翼の付け根には獣の顔のようなものが取り付けられ、手はドラゴンの手のように鱗に包まれ、足は肉食動物のようなしなやかかつ強靭さを感じさせる。
『おい主人、今すぐ逃げろ、あれだけはまずい、アイツとまともにやり合っちゃいけねえ!!!』
叡智の書が耳元で金切り声を上げる。
今までに見たことのない、一切のふざけを含まないその声にことの重大さを遅れながら理解してしまう。
それに、そんなこと言われなくても理解している。
言われなくても肌から伝わってくる。
あれは間違いない。序列第一位、神の父ノスト・ガウリエラであると。
「さぁ、彼も到着したみたいですし、丁度いいですね」
空中に浮かび上がった薬屋が笑みを浮かべるのと時を同じくして、いつの間にか俺と薬屋の間に黒い髪に黒い瞳の男が立っていた。
その手には髪を捕まれ、立ち上がることもできないマッカランと、足にしがみつきながらも手足がおかしな方向にねじれ、回復が始まる見込みがまるでないキルキスがいた。
「おい、どういうことだよそれ……」
「いや、申し訳ない。彼女たちがなかなか粘るもので、多少時間がかかってしまって」
朗らかに笑うその男はこちらに視線を向けると―――いや、俺ではなく叡智の書に目を向けた。
「君は―――ファシュライールかい?」
その言葉を聞いた瞬間、叡智の書から形容し難い感情が流れ込んでくる。
『何も聞かず逃げろ! この戦いはオレ様たちの負けだ! ノストだけでもやべえってのに、まさか、まさかあいつまで……』
逃げろと言われても、今動いたらあの黒髪のやつにずたずたにされる未来しか見えない。
こんな状況で動けるはずもない。
「……知り合いなのか?」
『あいつはユゥリィルム―――始まりの勇者だ』
まぁ、そうだろうな。この展開で登場するところといい、この世界でマッカランとキルキスを同時に相手にして勝てる人間なんて始まりの勇者以外に考えられない。
「これは様式美的に聞かなくてはならないところだからあえて聞くけど、千の武器を操る偉大なる大英雄、世界の半分を君に上げるから私の仲間にならないか? そうすれば君の願いは叶う。君のなくした大切な人たちを蘇らせることもできる」
そう言って薬屋は一つの小瓶をこちらに投げ渡してくる。
「選択させて上げるよ。今君に渡したものは“死者蘇生薬”だ。死んだ者を蘇らせ、完全に支配することができる。私の軍門に下れば好きなだけその薬を渡すことを約束しよう。しかし、敵対するのなら、それは今渡したものが最後だ。さぁ、君はこの状況で誰を蘇らせる? 最愛の女? 最高の友人? 最強の盾? 最凶の牙? たった一人だけ、蘇らせることを許そう。そして、この絶望的な状況を覆して―――世界を救って見せてくれ」
そうにやけながら言ってくる薬屋。
圧倒的な絶望とか言いながら、こんなもんまで出して来やがる。
本当に気分が最悪だ。
「ヘネシーは蘇らされたら間違いなく俺のことを最初に殺すだろうな、そういうやつだし。それに、ウェルシュはぶっちゃけ戦力外。心中の相手にゃなかなかいいかもしれねぇけど。イクトグラムも響もこれじゃ流石に荷が重すぎる」
そう言いながら二人と一柱とは別方向に歩みを進める。
「―――だけど、蘇らせるやつなら一人だけ心当たりがある。お前がこれを俺に渡したことを心の底から後悔するやつがな」
「問題ありませんよ。サーカスの誰を蘇らせたとしても、キルキスとマッカラン二人を同時に倒せる始まりの勇者までこちらにはいますからね。サービスですよ」
「あぁそうかい。まあ約束は破ることになっちまうが、これなら怒られねえだろよ―――ってことで、約束は破棄だ! 神に、てめえに理不尽を押し付けたクソ野郎への一発はてめえがやりやがれ“モンテロッサ”!!!」
この空間にあふれるすべての魔力を駆使し、呼び出したモンテロッサの全ての武具たち。
それに小瓶の液体をぶっかけてやれば、俺の体の中から黒いモヤみたいなものが武器の方に移動し、そしてそれは次第に姿をかたどっていく。
赤銅色のサソリのような下半身に、人間のような上半身、背中には3対の腕が浮かび上がり、甲冑のような甲殻の奥からギロリと鋭い視線がこちらを捉える。
『―――久しいな
「おう。久しぶりだな馬鹿野郎」
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